• 2015.07.26

コケのふしぎ3

今週も私たちの足元、アスファルトやお家の塀、石畳のすきまで、ひっそり地味に、でも実はすごく「カシコク」生きてる植物たち・・・コケのお話です。

今回は、実際にコケを観察したり、さらには育てたいという方に向けて、コケと仲良くなるため秘訣をコケ博士、国立科学博物館・陸上植物研究グループ長で東京大学の教授でもある、理学博士の樋口正信さんに教えていただきます。


 日本人は桜や紅葉など、季節ごとに自然の物を楽しむ習慣がありますが、一方では松だとか苔だとか、常に緑で変わらないものにも何か惹かれるものがあると思うんです。京都のお寺の苔庭などは一年中緑の苔なんですけども、春先に新しい体を成長させますので、初夏、あるいは梅雨の頃は苔の緑が一番みずみずしくてきれいなんです。もちろん秋、冬もずっと緑色をしているんですけども。
 コケが生きている部分は先端の一部なんです。例えば5cmのコケがあったとすると、それは恐らく3年分くらいの成長した部分なんです。大体緑色で生きているのは、まあ長くて2年か3年なんですね。よく苔の寿命は?とか聞かれるんですけども、実はよくわかりません。というのは、古い部分はどんどん枯れて腐って無くなっていくんですね。前回、コケが土壌を作ると言いましたけども、枯れて腐った部分が土壌の元になるわけです。ですから先端の2、3年の部分だけが生きていてそれがずっと成長を続けていくわけです。
 例えば尾瀬などの湿原を作る原動力はコケの仲間です。特にミズゴケという仲間なんですね。火山の噴火などでせき止められた川が池になり、次第にそこでミズゴケが発達することによって陸地化していって、現在の尾瀬ヶ原のような湿原を作っているわけなんです。そこに生えているミズゴケは、そういう火山が噴火してせき止められた、その時代から恐らくずっと生き続けているコケだと思います。実際生きてる部分は数年なんですけども、元を辿っていくとそこに行きつくんではないかと思いますね。


-コケが綺麗だというこれからの季節、もしコケの観察に行くときのに必需品はありますか?
 コケの楽しみ方には3つのレベルがあります。まず肉眼で見る。苔庭のコケを鑑賞するように、緑のカーペットや石の上についた緑の塊を鑑賞するレベルです。
 次のレベルがですね、個体のレベル。コケに近づいて、ルーペだとか虫眼鏡を使って観察します。すると緑色のカーペットだった苔が、ひとつの植物の体として見えてきます。例えば枝の分かれかた、葉の付きかたや並びかた。こういうのがわかってくると、同じように見えたコケでも実は違う種類なんだということがわかってきます。
 第3レベルは細胞のレベルです。コケの世界は細胞のレベルになると一気にまた広がります。ぜひ顕微鏡で観察してみてください。「こんな違いがあるんだ」とか、「きれいだな」とか、そういう楽しみ方ができると思います。
 最近ちょっと驚いたことがあって、「先生これなんの苔ですか?」と見せて頂いたのがスマホで撮った写真なんですけど最近のものの機能は素晴らしくて、接写するとルーペで観察するよりもよく見えたりします。ですのでまず写真で撮ってそれを引き伸ばして見ると、顕微鏡と同じくらいきれいにわかるんではないかと思います。
 コケはとても小さいですから、調査するときは膝まづいたり、しゃがんだり、這いつくばったりするので、変な人たちだなと思われがちなんですが、そういう観察も結構大事なんです。人の臭覚や視覚、か聴覚というのは大体頭についてるわけですね。ですから周りの雰囲気、例えば乾いてるなとかそういうのは地上から大体1.5mくらいの環境を感じています。しかしコケは地面の近くに生えてるので、1.5m付近は乾燥していても地面近くはちょっと湿っていたりとか、涼しかったりとかするわけです。自分がその位置に、自分の感覚を持っていかないとわからないですからね。


