ひらの作品を読み解く鍵

コムアイさん(水曜日のカンパネラ)×ひらのりょうさん(アニメーション作家)

2018

07.27

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ひらのさんは、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で新人賞を受賞するなど現在、注目を集めるクリエイター。その作品は、お化けや、歯、ギターなどを主人公にするという奇想天外な発想がありながらも、身近な生活に根ざしたテーマでストーリーが描かれているのが特徴。奇妙ながらもPOPな作風は多くのミュージシャンやクリエーターからも絶大な支持を集めており、コムアイさんもそのひとりです。


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境界線を越える



コムアイ
ひらのさんと話していると、目の前に見えている景色と、そうではない景色を重ねたりとか、景色がゆがんでいたり、曲線だったり、ぼかされていたり、宇宙空間にワープしたり、そういう境界線を引いたら、そこに、ひらのさんぽさが出ていますよね。

ひらの
全部が緩やかにグラデーションになっているという感覚がありますね。ジャンル全部が違っても、結局は繋がっている感覚が多分それで、僕、怖い話とか大好きでお化けとか見えないものがすごい好きなんですよ。普段、生活してる中で見たりとか、感じたりしないですけど、そういうのがあるのかなっていうイメージ、境界線が曖昧になっていく瞬間は個人的にすごい好きだから。

コムアイ
私もそうですね。ライブでも、異界がパックリ開いてる時が好きな瞬間で。

ひらの
特にライブはありそうですね。

コムアイ
ありますよ。たまに。うまいこといくと。めったにないですけど。

ひらの
それは貴重ですね。

コムアイ
わたし諸星 大二郎さんという漫画家が大好きで。

ひらの
僕もめちゃくちゃ大好きですよ。

コムアイ
境界を超えるのが上手じゃないですか。

ひらの
お化けの漫画とかミステリーとか。

コムアイ
わたしも見えないけど、そういうの大好きです。

ひらの
何かいるんじゃないかとか、でもそういうのは身近にもあると思いますけどね。ふと回ってきたお釣りが日本中を巡り巡って、このお金が経験しているものすごい出来事があるんじゃないかな、そこは想像力で、そう考えるとすべてに物語がある世界になっていくから、服も思いますもん。

コムアイ
思います。

ひらの
どこ製というのを見て、この服は中国で作られたけど多分アメリカで綿が育って、そのどこまで行けば、辿り着けるのかを考えると身近にあるもので地球全体に広がっていく、それがやっぱりあの境界がなくなってく感覚。

コムアイ
誰かが着ていた服は、その人にしか感じられない感覚はありますよね。ないですか?

ひらの
わかります。

コムアイ
古着とかも顔を知らなくてよかったなと思うけど、もし知っていたらもうその人の服にしか感じられなくて。

ひらの
その人が宿っているじゃないけどシルエットというか、残ってる物はありますよね。

コムアイ
新しい古着は自分になじませる期間を感じます。

ひらの
でもだんだん消えていくんだ?

コムアイ
そうそう、マーキングみたいな、落ち着くようにする時間というか、

ひらの
でもまたそれを売ったら、コムアイさんと知らずに着ていても、この感覚を消さなきゃという人が現れて・・・。

コムアイ
そうそう。

ひらの
その輪廻じゃないけど。

コムアイ
無限ループがおもしろいですよね。


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“歯”にひかれる理由



コムアイ
母は家で亡くなったんですよ。ベッドとかに母のよだれとか絶対残っていて、さっきまで本人のものだった体液とか髪の毛とか、すごい不思議でした。その全部を生み出している源がシュッといなくなっただけで、最初は、ほぼ99%ぐらい残ってるけど、掃除をしたりしてくうちにだんだん減ってくけど、0にするのは難しいし。

ひらの
僕、そういうの大好きなんですよ。残っているものとか、多分そこにあったであろう痕跡とかって。僕の「ファンタスティックワールド」の漫画のキャラクターが「歯」なんですけど、地球の中の世界を舞台に人間の男の子の「ピコ」って言う男の子と歯のキャラクターの「歯」ちゃんっていう名前、そのままなんですけど、ふたりがバディーで地球の中を冒険するって漫画なんですけど、歯もやっぱり、その感覚にすごい近いんですよね。

コムアイ
そうですね。

ひらの
今一番古い哺乳類の歯の化石だと、1億4500万年ぐらい前ぐらい、1mmくらいのやつが見つかったりとかしてて。

コムアイ
そうなんだ!

ひらの
それは、よだれとかもそうだけど、今はもういなくなった人とか物のすごい強固のメモリースティックみたいな感覚ですごくロマンを感じる。

コムアイ
うん、メモリースティック的ですね。DNAとか探れたりするじゃないですか。

ひらの
しますね。歯だと、男か女かもわかるし、どういう生き物かも分かるし。

コムアイ
歯は人間のものなのに固くてしっかりしているからおもしろいですよね。髪の毛や皮膚とかよだれと消えやすいけど。

ひらの
歯は変なんですよ。

コムアイ
今、ひらのさんが歯を抜いて、ぽろっと落っことすじゃないですか、そしたらそれに足がはえて”miniひらの”として動き出しそうな感じが。

ひらの
それすごい不思議じゃないですか。一番、最初に歯に興味を持ったのは歯医者さんに歯のキャラがあるじゃないですか。

コムアイ
よくありますね。

ひらの
目と鼻と口が付いてる。歯は、体の一部なのに擬人化されてるって。

コムアイ
余裕で擬人化されていますね。

ひらの
擬人化って人じゃないものを人にするものであって。

コムアイ
なるほど。

ひらの
でも歯は人の一部でなんだこれ?っていう

コムアイ
さっきのお化けじゃないけど。

ひらの
そこからの歯の本を買いまくって・・・。

コムアイ
え!そうなんですか!

ひらの
歯に惹かれた理由に何があるだろうと思って、わかんないけど、とりあえずそういう時は資料を買いあさるようにしてるんですよね。

コムアイ
真面目!それは写真とか絵よりも、歯について研究している人のってことですか?

ひらの
そうですね。歯の文化史とか。

コムアイ
そんなのあるの?

ひらの
あります。あります。民族によって歯を削ったりとかしてアイデンティティを示したり。

コムアイ
お歯黒とかもそうかも。

ひらの
あとは法歯学といって、事件とかで遺体の歯からどういう事件だったかを推理するみたいな。

コムアイ
おもしろい。何を食べたか、飲んだりとかわかる?

ひらの
残されたものをどう読み解くか、そういうのに興味があるから、僕が歯に行き着いたんだっていうのが、それでやっとわかるみたいな。

コムアイ
主の面影が好きなんですね。

ひらの
そうですね。そういうのを読み解くのが好きで、それが物語になっていく感じが多いですね。僕の場合は。

コムアイ
おもしろい!


映画「猫は抱くもの」は、現在、新宿ピカデリー他、全国ロードショー中です。

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