「ドン・ジョバンニ」の魅力

井上道義さん(指揮者)×森山開次さん(ダンサー、振付家)

2019

01.04

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ヨーロッパで広く言い伝えられてきたドンファン伝説をもとにしたオペラ「ドン・ジョバンニ」。最強のプレイボーイにしてサイテー男のドン・ジョバンニに振り回される3人の女性の恋模様と衝撃的な最期を描く名作です。

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3人の女性に自分を重ね合わせる



井上
ドン・ジョバンニは、女から見るとどうなんだろうね。

森山
男性の話のようであって、女性がすごく描かれている舞台だと思います。ドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィーラ、ツェルリーナ、それぞれ性格が違う3人の女性がドン・ジョバンニと接する中で私はこのタイプかな、私はこっちかなと見ながらシンクロするんじゃないでしょうかね。ツェルリーナは村人の娘で若いんですけど、ちょっと小悪魔的な様子がありそうな恋に初々しい華々しい時期に生きてる。ドンナ・エルヴィーラは、ちょっと昔に捨てられた女、ドン・ジョヴァンニを復讐してやると言いながらも、実際に会うと、甘い言葉にふらふらっとなってしまう。

井上
女性は、一人の中にこれ全部持っているんだと思う。ツェルリーナは一番若く、ドンナ・アンナは品行方正な貴族的な部分、エルヴィーラは嫉妬に狂って男からしたら見たくもないような、ただ、こういう女こそ女というのがエルヴィーラにもあるし、みんなひとりの中にあるんだよ。それを3人に分けてあるからよくできているんだ。

森山
本当によくできていますよね。


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舞台装置は子宮の中


井上道義さんの信頼を受け、今回、初のオペラ演出に挑む森山開次さん。ダンサーとしての視点で、「ドン・ジョヴァンニ」をどのように生まれ変わらせるのかにも注目が集まっています。

井上
僕は彼に演出を頼んだから全部お任せして、なるべく口を出さないつもりなんだけど、今回の舞台装置が、子宮の中だっていうの。ありえないんだけど、なんでそんなこと考えたのかここで説明しなさい!

森山
(笑)。僕も井上さんからこの話を伺って、いろんなイメージがわーと湧いてきたんですけど、昔、ドン・ジョバンニ役をやったこともどこかにありましたけど、僕はダンスをずっとやっているので、本格的なオペラの演出を真っ正面からやるにはやっぱり難しさがありますし、僕にくるのであれば、身体表現を掛け合わせていく、もちろんオペラも身体表現があるのでダンスは特別なものではないかもしれないですけど、もうちょっと中身のことに突っ込んで身体表現をしていく中では、大きな枠組みが僕の中ではちょっと必要だったというのもあって。僕がこのドン・ジョバンニを改めて見て感じたことは、やはり女性の話のような気がすごくしたんですね。女性の体内の中でドン・ジョヴァンニが暴れているみたいなイメージを持ったんで、そこを作りたいですね。

井上
女に対するちょっと差別的というか、侮蔑的な言葉で「女は子宮で物を考えるからな」って言うけれど、男性は、子宮がないからすごくそれってわかるんだよね。だから我々と違う思考の何かを持っているんで、理解しようとしても理解できない。それを表現するとそういう言葉になっちゃう。

森山
言葉が難しいですけど、やっぱり男性なんで、その身体感覚、子供を産める身体を持っている女性の感覚はどうなのかなと興味はあるんですよね。ドン・ジョヴァンニが女性に対する興味と同じように、僕も女性を描くぞという興味で今回向かっていくと、シンクロできるかなと思ってます。


モーツァルト 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』全幕 東京公演は、東京芸術劇場コンサートホールで2019年1月26日(土)と 27日(日)に上演されます。

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