今週は宮城県気仙沼市のNPO法人「森は海の恋人」に焦点を当ててお送りします。
森を育てることが海を豊かに育てることにつながるという考え方に基づき、地元の牡蠣漁師 畠山重篤さんが長年続けている植林活動は、今では日本全国、そして世界中に広まっています。この番組でも何度かご紹介しています。
今回はその「森は海の恋人」の新たな動きについてお伝えします。

「森は海の恋人」は気仙沼 唐桑半島の西舞根地区に拠点をおく団体です。西舞根はリアス式の入り組んだ地形に抱かれた静かな海のほとりにあります。この地区の海は本当に水が澄み切っていて、海の底まで見渡せます。海の底まで見える上に、海藻や海の生き物がたくさんいて、それだけ栄養いっぱいの海だということがわかります。
そんな場所に4月末に新たに建てられたのが「舞根 森里海研究所」です。
「森は海の恋人」副理事で、畠山重篤さんの三男、信さんにうかがいました。


◆舞根森里海研究所
「舞根森里海研究所」は震災後の自然環境の移り変わりを継続してモニタリングしていくという面と、子どもたちの体験学習の拠点として活用していただけるような施設になっています。
森は海の恋人 体験学習というのは海にいながらも山を感じられるようなプログラムです。和船にのって、自分たちの力で漕いでいかだまでいきます。そしていかだでどういうことをしているのかということを見て、牡蠣やホタテをその場で食べてもらうというようなことをします。
味覚は記憶に残りやすいので、自分たちが今まで食べていたものが、いったいどうやってできているのか、というところから、海だけ守ればいいわけではないということを、言葉というよりは感覚で伝えたいですね。たとえば山でいろいろなものを垂れ流すとどうなるのかという危機感はもっていなければいけないことだと思いますし、それを持っていることによって、自分の生活を省みるようにもなると思うんです。それを感じた子どもたちが、今度は自分の親にその話をすると、親も気を使うようになります。結果として、環境が良くなっていくというサイクルが構築される。それが日本だけではなくて、世界に広がれば、あっという間に環境は良くなっていくと私は信じています。



「舞根 森里海研究所」は二階建ての建物で、延べ床面積およそ500屬函大きい施設です。ここには牡蠣養殖の実験室や、研究者のための施設のほか、子どもたちの体験学習をするためのスペースもあります。気仙沼市内には海辺で遊べる場所がないため、そうした機会をつくるという目的もあります。また、近隣の小学校の修学旅行の受け入れも始まっているそうです。
先月末、この施設のオープニングイベントが行われ、「森は海の恋人」理事長の畠山重篤さんと、元NHKアナウンサーの住吉美紀さんによるトークセッションもありました。


◆森は海の恋人 トークセッション
畠山:牡蠣の味は湾ごとにちがいます。ここの湾から外にでたところは貝浜漁場というところがあります。ここの牡蠣はとても美味しいんです。”貝”浜という名前は、昔の人がよく貝が育つ場所だからということで名づけたわけです。そこの牡蠣はとてもおいしいです。それから貝浜のホタテもとてもおいしい。自分の母親には、そこのホタテを揚げてきてといつも言われていました。そこのホタテをむき身にして、ワタがついたまま一度煮ます。その煮汁をごはんに混ぜるんです。ワタをとった、貝柱だけのものだとこの味は出ません。そこはちょうど大川の川筋にあたります。だから、森の養分がそこを通って、エサになるので、非常に影響があります。
小学生が来たときにアイデアが閃いたんですが、それはプランクトンネットでプランクトンをとり、コップにためて、それを一口ずつ飲むということです。プランクトンは、人間が川に流したものを最初に体内に取り入れる生き物です。ですから、プランクトンを飲むということは、人間が流したものを飲むということに通じます。ですから、もし人間が川を汚せば、当然牡蠣も食べられなくなるということなんです。
コップを光にかざしてみると、動物プランクトンもいますから、動いているものもいます。これを飲めと言われても普通は嫌でしょ?でも、沖に出ていますから、これを飲まなければ帰らないからと脅かすと、まず元気のいい男の子が飲みます。彼は「きゅうりの味がする」といいました。じつは飲んでみると、植物プランクトンも多いので青臭いんです。ですので、きゅうりの味がするというんです。そうすると農家の子どもたちは安心するんですね。じゃあ僕も、わたしも、となります。
子どもたちはくどくど言わなくても、それでプランクトンを飲むことは人間を飲むことだとわかりますね。
住吉:全然関係ないんですけど、ずっと牡蠣と共に生きてきたからなのか、畠山さんの顔をみていると、どうしても顔が牡蠣に見えてきます(笑)
畠山:そうですか(笑)
住吉:だから、ずっと好きだと似てくるのかな、と思ったんですが(笑)



プランクトンを飲むって、びっくりですよね。でも確かに子どもの頃のそういう経験は、忘れられない思い出になるし、言葉で聞くよりもずっとリアルに森と川と海のつながりを感じられますよね。うちに帰ったら両親にそのことを話して、お父さん、お母さんも環境に気を使うようになるというのは、とてもいいサイクルですよね。

トークセッションの模様はポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!

