「好き」を仕事にすること

松浦 弥太郎さん(ウェブメディア「くらしのきほん」主宰、エッセイスト)×水野 仁輔さん(カレー研究家)

2018

02.18

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暮らしに関する本を数多く手がけたり、講演会を行ったり、さらには、中目黒にあるセレクトブックストア「COW BOOKS」の代表でもある松浦さん。今では当たり前となったセレクト書店の先駆け的存在として知られています。そして、水野さんは、カレーやスパイスに関する著書を40冊以上も出され、カレーやスパイスの専門家として、多岐にわたり活動されています。

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自分がどれだけ打ち込めるのか



松浦
僕も水野さんもある種、好きなことを突き詰めて、それは生き方にもなっているじゃないですか。

水野
そうですね。それで生きているんですからね。突き詰めることで生きてる。

松浦
ただ世の中的には、好きなことを突き詰めて生きることはそうそう出来そうで出来なかったりするんじゃないですか。おそらく嫌いなことをする人はそんなにはいないとは思うんですけど、でも自分の許容範囲の中でいいだろうということで。逆に好きなことを突き詰めたり、他を多少犠牲にしてもそこにつぎこんでいく生き方は見ようによっては素敵に見えるかもしれないけど、ちょっと世の中からドロップアウトしているんじゃないかと思うんですよ。

水野
僕は20年近くサラリーマンをやりながら、もう一方でカレーの活動やっていたんですけど、よく聞くセリフで「好きなことは仕事にしないほうがいい」。

松浦
みんな言うよね。

水野
僕はよくわからないんですよね。サラリーマンをやっていた時は、会社の仕事にそんなに不満がなかったんですよ。楽しかったんですよ。カレーの活動も好きなことだから空いている時間のほとんどをカレーにつぎこんでやっていたんですけど。カレーだけで生きている人に対するコンプレックスがすごい強かったんですよ。自分自身に対して、所詮おまえは会社から給料もらって好きなようにカレーのことをやっている、カレー屋さんは人生捧げてカレーで生きているんだというコンプレックスがずっとあって、だから好きなことを仕事にすることはどちらかというとサラリーマンをやっていた僕にとっては憧れる生き方で仕事にしないほうがいいという考えはなかった。

松浦
会社勤めしている時もカレーのことについては突き詰めているじゃないですか?

水野
そうですね。

松浦
なので、それは物理的な話でどれだけ自分がそれに打ち込むか、というのは自分の思いようじゃないですか。

水野
僕にとって優先順位もあって会社の仕事がそれなりに楽しくて、充実していたとはいえ、どっちが大事ですか?と言われたらカレーのほうが圧倒的に大事だったんですよ。だからまわりからすると副業でカレーをするようなイメージで「副業が活発になってきたね」とか「どっちが本業かわからないね」とか途中から言われるようになるんですよ。でも僕にとっては本業副業の感覚がまずないというか、会社の仕事は会社の仕事、それ以外のほぼ全ての時間をカレーに注げることは自分にとってカレーは一番大事なものなんですよね。


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自分に合う仕事の見つけ方



松浦
僕は、本の仕事以外にも会社をやっていたり、メディアを作ったり企業のお仕事をしているけど、世の中でいろんな仕事がある中で、自分がやったほうが上手くいくことをいつも探しているんですよ。それが、ある種の自信というか自負で、僕にとってのモチベーションであり、一歩踏み出す力になるんですよ。

水野
僕は、最近なくなったんですけど、かなり長い間、カレーの活動で意識していたのは、とにかく誰もやっていないことを自分がやると決めていたんですよ。それを自分がやって上手くいくかどうかは別として、とにかく探して、自分がアウトプットする。でも、そういう時期は、今思えば自分に自信がなかったんだと思う。ナンバーワンよりもオンリーワンをたぶん探していたんですよ。オンリーワンであることは他がやっていないから、やった瞬間にトップに立つんですよ。そういうものを探していた時代があって当時、カレーの本を全部読んで、どの時代に誰がどういうこと言っているのかを頭の中にインプットした中で、誰もやっていないものを僕がやろうと思っていたんですが、ある時、全部処分したんですよね。それはもう過去に誰かがやっていたなんて気にしなくていい、自分がおもしろいと思うものをやれば、それは僕のやり方になるわけだから、まわりの人を気にするのはやめよう。それは今思えば、自信がついたんでしょうね。

松浦
自分がやったほうが上手くいくという意識で世の中をいつも見ていて、それを見つけた時に自分ができるように何かしらの働きかけをしていく。もう一個、素朴な意識があって、なんとなく見渡すところに愛情不足なものを探しているんですよ。

水野
なるほど。

松浦
ここは、愛情不足みたいながあるじゃないですか。そこに気付ける自分がオンリーワンなんですよ。競うではなくて自分だけが気づくことができる愛情不足の何かを見つけて、それは僕しか見つけていないんだから、人よりも上手くできる。ジグソーパズルがあって、いくつか空いているわけで、それを自分が見つけて、自分のできることでひとつひとつ埋めていくことなのかなぁ。


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