大人ならではの恋愛の魅力

平野啓一郎さん(小説家)×福田進一さん(クラシックギタリスト)

2017

02.05



クラシックギタリストと国際ジャーナリストとの大人の恋愛を描いた平野さんの小説『マチネの終わりに』。その主人公は、38歳と40歳とあって、この小説は、酸いも甘いも噛み分けた40代に近い読者からの反響が大きかったそうです。


平野さんが書きたかった恋愛小説



平野
小説の広告でも恋愛小説と謳っていて、テーマは、多岐に渡るんですけど、恋愛小説だからためらっていたという人もいるんですよね。いわゆる恋愛小説と言うと、ふたりが全てを振り払って、恋に溺れていくような展開が多いので、自分の人生の中で仕事がまだあまり大きな存在でない若い時はそういうストーリーに共感しやすいですけど、だんだん人間関係や仕事などいろんなことが複雑に人生に関わってくると全てを投げ売って恋愛というストーリーを読んでもしらけると言うか、この人たちはそれ以外、人生の充実感はないのかなと思って、距離を感じてしまうような。

福田
ロマンとは別の次元で現実味がないんですかね。

平野
そうですね。だから、今回は、それぞれの登場人物が自分の人生を生きていて、すべきことがある中で、それでもどうしても相手に惹かれていく感情があるような恋愛を描きたかったんですよね。でも相手の人生を尊重するというのは大事だと思いますね。それぞれの人生があってそれを尊重しながら愛情が交わされるというのが理想だと思いますけどね。”恋愛”が、こちらの人生を飲みこんでいくようなものと言われると辛いですし・・・。

福田
結婚して、奥さんが支えるみたいな結婚もあるけど、この小説に登場する人たちは違いますよね。お互い仕事と結婚している人同士の恋愛は一般の人からみると、それが憧れでもあるのかなという感じもしますね。




相手の人生を尊重する



平野
結婚となると、20代、30代の頃とは、違いますよね。女性で子どもが欲しいなと思うとシリアスに考えざるおえない年齢ですし、キャリアの上でも40代は会社ではいいポジションになります。どういう風にプライベートと仕事のバランスを取るかが、若い頃の恋愛と違うと思います。大人になると相手の事情とかもわかるし、それを配慮できる年齢に自分がなってしまっているがためにいろいろと考えてしまう、年齢相応の恋愛があって、やっぱり若い時とは違うんじゃないかなという感じがしていますね。

福田
純粋に恋愛は何歳でも出来ると思うんだけど、燃焼の具合が違うじゃないですかね。

平野
そうですね。

福田
小説になると、ほとんどが若い人たちの燃える様な恋が中心で、我々が読む時は、ある種の若さへの憧れみたいのがあるけど、この小説の恋愛は全然違う。もっと配慮のある、もっと低い温度で燃焼しているような恋愛になりますよね。

平野
そうですね。ものすごい炎が上がっているというよりも主観的に、すごく熱く感じられるとか大げさではないけど、そこに年齢相当の強い感情の高揚があるなど、そういう微妙なところが書きたかったんですよね。

福田
すごくユニークな小説だと思うんですよね。そこに音楽が関わってくるし、片や戦地に行っているジャーナリストの視点とか、いろいろな角度から描かれているので、おもしろいですよね。

平野
身も蓋もない話ですけど、人の恋愛は、けっこうどうでもいいと思うんですよ。よっぽど登場人物たちに魅力があって、その人たちに興味がないと恋愛そのものにも関心が持てない。だから恋愛そのものを描こうとして登場人物の情景が疎かになると自分にとって関心のない人の恋愛をどうして読まないといけないのかなとなってしまうので。

福田
勝手にやっていればってことですよね。

平野
だから登場人物がじゅうぶんに魅力的であれば、その人たちが惹かれ合ったり、別れたりすることに読者も自然と共感して、自分を重ねたりできるんじゃないかなと、それはけっこう考えましたね。




平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』は、毎日新聞出版より発売中です。

小説全編にわたって登場する多数のギター曲を福田進一さんの演奏で収録したタイアップCD『マチネの終わりに』から日本コロムビアから発売中です。

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