【今週の番組内でのオンエア曲】
・カナリヤ / NIKIIE
・ハピエスト・フール / マイア・ヒラサワ
今週も引き続き、ベストセラー『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』の著者、藻谷浩介さんのお話をお届けします。
地域経済の専門家・藻谷さんが、経済再生、地域の活性化のキーワードとして提唱しているのが、里山資本主義という、里山を有効活用する考え方です。

前回までの2回は、日本国内で実際に里山とともに暮らす人たちの例をいくつか紹介しました。
広島県庄原市で、石油缶を改造したエコストーブを使い、里山の薪を燃料に、原価ゼロの暮らしを実践する男性。岡山県真庭市では、役場や企業、住民が一体となって取り組む木材を使った発電や暖房を活用した、とても豊かな暮らしがありました。
3回目の今日は、この考え方を、都市部に住んでいる人が生活に取り入れるにはどうしたらいいのか。これを教えて頂きます。
藻谷さんは、里山資本主義が広がる可能性のある地域として、ご自身のふるさとを例にあげています。


◆藻谷さんのふるさと
わたしは山口県周南市の、段々畑を潰したところにある家で育ちました。今思うと里山に囲まれていたようなところですが、今は田んぼがつぶれて家になってしまっています。
かつては裏山を探検しまくっていました。当時は縦横に道が通っていたのですが、おとなになってから行ってみたら、もうなくなっていました。僕が子どもの頃は、近所はみんな五右衛門風呂で薪を炊いていたので、薪を取る人の山道があったのですが、今は山の木に価値が無くなり、道も消え、木が生え放題になっています。エコストーブを持ってきてこっそり炊いたら炊き放題ですね。
山口県は人口が減っていますが、山奥にある盆地では人口が増えている地区があります。交通網は年々便利になるので、昔だったら住めない山奥がクルマで15分でいける。そこに家を構えて通勤する人が増えています。
自然の中に広い家を構え、釣りが好きな人は近くの川で釣りをして、いい空気を吸って、農業をしながら、街に降りて工場に通っているというような人が増えているんです。東京ではできない贅沢ですね。
ただ、平地がないので、都市の田んぼは荒れ果てて立ち入れない状況になっているところが結構あります。しかし、他方では一番山奥の棚田地区が有名になり、ブランド化しているところもあります。一番山奥の棚田地区に、住みたいというひとがたくさんいるのに、家がないということが起きていて、逆に街のすぐ横の田んぼが荒れ放題ということが起きている。まるで日本の象徴ですね。
荒れ放題の田んぼを持っている人たちがちょっと気がついてくれて、市民農園に貸してくれれば状況が変わるのに気がつかない。逆に一番山奥の過疎化したところで棚田が見直されて、写真家が集まっていたりして、ブランド化がはじまっている。ブランドとは価値を感じるという意味ですね。そこに価値を感じて高いお金を払う、写真家が写真を撮るためにやってくる、人に何かをさせる力がブランドです。今ここにしか無い、私にしか分からないというものに人は価値を感じます。それが里山にはある。子どもたちに自然教育をやっている退職者グループなんかもあって面白いですよ。


とても面白いお話ですよね。でも、藻谷さんが「東京ではできない贅沢」とおっしゃるように、私のように東京で暮らす人間、大都市で暮らしている人が、すぐに出来るのかというと、ちょっと考えにくいですよね。
都会で暮らしながら、里山資本主義を取り入れる方法ってあるんでしょうか?


