究極の片思いとは?

角田光代さん(作家)×岸井ゆきのさん(女優)

2019

04.19

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「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。その後も、直木賞や川端康成文学賞などを受賞し、数多くのヒット作を生み出している角田さん。家族や恋愛をテーマにした作品を多く発表されています。そんな角田さんの小説のひとつ、「愛がなんだ」が、この度、映画化。この中で主人公のテルコを演じているのが、岸井ゆきのさんです。ドラマや映画、最近では、朝の連続テレビ小説に出演するなど今注目を浴びている女優さんです。

映画化された「愛がなんだ」



岸井
「愛がなんだ」のテルコをやると決まった時、まず、原作を読んで、本当にこの役を私ができるんだという思いがすごく大きくて、主演という話だったんですけど、「愛がなんだ」のテルコを演じられるのがすごい嬉しいなと思ったんですよね。

角田
ありがたいです。テルコは過剰に人を好きになって、ストーカーという言葉が正しいかわからないけど、あんまり共感を得られるような人物像ではないと思うので、そう言って頂けて本当に嬉しいです。私は、自分がなくなってしまうほど、誰かを好きになりすぎて、振り回されて、周りから見たら痛いし、もう止めなよと言いたくなっちゃう人として書いていたんですけど、映画を観ると、テルコはすごく強くて、かっこよく、羨ましくすらなってくるような女の子になっていて、ある種の爽快さを感じながら観ていました。生身の人が演じるのは凄いことだと思うし、岸井ゆきのさんの女優のキャラクターもあるんだと思うんですけど、どこかやっぱり凛としたところがあって、すごく芯が強そうな感じが、きっとうまい具合にすごく出たんだと思う。


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恋愛からはみ出た愛


角田さんが「愛がなんだ」を発表したのは、2003年。OLのテルコは、とあるパーティーで偶然知り合ったマモル、通称マモちゃんに、ベタ惚れ。彼から電話があれば仕事中に長電話をしたり、デートとなれば即退社。全てがマモちゃん最優先で会社もクビ寸前。そんな純度100%の恋愛小説として注目を集めました。

角田
「愛がなんだ」を書いた時は、生き物を飼っていなかったんですけど、9年前に猫を飼い始めたんですよね。映画で、テルコのマモちゃんに対する想いを見てると、ダメなところも弱いところも含めて好きで、何かしてあげたいというのは、私が猫に対する気持ちなんですよ。どんなことしても嫌いにならないし、吐いて汚しても粗相をしても片付けとか嫌じゃないし、猫のためなら飲み会も切り上げて帰るし、旅行も行かなくなったんですよね。その気持ちを知ってから映画を見ると、すごいテルコは、大きい人なんですよ。私は猫だからできるけど、人間だったら、やっぱり、こういうとこが嫌とか喋るし、嫌なこと言われたら嫌だけど猫だったらいいんです。これだ、テルちゃんの気持ち。テルちゃんでかい!と思った(笑)

岸井
確かにマモちゃんが何をやってもずっと向かっていきますもんね。これは愛なのか恋なのか分かんないとテルコは言うんですよね。だから愛ってなんだろう?と思いましたね。これだけ人間が生まれて頭脳が発達しているのに答えがでないものじゃないですか。それって答えがなくていいものなのか、それぞれに答えがあるものなのかっていうのは、私はまだわかんないんですけど。これは愛だって決めつけなくていいんだなって思いました。テルコがマモちゃんに向かって行っちゃうことがちょっとおかしく見えたりするかもしれないんですけど、すごい素直でシンプルなんですよね。だからみんなテルコになるんじゃないかと思うところですけど、みんなストッパーがどうしてもある。でも動いちゃったのが本当なんだから。

角田
30歳前後の時に恋愛は勝ち負けだとどこかで思っていて、いっぱい好きな方が負けで、たくさん電話をした方が負けとか、ご飯に誘う回数が多い方が負けとか、何かみっともないことをした方が負けっていう気持ちがすごく強くて、それがストッパーになっていて、これ以上やったらもっと負けるから自分が負けるのは嫌だから、ストッパーをかけていた部分がある。この映画を見て、勝ち負けなんかなかったと思って、恋愛は、全然勝ち負けの勝負じゃないことを30代の自分に教えてあげたくなったんですよね。テルちゃん全然負けてない、と言いたくなったので、コントロールできないものに巻き込まれる体験は、あってもいいのかもしれないなと思いますね。

岸井
だから過去テルコだった人も見て欲しいし、これからテルコのようになる人にも見てほしいし、本当にいろんな人が見て、いろんなこと感じてくれたらいいなと思ってます。

角田
もし、これがもうちょっと恋愛映画っぽい恋愛映画だったら、多分50歳を過ぎた自分はあんまりも見なくてもいい、自分には関係ないと思うんですけど、恋愛というよりも、そこからはみ出た本当に愛や、人に向き合う事ってなんだろうという、ちょっと恋愛に収まらない様なものを書いているので見てよかったなと観客として思うんです。だから本当に年齢を問わない映画だと私も思います。


映画『愛がなんだ』はテアトル新宿ほか、全国ロードショー中。
【映画『愛がなんだ』】

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