2013年11月28日

11月28日 「震災遺構」を考える(3) 南三陸町 高野会館

宮城県南三陸町にある「高野会館」は、海岸からおよそ200メートルの場所にある、4階建ての建物。震災当時は津波が屋上まで押し寄せましたが、館内にいた方たちはビルの最上部に避難して、難を逃れました。この高野会館を所有する阿部長商店は、
公費による解体撤去を見送り、当面保存する考えを明らかにしています。お話を伺ったのは、阿部長商店「南三陸ホテル観洋」の女将、阿部憲子さんです。

◆目で伝えることも重要
この震災と津波の出来事を皆さんに学んでほしい、今後の教訓にしてほしいという気持ちで、語り部活動を行っていたが、志津川の病院や警察署、戸倉小学校などもかつてはあったが、そのようなシンボル的な建物が次々に解体された時期があって。そのとき、町内の語り部の方もホテルの語り部のスタッフが一斉に「(震災や津波について)伝わらなくなった」と口にするようになった。
※いままでは被災した建物のところにいくと、説明が始まる前から、お客様が驚いた顔をしたり、表情が伺いしれたのが、建物が解体されたことで、伝わらなくなったと。これはやはり「目で伝えること」も必要ではないかな、語りだけでは伝わらないものがあると考えた。
※シンボル的な震災遺構が次々と解体された関係上、われわれの持ち物である高野会館はわたしどもの意志で存続が決められる、ということもあったので、多くの方にこの出来事を伝えるためにも遺すべきではと考えて(当面の保存を)決めた。


高野会館では震災当時、高齢者による演芸発表会が開催されていました。
スタッフが4階建てのビルの最上部に客を誘導。327名の命が救われました。

◆次の世代に伝えるために
地元にいても「震災遺構」について、皆が同じ捉え方ではない。というのは、「高野会館」は人の命を救うことができたので、直接的に反対する意見は一件も届いていない。
幸いにして、皆さんを守ることができた場所でもある。非常に重いものを背負うことにもなりかねないので、心配な想いはあるが、やはりこの出来事が次の世代にも伝えられないと、無念な想いで亡くなった方たちがたくさんいるから、残ったわたしたちが最善の考え方を進めなければいけない、という気持ち。


津波の教訓を次の世代に引き継ぐために、震災遺構の残そうという動き。でも、恒久的な保存に向けては、管理と保存経費が課題になります。阿部長商店としては、公的な機関に管理と保存を委ねたい考えですが、見通しは必ずしも明るくないのが現状です。今後さまざまな機関と相談して、保存に方法を模索していく予定です。

南三陸ホテル観洋 「語り部バス」

2013年11月27日

11月27日 「震災遺構」を考える(2)

宮城県の気仙沼では、陸の乗り上げた漁船が先日解体、撤去されました。一方宮城県女川町では、震災遺構について、町内で意見が二分しています。震災の記憶をとどめる建造物=「震災遺構」を保存するべきか。それとも解体して撤去するのか。お話を伺ったのは、建築の歴史が専門で、震災遺構に詳しい、東北大学大学院工学研究科教授、五十嵐太郎さんです。
 
◆「震災遺構」は「津波の証言者」
東日本大震災の震災遺構と言われているものは、正確に言うと「津波遺構」。
一番有名になったのは、南三陸町の総合庁舎。ここは最後まで避難を呼びかけた女性の方が亡くなったという物語が、この場所で起こったことの悲劇を伝えている。実際南三陸を訪れた多くの人が、この場所に花を手向けたり写真を撮る、ということが起きていて、ある種の目印になっている。
個人的には、女川で目撃した倒壊した建物の衝撃が大きかった。建物自体が20メートル級の津波によって、基礎ごと引っこ抜かれ、4階建ての鉄骨のビルなどが一旦水の中をただよって、別のところに流れ着いて、ゴロンと転がっている。建物自体が根こそぎ浮き上がって別の場所に流れ着くという壊れ方は、東日本大震災でも特異な激しいケースで、物理的な(津波の)破壊の力を証言する意味を持っている。
津波の専門家も「世界に例がない」と言っている。女川の場合は、世界的にもほとんど起こったことのない建物の壊れ方をしていると言える。同じ場所で津波はまたいずれ起きることは確実といえる。震災遺構がのこっていくことの意味は大きいと思う。


震災遺構に関しては、保存や維持管理にかかる費用の問題も浮上しています。根本匠復興大臣は、今月15日の記者会見で、震災遺構の保存に向けた新たな支援策を明らかにしました。保存の初期費用を国が負担するというもので、「公平性の観点から1市町村につき1カ所」と説明。震災遺構が複数ある地域は、さらに難しい選択を迫られています。
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パーソナリティ 鈴村健一

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