◆都会でもできる里山資本主義
里山資本主義はコーヒーに入れるミルクのようなもので、好きな比率で混ぜあわせればいいんです。ほとんどカフェオレにしたい人もいれば、一滴入れるだけでいいという人もいます。ですから、都会でも十分できます。
産直なんかに買いにいって、特定の地域のひとと仲良くなる、お得意様になる。ふるさと産品を買うことで向こうの名簿に載り、イベントのお誘いが来て知り合いができて、物々交換の輪に入る。それだけで立派な里山資本主義です。
あるいは、そんなめんどくさいことをせずとも、ベランダで園芸をやって、近所の人に取り過ぎた野菜をあげて、お返しに素麺をもらうというのも、里山資本主義ですね。都会に住みながら近所に農園を借り、野菜をある程度自給しているという人もいます。
里山がまだ多く残る横浜は、市として市民農園をずいぶんやっていますが、東京もこれから空き家がどんどん増えて埋まらなくなるし、持ち主も別のところに住んでいたりするケースが多い。そういう家は老朽化したら、取り壊して市民農園にするべきです。それをNPOなどで借りて、近所の人みんなで畑を作る。そうすると、都会のニュータウンも里山資本主義の実践場になります。さらに好きな人は田舎に土地を借りて通う人もいるし、特定の田舎に住むのもいいし、ある時期だけ移り住んでもいい。1から10まで好き勝手なやり方で里山資本主義を取り入れることは可能なんです。都会のマンション暮らしに1%、3%里山気分を取り入れるということでだれでもできる。日本はそれができる豊かな国土なんです。それを生かさない手はないですよね。



都会で「里山資本主義」を実践するのは難しいかと思っていたんですが、いろんな方法があるんですね。ベランダでハーブを育てて物々交換をする、そんなことなら取り入れられそうな気がしますよね。
さて、「里山資本主義」では、日本の国土の3分の2をしめる森から、木を「切り出す仕事」がとても重要になってきます。つまり、林業です。
藻谷さんに、これからの林業について伺いました。


◆林業は有望な産業
林業は儲からず、従事する若い人が減っていたんですが、昨今の円安で一気に木が復活してきています。エネルギーとしても灯油と同額以下になったし、建材としても外国産材との価格差はほとんどゼロまで縮小しています。ですから、林業はある程度、雇用としてこれから期待できます。実際、若い人を募集している林業組合はものすごく多い。製材所の雇用も増えつつありますが、どこにいっても聞く話が「若い人が足りない」「募集しても人が応募してこない」ということです。だれでもできるわけではないんです。大きな機械を操縦して木を倒し、皮をむくという、近代化された巨大ロボの作業ですので、優秀な人材を求めているんですが、意外に知られていない。自然が好きで、巨大ロボを動かしたい人は、山に入って手に職をつけるのは有望な就職先だと思います。



これから、山で働く仕事、林業、注目かもしれません。
そのためには私たちも、日本の森と、そこから生まれる木材にもっと目を向ける必要がありそうです。

著書『里山資本主義』の中には、木材を使った建築物の例として、オーストリアの取り組みが紹介されています。オーストリアは木材の技術開発が進み、なんと「木造の高層ビル」が次々と建てられているそうです。例えば、本の中では木造・7階建てのビルが紹介されています。
こうした世界の流れをお手本に、日本も木材の価値が見直されるようになったら、 私たちの町はどんな風に変わるのでしょうか。
藻谷さんはこんな風にイメージしています。


◆ヨーロッパ型の木造建築
ヨーロッパでどんどん増えている、”クール”で”ヒップ”な木造建築が、日本でも10年くらいで増えると嬉しいですね。いま五輪の選手村を木で作ろうという話があります。木造というと和風の建築を想像しがちですが、そうではなく近代的な欧州のガラス張りのオフィスビルなんです。鉄筋のかわりに木を使っているんですが、そいういものを選手村につくろうという話もありますし、スカイツリーも木で作って欲しかったですね。これは冗談ではなく、技術的に可能ですし、そのほうがかえって安全なんです。木で悪いことはなにもありません。軽くて丈夫で、集成材であれば燃えません。そういう有効な木材の利用を増やしながら、余った分を燃料に使うサイクルを作っていくべきだと思いますね。



確かに木のスカイツリー、見てみたかったですよね。オーストリアではCLTという、木材を組み合わせた建築材料が開発されています。この木材はコンクリートと鉄の建物と同じレベルの丈夫さがあって、火事にも強いそうです。オーストリアでは木造の高層ビルが増えているんだそうです。日本では建築基準法の制約があるため、難しかったのですが、ここ数年で、役所や公共の建物を中心にようやくこういった木造の建物を増やそうという動きが進んでいます。きっと景観も素晴らしいですし、日本の街も木造の建物が増えていったらすごくいいですよね。

この番組はポッドキャストでも配信中です。
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【今週の番組内でのオンエア曲】
・炎と森のカーニバル / SEKAI NO OWARI
・Escape (The pina colada song) / Jack Johnson
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