-コケの魅力に惹かれて、自宅で栽培したいなと思う方もいらっしゃると思うんですが。
 私がオススメしているのが、「ジャム瓶テラリウム」です。テラリウムというのはガラスのカバーで覆って植物を愛でる、栽培するっていう方法なんですけども、コケは乾燥しやすいので、葉が乾燥して閉じてしまう、あるいは縮れてしまったりします。そして水をやるとまた葉を広げます。その繰り返しなんですよね。でも常にきれいな姿で見たいですよね。それで考え出したのがジャム瓶テラリウムなんです。

 ジャムの瓶をひっくり返して、蓋の方にティッシュペーパーなどを敷いて水で濡らします。そして取ってきたコケを、なるべくゴミや泥は落として、その湿ったティッシュペーパーの上に置きます。それでガラスの瓶で上から蓋をするんですね。そうするとこの中は乾燥しないので、いつでも広がった葉のコケを見ることができるんです。


-すごくきれいですね。でも密封してしまって、コケは呼吸ができるんですか?
 植物は呼吸していますので酸素を吸って二酸化炭素を出しているんですけども、光があたっているときは光合成を行ないます。二酸化炭素と水を材料にして、光のエネルギーを使ってデンプンと酸素を作るんです。ですから光合成をして作った酸素を呼吸で使うわけなので、100%ではないですけども必要な酸素と二酸化炭素の循環ができてるんですね。
 大事なポイントは、光が必要だからといって、直射日光の当たる窓辺なんかに置くと中の温度が上がってしまって蒸れてしまいますので、蛍光灯の光で十分です。一日のうち数時間でも葉を広げて光が当たっていれば生育には十分です。玄関先なんかに自分の気に入った形のものを並べるっていうのもインテリアになるかもしれませんね。


今回のお話しいかがだったでしょうか。興味をもった方はぜひ樋口先生の本「コケのふしぎ」をチェックしてみてください。

「コケのふしぎ」
サイエンス・アイ新書


【今週の番組内でのオンエア曲】
・Roar / Katy Perry
・ヒライテル / ohana
  • 2015.07.19

コケのふしぎ2

 今週も引き続き、私たちの暮らす街の塀のスキマやアスファルトのすみで、ちょっと地味に生きている、あの植物・・・「コケ」のお話です。
東京大学の教授でもある、理学博士の樋口正信さんによれば、日本には1800種類のコケがいて、東京・皇居の中には130種類のコケが存在すると言います。
つまり、皇居はもちろん、日本各地の「森」の中にもあまり目立たず、ひっそりとコケのみなさんは生きているわけですね。
 というわけで、全国の森にいるコケたち、そして森とコケの関係について、コケ博士・樋口さんに伺いました。


-森にとってのコケの存在とはどういうものなんでしょうか?
 森の中のコケには、木の幹に生えるもの、倒木の上を好むもの、あるいは石の上にはえるものなど、種類ごとに好きな場所だとか環境があるわけなんですね。ですから、どんな森に行くかで種類が違ってきます。
 植物の分布というのは、温度がキーになります。ですから、南の方から北に行くと、常緑の広葉樹林から落葉広葉樹林、高山性の針葉樹林というふうにだんだん主要な樹種が変わっていくのですが、それにともなってコケの種類も変わっていきます。
 コケは光が完全に遮られてしまうと生きていけないので、常緑のシイやカシの林にはコケの種類は少ない。落葉広葉樹林も秋になると葉が落ちるので、それに覆われてやはりコケは生育できません。苔庭にあるモミジは庭師の方が落ち葉を掃いてコケを維持しているわけです。しかし、自然の林ではそういうことはないので、例えばブナ林とかミズナラ林にいくとコケはだいたい倒木、それから石の上、登山道や道路の脇の落ち葉がたまらない場所に生えています。ですから、コケが好きな環境は木漏れ日ですね。全く暗くても駄目だし、直射日光がガンガン当たってもよくない。ですので、だいたいコケの上には木漏れ日があたるようになっていると思います。森に行ったらぜひ上を見上げて観察してみてください。

