ナゼ、なぜ、何故橙愛

第1話

「わぁ、やっぱ、『クエスチョンズ』ってかっこいいよねぇ!」
3年B組の教室で雑誌を見ながら盛り上がっている女子数人の隣を、翔(と)愛(あ)は力が抜けたように歩いて、自分の席についた。すると、翔愛の親友の和羽(かずは)が不思議そうな顔をして寄ってくる。
「あれ、翔愛、どうしたの? なんか……、変なモノでも食べた?」
何を言っているんだ、コイツは。
翔愛はそう思いつつ、「なんで?」と尋ねた。
「だって、いつもなら、他の女子が『クエスチョンズ』のことで盛り上がってたら、駆け寄ってくるのに……」
そう言えばそうだったな。ついさっきまでは、誰かが『クエスチョンズ』のことで盛り上がっていたら、勝手に話に入り込んでいたっけ。
でも今は、そんな気分ではない。

つい数分前。
翔愛は担任教師に呼び出された。
何かと思って指定された教室に向かえば、担任は真剣な面持ちで、翔愛の成績と受験のことについて話しはじめた。
「今のまま高校を受験すれば、ほとんどの高校に受からない。もちろん、お前の志望校は全くダメだ」
翔愛は言葉を失った。
自分でも、自分の成績が良くないことは分かっていた。
でもそこまでとは思っていなかった。
少し“受験”というものを甘く見ていたのかもしれない。
自分の愚かさを呪った……。

今は受験のことで頭がいっぱい。
『クエスチョンズ』のことなど、頭には7%くらいしか残っていない。
「どうしよぉー……」
翔愛は机に突っ伏しながら、和羽に助けを求めた。
「んー……」
和羽は真剣に考え始めた。
まず、なぜ翔愛が受験勉強に集中できないか。
「あっ!」
わかった。
翔愛が受験勉強に集中できないワケ。
それは、『クエスチョンズ』だ。
「んー、何?」
和羽の声に反応した翔愛は机に突っ伏したまま和羽に尋ねた。
すると和羽の元気で明るい声が飛んできた。
「翔愛! 翔愛の部屋って、『クエスチョンズ』のポスターだらけでしょ!」
再びコイツは何を言っているんだ。
当たり前じゃないか。
でもそれが受験に関係あるのか。
なんか面倒くさくなって、翔愛はガバッと顔をあげた。
「そう、だけど……」
「それだよ! それを使えば翔愛もきっと、受験勉強を頑張れるよ!」
はぁ?
そう思った瞬間、翔愛は手をグンッと引っ張られた。
見ると、和羽が翔愛の手を握ってブンブン振り回しながら喜んでいた。
「あんさ、教えてもらいたいんだけど、一体、『クエスチョンズ』のポスターを何にどう使おうと言うの?」
翔愛は溜息混じりに問いた。
すると、和羽のキラキラした顔が、一気に翔愛の顔に接近してきた。
「決まってるじゃん! そのポスターにあたしが落書きするの!」
「……はい? あの、もう少し、詳しく教えて頂いてもよろしいですか?」
「だーかーらっ、例えば翔愛が受験勉強の目標時間を4時間に設定したとするでしょ? それでやってみて、もし翔愛がした受験勉強の時間が4時間未満だったら、やれなかった分の一時間に一個、あたしがその『クエスチョンズ』のポスターに落書きするの! つまり翔愛が目標より、2時間サボったとしたら、ポスターに2個、落書きするから!」
「……でも、それって、完璧不公平じゃん。あたしの方は、落書きされたらされっぱなしなんでしょ?」
「違うよ、大丈夫!! 4時間ピッタリ勉強したら落書きも何もしないし、もし4時間以上やったら、その多くやった分、1時間を1個として、落書きを消してあげるから」 「そっかぁ……。うーん……」
翔愛は暫く考えた。
和羽が書いた落書きは、あたしが頑張れば消せるんでしょ?
あたしが目標時間未満しか勉強しなかったら落書きされちゃうけど、目標時間以上勉強すれば別に何もならないんでしょ?
つまり、ポスターの中のカッコイイ『クエスチョンズ』は、あたしにかかってるってことか!
結構面白いかも、結構イイ案かも!
「うん、わかった。」
翔愛はコックンと頷いた。
まさか、あんな事が起きるなんて少しも思わずに……。

翌日のPM8:00。
今日、和羽にポスターを預けてきた。
なんなら、と思って、一番気に入ってるヤツ。
そのポスターとのお別れは寂しかったけど、受験が終わればまた会えるし、これで志望校に受かると思えば、少しぐらい我慢できる。
「さて」
翔愛は、受験勉強に取りかかろうと、数学の参考書を広げた。
なんか文字や数字、記号が散々に散りばめられている。
「『クエスチョンズ』のため……。[クエスチョンズ]のためっ!」
ブツブツ呟きながら、翔愛は勉強を始めた。

「ふぅーっ、もう限界……」
時間は結構過ぎた。
きっと4時間なんて、もうとっくに過ぎたはず。
そう思って、伸びをしながら、時計に目をやった。
現在の時刻はPM10:20。
「あれ、なんでっ!? 4時間ちゃんとやったはずだよ!? 時計狂ってるの? おっかしいな……、正確だぁ……。もーいい! 今日ぐらいサボったって、どうってことないもん。そうだ、『クエスチョンズ』のコンサートDVD観てこよぉ」
翔愛は4時間ピッタリやった気でいたが、実際はまだ2時間20分しか勉強していなかった。
なぜ翔愛は4時間ちゃんと勉強したのはずだったのに、実際はその半分程度しかやっていなかったのか……。
そのワケは、普段、翔愛は受験勉強なんて、宿題も込みで1時間30分程度しかやっていない。だから、そんな翔愛にとって、2時間20分は4時間やったに等しいのだ。

翔愛は目標時間の4時間には及ばず、1時間40分サボってしまった。
これで一個、『クエスチョンズ』のポスターには落書きがされた──。

【第2話に続く】

第1話ナゼ、なぜ、何故

蒼き賞
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