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10/12 ZEPP FUKUOKA

写真ホークスタウンに、母を伴って現れた女の子が1人。
福岡県 しおり 17歳。

今年の夏、彼女の写メがアミューズ30周年全国オーディションのSOL特別枠に送られてきた。
『昔から芸能界に興味があって、最近ではYUIさんが凄い好きで憧れてます。最近はギターをやってたりします。』
応募のきっかけには、そう書かれていた。
どこにでもある、どちらかというと、ありふれた応募動機。
特別枠に選ばれ、福岡の2次審査会場に現れたしおり。彼女は、ほとんど声を発することができなかった。
家庭、友人、引越し…さまざまな出来事が彼女の上にのしかかって、しおりは誰とも口をきくことができなくなり、高校を辞め、家に引きこもってしまっていた。

1人きりの部屋で流れていたのは、YUI先生の音楽。しおりは歌詞に救われ、音楽に勇気をもらい、すがるようにギターを手にした。声はまだほとんど出ない。部屋で小さくかき鳴らし、ささやくように歌い始めた、Good-bye days。
そして彼女は電波の向こう側から校長の声を聞いた。
『とりあえず応募して来い!勢いでいいから余計なこと考えずに、とりあえず "なりたい" と思ってるなら送ってこい!』
その瞬間、しおりの時計は音を立てて進み始めた。
写真
アミューズ2次審査で、しおりは床にあぐらをかいてギターを鳴らし、Good-bye daysを歌った。小さい小さい、途切れ途切れの細い歌声。しかし彼女は最後まで歌うことをやめなかった。
最終審査進出はならなかった。そしてそれは、しおりにとって、終わりではなく、始まりだった。

"わたしのまわりには悩んでいるひとや心の問題を抱えている人がたくさんいるので、音楽で助けれたらいいなと思って挑戦しましたが今回はダメでした。でも、まだチャンスはあると思うのでこれからもがんばっていきたいと思います。応援してくれたみなさん、ありがとうございました。"


買ったばかりの真新しいギターを持ったしおりをZEPPの前で発見。どうやらチケットを取ることができたらしい。
『路上LIVEを始めます』
電話で校長教頭とYUI先生に宣言したあの言葉を、直接伝えたい。いやむしろ、伝えてほしい。僕が。
僕はしおりとお母さんを連れて、3人のところへ連れて行くことにした。

楽屋前の細い廊下。さっきと何も変わりないはずなのに、あれ。何か緊張する。何で俺が緊張してんだ。しおりの両肩がガッチガチに固まってるのが後ろから分かる。今から会うのか。会うのか会うのか会うのか会うのかガチャ。


校長は「よく来たな」って言ってくれた。
YUI先生は、「ギター買ったんだね。見せてくれる?」って言ってくれた。
教頭は、顔に輪ゴムをグルグル巻きつけてハム人間をやってくれた。
しおりは、何も話せなかった。
写真
そりゃそうだ。緊張するよな。ゴメンな強引に連れてきて。
しおりはその代わり、3人の目をジーッと見つめてた。この光景を絶対に忘れたくない、って目が言ってる。

校長が、YUI先生にギター聴いてもらいなよ、と言った。
しおりは、ゆっくりとギターを構えた。
YUI先生も、楽屋の片隅に立てかけられていた、校長のギターを手にした。
写真
静かにギターがなり始める。Good-bye days。
YUI先生が優しく微笑みながら、しおりのギターを追いかける。
歌のない、ギターの音色だけが静かに流れる小さな部屋。
歌のない、ギターの音色だけで思いを伝えようとするしおり。

ありがとう。お前の旗、ちゃんと見えたよ。


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