 
-森にコケがあることで森にいいことってあるんですか?
 たとえば森のダムという言葉があるんですが、林の中でコケに覆われている場所とそうでない場所を比較すると、降った雨がその場に維持される時間に差があります。それから、コケは自分の体に水分を蓄え、それが蒸発するので、林の中湿度を保ち、他の生き物に適度な潤いを与えます。
 また、地面に落ちた種子は病気になったり、動物に食べられたりしてなかなか次の世代の森の木になれません。しかし、倒木の上のコケに種子が落ちると、虫にも食べられない、カビなどにも侵されないということで、無事に発芽して成長するということがわかっています。
 倒木の上にいくつかの種子が落ちて発芽し、成長していくと倒木はだんだん腐ってくずれていきますよね。そうすると結果的にちょうど一列に木が並ぶわけです。ですからまるで人の手で植えたようにきれいに一列になる。これを専門用語でいうと「倒木更新」といいます。
 いま注目されている研究分野のひとつに、対象の生物だけを見るのではなく、となりにいる生物との繋がり、相互作用、そういうものを観ていこうというものがあります。これまでは専門家が深くその生物について調べていくという方向があったのですが、いまはトータルに、森全体としてそこにいる生物がどういうふうに関わって生きているのかということを調べようということが注目され進められています。
-なんだか人間と同じですね。
そうですね。やはり一人では生きられないということですね。


-コケと森は、「一体」なんですね。そんな森の中のコケたちは、同じ場所にびっしりと生えている印象があります。あれはなぜですか?
いくつか理由があるのですが、ひとつは胞子が適当な環境に落ちると発芽して、とくに蘚類の場合には糸状の細胞がたくさんできるんです。これを原糸体とよんでいます。それが網の目状にひろがって、私たちが見ているコケの芽が出て、一斉に大きくなっていくんですね。ですから、同じステージで成長するので同じ大きさになるというのがまずひとつ。
 それから、コケは非常に構造がシンプルで、周りが乾いたらすぐにしおれてしまうのですが、長い時間光合成をするためには、その間は体の中に水分がないといけないわけです。ピシっと密生して生えていると自分の体だけではなくて、となりの個体と個体の間にも水を蓄えることができるということで、密生して水分の蒸発を防いでいるんですね。ですから出る杭は打たれるという言葉がありますが、おそらくその中で一本、二本が突出するとその部分は乾燥してしまって成長できないので、結局横並びになるんです。だいたい丸くなったりカーペット状になるといのは水分との関係だと思います。
 木は根から吸い上げた水分によって体が維持されていて、それが断ち切られると大きな体を支えられなくなってしまうわけですよね。コケの場合は体が単純なので、しおれても水を与えればまた元に戻って成長します。体が非常にシンプルだということは、いざというときの強さがあるのかもしれませんね。


国立科学博物館・陸上植物研究グループ長で理学博士の樋口正信さんの「コケ」たちの知られざる世界のお話いかがだったでしょうか。
『森のダム』『倒木更新』ということばは初めて聞きましたね。こんど森に行ったらぜひ見てみてください。
そして、コケたちは「木漏れ日が好き」というのも印象的ですね。みなさんも公園など身近な森に入って、コケを発見したら、上を見上げてみてください。葉っぱのスキマから
木漏れ日がさしているかもしれません。木漏れ日のキラキラ綺麗な場所を一番知っているのはコケたち、というわけなんですね。

来週も引き続き樋口正信さんのお話しをお届けします。
どうぞお楽しみに。


【今週の番組内でのオンエア曲】
・8cmのピンヒール / チャットモンチー
・What'cha Know About - (Featuring G. Love) / Donavon Frankenreiter
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パーソナリティ

高橋万里恵
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