好きな人と同化したいという恋愛

角田光代さん(作家)×岸井ゆきのさん(女優)

2019

04.26

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登場人物たちをリアルに描き、心を揺さぶる作品を多く発表されている角田さん。「対岸の彼女」や「八日目の蝉」など、数々のヒット作を生み出しています。一方、ドラマや映画、最近では朝の連続テレビ小説に出演するなど活躍が著しく、注目を集めている岸井さん。

現在公開中の映画「愛がなんだ」では、原作を角田さんが、映画の主演を、岸井さんが務めています。岸井さん演じる主人公のテルコは、付き合う気もないのに、付かず離れずの関係を続ける男性マモちゃんを一途に追いかけ、何をするにもマモちゃんが最優先で、仕事も手につかないほど。しまいには、「好きな人と同化したい」とまで思っています。

たった一言で好きになる



角田
その人になりたいと思うぐらい人を好きになったことがありますか?

岸井
ないです。

角田
あんまりないですよね。

岸井
でも、この人だったらなと思ったことはあります。好きな人というよりは、いろんな話を聞いて、すごいなと思ってる人だったんですけど、この人の口から出る言葉、全部力があるなと思って。その時は、その人の経験値とかもよく分かってなくて、私が同じ言葉を言っても、ペラペラにしかならないから、この人になって、いろんなことを言ってみたいなと思ったことがあって、でも、あの人になりたいと思う恋はまだないです。

角田
あるのかどうかもわからないですよね。私は全然、野球とか見ないんですけど、この前イチローの引退会見を見ていて、すごい言葉のある人だなと思って、こんな風に喋れたらいいだろうなとか、こんなふうに熱狂的にみんな、イチローかっこいいとか言われたら、すごいいいだろうなと思ったんですよ。野球のイチロー選手の活躍も知らないんですけど、多分私が10代だったら、イチローはかっこいいんだなという気持ちが恋にすごく似たものになって、恋だと思いこんでしまって、好きになるとかはあるかなと思います。大人になるとそれは恋じゃないよ、憧れだよって思うけれども、だから相手になりたいというのは一般的な恋愛ではないのかもしれないですよね。

岸井
私はたった一言で、ほんとしょうもない一言で、好きかもって思ったことはあります。

角田
一言で?その一言は内緒ですか?

岸井
「今何してるの?」って聞いたら、「今、お米炊けるの待っているんだ」って言われて

角田
笑。

岸井
本当に笑われるですけど、いいな!って思ったんです。どうですか?よくないですか?

角田
そう言われたらいい言葉かもしれないけど、意外すぎて。

岸井
「おいで」とか「こっち来いよ」とかじゃなくて、「今、お米炊けるの待っているんだ」って高校生の時に言われました。


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憎めない男性


「愛がなんだ」の主人公、テルコが一途に恋する男性、マモちゃん。このマモちゃんを演じたのが、成田凌さんです。イケメンオーラを完全に消し去り、実は、自分に自信の持てない厄介なダメ男、マモちゃんを魅力的に演じています。マモちゃんは、テルコのことが好きではないのに、深夜に飲みに誘ったり、いいようにテルコを利用します。一見すると、ただの、ダメ男のように見えるのですが・・・


角田
マモちゃんはちょっとダサいんですよ。

岸井
そう。ちょっとダサいし、本当に自分系だなと思いますね。でもテルコにちょっと優しくしたりするから、テルコもその時のマモちゃんを思い出して、仲良い時期が最初の方にあって、それからも色々起きて、テルコは振り回されるんですけど、ひどいことを言われても、マモちゃんが優しかった時のこと思い出しちゃう。

角田
(笑)。でも映画の中でもテルコが、助長させてる部分もあるんじゃないかなあと思って。人を振り回す男というよりは、やっぱりそういう部分がちょっと誰しもある所へきてテルコがそこを助長させて伸ばしていく(笑)。

岸井
テルコは伸ばしちゃいけないところを伸ばしてしまったんですよね。

角田
役者さんだから、かっこいいんですけど、小説のマモちゃんがあんまりかっこよくないという前提なんです。弱さとかずるさとかうまい具合に滲み出てきていますよね。リアリティもあるし、嫌いになれない。

岸井
セリフで説明するというより、マモちゃんの一つの表情だったりが寂しそうだったり、映画を見て、やっとマモちゃんの気持ちに気づくみたいな。台本に書かれてない部分の表情の部分で感じるところがあって、これは見ている人も、マモちゃん、すごいずるいけど、絶対に憎めないだろうなって思いました。


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映画『愛がなんだ』はテアトル新宿ほか、全国ロードショー中。
【映画『愛がなんだ』】

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