兵庫県・神戸市の“チカラ”−シンプルなパンにかける思い!−



今週は、パン屋さんの激戦区神戸市の、人気店「サ・マーシュ」におじゃまして、その美味しいパンの秘密に迫ります。オーナーの西川功晃さんにお話をうかがいました。

−「サ・マーシュ」の由来と西川さんがパン作りを始めたきっかけ−

住吉さん「まずはお店の名前なんですが、この『サ・マーシュ』、どういう意味なんですか?」

西川さん「フランス語で直訳すると、『次の段階、次に進む』という意味です。僕のイメージは、フランス料理店などで厨房のシェフが注文を受けたときの号令や掛け声から来ていて。『サ・マーシュ! さあ、いこうか!』というふうに言うと、スタッフがシーンとなって緊張が走るんです。これはいいなと思って店の名前にしました」

住吉さん「パン作りはどれくらいなさっているんですか?」

西川さん「20歳から入ったんで、もう33年ですかね」

住吉さん「もともとパン職人を目指していたんですか?」

西川さん「いや、最初は、僕はお菓子が好きなので、お菓子屋さんになりたかったんですが、縁あって大きなパン屋さんに入って、そこでパン作りの面白さ、奥深さを知ったんですね。知れば知るほど、パンがわからなくなって、わからないことにコンプレックスを持つようになって。シンプルなバゲットがなんでこんなに美味しいんだろうと。どんな複雑な配合なんだろうと思うと、いたってシンプルな配合だった。粉と水とイースト、塩。特別な配合は何もないんです。でもなんでこんなに違いが生まれるんだろう。そこがパンづくりの面白さなんだとわかったんです」

住吉さん「結局、違いは?」

西川さん「パンは配合じゃない。如何にパンを大切に気を使うか、過保護すぎるのもだめですが。よく子供と一緒だといわれますね。今日の気温と湿度で捏ねた生地がどう成長しているか、指先の神経を研ぎ澄ませて、どこに置くかを考えて、テーブルの上に置くか、下に置くか、布をかぶせるか、温度の違いによって発酵具合が変わるから。ほんとに子供と一緒です」

住吉さん「西川さん、このお店を開くまで紆余曲折があったようです。最初は広島のアンデルセンに入社したそうですが…」

−アンデルセンでの失敗から学んだこと−

西川さん「とにかくアンデルセン、タカキベーカリーですね。入ったらパンをやってください、と。入ってから3年間は、毎日ありえないくらい失敗ばっかりしていました。ありとあらゆる失敗をしてきました」

住吉さん「どんな失敗を?」

西川さん「材料間違い、計量間違い、生地を間違えたとか、とにかく、ひどい。あまりにも悔しいので、毎日、失敗したらそのことで何を学んだかを先輩に報告にいっていました。全卵と黄卵を間違うとこんなパンになるんですね。砂糖の分量を間違えるとこんな味のパンになるんですねって(笑)」

住吉さん「広島のアンデルセンに入社してパン作りの基礎を学んだ西川さんは、その後、ビゴの店など、いくつかのお店で修業を積み、フランスにも渡って、パン作りやフランスの食文化を学びました。そんな中、神戸のフレンチの草分けともいえる、コム・シノワグループの荘司オーナーに出会いました。荘司さんと本格的に一緒にパンに向き合うのは、西川さんがフランスから戻られてからです」

−コム・シノワへ入社してからの役目−

住吉さん「その後また、日本に戻ってこられて」

西川さん「ちょうど震災の後だったんです。帰ってきて、三ノ宮のコム・シノワのオーナーに会いにいったんです。『大丈夫ですか?』って。オーナーはげっそり痩せてしまって。『待ってたんだよ』って言ってくれて。要するに料理するにもお菓子作るにも、パンが原点なんだと。震災前にも、オーナーとパン作りについて盛り上がったことはあるんです、こんなパンは儲かるとか。でも震災後のオーナーの求めているものは全然違っていました。とにかくパンに全てをかけたい、パン作りを舞台の上にあげたい、と。だからこそ、コム・シノワのベーカリーは有名になり日本のベーカリーの新しい世界を作りあげたんだと思います」

