写真家にとって最高の条件

篠山紀信さん(写真家)×矢吹春奈さん(女優)

2016

10.30



現在、品川にある「原美術館」では、「篠山紀信展 快楽の館」が開催中。これまでの篠山さんの写真展とは違い原美術館でしか実現しえない今回の試み。この斬新な展覧会の裏側に迫っていきました。


篠山紀信「快楽の館」2016 年 ⓒKishin Shinoyama 2016

色気のある美術館でヌードを飾る



邸宅が元になった原美術館を篠山紀信さんがカメラによって《快楽の館》に変貌。出品作品の全てを原美術館で撮り下ろした新作で、展示されているのは、矢吹さんはじめ、33名にものぼるモデルを起用したヌード写真。実在の空間と展示された写真の中の空間が交錯する幻惑的な世界が広がる展覧会になっています。

篠山
原美術館から”展覧会をやりませんか?”と話がきたところから始まったわけ。原美術館は品川の閑静な住宅街にある、今から80年くらい前に建った西洋館で、すごく建築的に美しいところなんですよ。そこが、38年前から美術館になっているんで、建物にはいろんな歴史がある。戦争も経験しているし、戦争直後には進駐軍がきて、接収して、その後、ああいう広いところに家族が住むのもってことで美術館にして38年経っているんですよ。だから、普通の白い壁がある美術館とは違うんですよ。曲線の中に入っていて、建物自身全体に色気がある。足を運んで、作品を見て、お茶を飲んで、庭を散策したりして帰っていく。そこで展覧会をやってくれという話があったので、作品は、そこで撮ったらいいんじゃないかと思ったんだ。

矢吹
そうなんですね。

篠山
普通の美術館だと壁はあるけど、窓はないじゃないですか。でも、原美術館は、邸宅だから窓もドアもある。廊下から自然光が入ってくる。昔の家具やピアノもあったりして、こんなに色気がある空間は他にはないな。だから是非、ここで撮りたい。全部ここで撮影して、その撮った場所に作品を返して・・・。

矢吹
そのアイディアもすごいですよね。

篠山
”それは、どうですか?”って館長に言ったら、”是非やってください”って言うんだよ。普通の公立の美術館だったら条件がいろいろたくさんあるのだけどね。館長に、”こんなセクシーな空間の中でヌードを撮りたい”って言ったら、”どうぞどうぞ”っ言うんですよ。館長がいいって言ったら何やってもいいんですよ。写真は撮る場がすごく重要でしょ。その場をどうぞ自由に使ってください、表現するものもあなたの自由ですよ。こう言ってくれたら写真家にとってこんな最高なことはないんですよ。

矢吹
そうですよね。


《参考 原美術館の建築 1938 年竣工当時の原家邸宅外観/撮影者不詳》

西側=正面玄関外観


篠山紀信「快楽の館」2016 年 ⓒKishin Shinoyama 2016

「快楽の館」に込めた思い



篠山
 「快楽の館」というタイトルですが、原美術館自身もステキな館で、そこに美しい女性たちが毎日集って来て、いろんな競演が繰り広げられるというのが考えなんですよね。タイトルに関しては、フランスの小説家のアラン・ロブ=グリエによる「快楽の館」という本があるのですが、この原題は「ランデブーの館:出会いの館」なんですよ。それを日本語訳にした人が「快楽の館」にしたんですね。それもまたステキな小説なんですけど、”これだ!”と思って、「快楽の館」というタイトルを付けたのね。チラシとかポスターには、夕方ちょうどライトがつきはじめて、暮れなずむ頃、月がぽーと出て、ステキな館の中に3人の裸の女の人が館長を誘っていくという写真です。誘っているのは壇蜜さんで。

矢吹
すばらしいですよね。あの写真!

篠山
 あのポスターを見た人は快楽の館でこんな写真で、この展覧会は、そうとうエロいんじゃないかなと期待すると思うのですが、それは、ちょっと違う。エロさだけではないピュアな感じの色気。エロチシズムが根底に流れているという作品なんですよね。

矢吹
作品が出来上がるのにどれくらいかかったのですか?

篠山
なんと、撮影は、たった10日間なんですよ。

矢吹
10日間しか撮ってないんですか!

篠山
ひとつの展覧会が終わり、次の展覧会が始まるまでしかなかったから。その間は、作品を搬出したり、痛んだ壁を塗り直したりしながら次の展覧会の用意をするんです。だから空いている時ってあまりないんですよ。僕の作品は、がらんとしてないといけないから。そうなると10日間が限度なの。10日間で全部やるって聞いた時、”盛り上がって、全部って言ってしまったけど、撮るのもオレなんだなぁ。こりゃ大変なことになってしまったなぁ”って思ったよ。でも、実際10日間で撮ったんですけど、結局は77点かな。来てくれたモデルさんは全部で33人。

矢吹
おー。

篠山
この日には、この場所で、こういうイメージで小道具はこうで、スタイリングはこうしてとかメイクはこうしてとか、お昼の弁当はどうしようかなどいろんなこと考えて。

矢吹
先生、お弁当まで!

篠山
弁当だってまずかったら、いい写真撮れないよ。

矢吹
私もこの作品に参加させていただいて、撮影の当日は華やかでした。ユリとかも飾ってあって、チョコレートもいっぱいあったりとか。

篠山
特に春奈さんが来た時はポールダンサーたちが来て、庭でポールダンスを踊りながら撮るというのが、春奈さんを撮った後に予定されていたんですよ。そうしたらあなたは自分の撮影が終わった後、帰りもしないでポールダンスの側に来て、一緒になって喜んでころげまわっていたもんね。

矢吹
あの時楽しかったですよ。縄跳びをしたのは何年ぶりだろう?

篠山
ポールダンスはずっとポールの上からぐるぐる回っているでしょ。その向こうに動いているものが欲しくて、それで大きな縄跳びがいいんじゃないと思って。

矢吹
それもすごい!その場で考えたんですか?

篠山
一日前に考えたんだけど。それで、縄跳びを買って来て、当日”飛んでいるの誰よ?”聞いたら、”矢吹春奈です”って、矢吹さん、帰っていなかった。

矢吹
もう楽しすぎてしまって。先生の撮影は毎回楽しいんですよ。たくさん女の人もいて、みんな裸だし、おいしいものいっぱいあるし、まだここに居たいみたいな。あの日も天気がすごくよくて、裸でお庭で品川にいられるなんてまずないじゃないですか。気持ちよかったですね。

篠山
「春奈」という写真集とは違った元気な矢吹春奈がいてすばらしいですね。



篠山紀信「快楽の館」2016 年 ⓒKishin Shinoyama 2016


展覧会名:「篠山紀信展 快楽の館」

会期:2016年9月3日[土]-2017年1月9日[月・祝]
会場:「原美術館」
東京都品川区北品川4-7-25〒140-0001
Tel 03-3445-0651(代表) 

開館時間:11:00 am - 5:00pm(祝日11月23日をのぞく水曜は8:00pmまで/入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日 月曜日(祝日にあたる1月9日は開館)、年末年始(12月26日-1月4日)


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