住吉さん「それで、コム・シノワに入られるわけですね」

西川さん「そうです。それまで僕は普通のパン職人だったんですが、コム・シノワに入って、オーナーが料理の感性と思い、ストーリーをパン職人にどんどんメッセージを伝えてくるんですよ。それを具現化するのが僕の役目でした」

住吉さん「たとえばどんなお題が?」

西川さん「『午後の牧場風なパンを作ってくれる?』って言われて。それは、最後のメインディッシュに子羊が出てくるんですね。それが羊の形をした生地で包まれているんです。その横に添えるパンのことなんですけど。角の形していまして、藁で包まれているんです。その藁をスモークかけていて、口に運ぶときに牧場の香りを感じるということなんです」

住吉さん「午後の牧場風、すごいですね。西川さんは他にも荘司さんの難題に挑戦したようです。たとえば『縄文時代から届いたヒナ鶏のパン』。土器に見立てたパンにヒナ鶏を包み、焼き上げたそうです。そんな2人の真剣勝負ですが、やがて西川さんは、独立の道を選びます」

−「サ・マーシュ」の将来−

住吉さん「独立してこのお店をオープンしようと思ったきっかけはあったんですか?」

西川さん「そうですね、一番大きなきっかけは、コム・シノワでやりすぎたというのがあったと思います。荘司オーナーは、実は素朴でいいよという人なんです。でも、僕はどんどんいろんなものを感じてしまい、どんどんイメージが膨らんでしまうんです。たとえば、お料理を食べるより、調理パンを食べたほうがいいんじゃないかって。ウズラ肉を入れたり、ウズラ肉の中にキノコのリゾットを入れたり、キノコのリゾットの中にフォアグラを入れたり、トリュフを分厚く切って、フォアグラ、トリュフって重ねてポテトパンの生地で包んだり、やりすぎですよね(笑)。自分はパン屋じゃないなって。周りのお店に似たような商品がふえていくんです。やったら売れるんだろうけど、やらなくてもいいようなことをやってる気がして。なんだか嫌な気持ちになって」

住吉さん「で、このサ・マーシュでは?」

西川さん「できるだけ引くということを心がけて。シンプルに戻るというか。いろんな素材は使いますが、素朴な魅力を感じていただけるお客さんを育ててみたかった。たとえば、着飾った女性には目がいくけど、スッピンとは言いませんが、身なりもキチンとしていて、シンプルな中に魅力がある、そんな人にしてみたかったんです」

住吉さん「で、必ずお店の人が説明してくれるんですね、マンツーマンで」

西川さん「これは、先ほども言いましたとおり、パンがシンプルで、見た目が着飾ってないので、振り向いてもらえないタイプ(笑)。このパンの良さをどうやって伝えようかと思ったときに、なかなかプライスカードを読んでもらえない、伝わらない。それよりもこうやって話したほうが伝わる。このパンはこういう素材でこうやって作ったんですよって。『じゃ今日はこのパンどうですか? ポトフに合わせたい、チーズフォンデューに合わせたいってことであればこれはどうですか?』って話せるんです」

住吉さん「では、そのスッピンに近い、着飾らないけど美味しいパンをいただくことにしました」

−「サ・マーシュ」の人気パンを試食!−

住吉さん「サ・マーシュの一番人気というパンを数種類、持ってきてもらいました。試食してみたいと思います。こちらがカンパーニュ。私の顔より大きなパンですが、天然酵母だそうです。中がもちもちしています。わあ、天然酵母だから中が発酵していてちょっと酸っぱい香り。外は香ばしく焼けています。中がもちもち、外がぱりっとしていて、噛めば噛むほど美味しさが拡がります!」
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