オリジナル小説『ジグソーパズル』

作者:ゆみな 

【 一 】

「・・・。」
私は水沢佳果(みずさわよしか)、高一。いつもは放課後いのこりをしない私だけど、数学のテストで赤点を取ったから問題集を五十ページ分解いている。それ自体はそんなに問題はない。問題は、洋行くんがいること。それも、二人きりで・・・。
戸田洋行くん。私と同じクラスで、クラスの人気者。みんなと仲が良くて、羨ましいと思ってる。そして、そんな洋行くんのことが私は陰ながら好き。でも、告白なんてできないと思ってる。
私はあと五ページで問題集が終わる。なんだかお腹がすいてきた。洋行くんはあと少しで終わるのかなぁ・・・。
"ぐぅ〜っ"
・・・えっ?・・・しまった、お腹鳴っちゃった・・・。
「ごめん、俺の腹、鳴っちった。」
「え?・・・ち、違うよ、私だよ!」
洋行くんが私の方を見てる。どうしよ、こんなの入学してから三回目くらいだよっ・・・。
「ははっ、お前けっこうおもしろいんだな!」
「・・・。おもしろい?」
「うん、意外だった。」
「意外・・・」
「なんかもっと、まじめっていうか、勉強一筋って感じかと思ってたから。」
「そっか・・・。そうなんだ。」
「うん。じゃぁ、またな!」
「・・・う、うん。」
どうしよう、話をしちゃった。泣きそうだった。
「ふーん。あの人が好きなんだ。」
・・・え?
「誰?」
ふり返っても誰もいない。
「誰なの?」
すると、誰かに肩をたたかれた。
「えへっ見つかっちゃったぞ☆」
「ん・・・?え、わぁ・・・小さいねぇ。」
「えー、反応うっすいなぁ。」
私のすぐ後ろには小さな女の子がいた。茶色の長い髪をポニーテールにしている。でも服は真っ黒。目が大きくて顔が小さい、かわいい女の子だった。そういえば、なんだかスカートが短いかも。
「あたし、クリスっていうの。まぁこれでも一応、魔女の見習いなんだよ。この世界にはね、うーん・・・あ、そう!修行としてね、きてるんだ☆。」
今、修行という言葉の前に間があったような・・・。でも、本当に魔女だったらこれってすごいかもっ。
「てことは、何でもできるの?」
「もちろん!何でも叶えてあげるよ。」
「うーん・・・。あ、じゃあね、洋行くんの夢の中を見たい!だめかなぁ?」
「夢の中?見れるよっ。願いはそれだけ?」
「うん。それだけで充分だよ。」
「じゃあ今夜から彼の夢を見せてあげるよ。」


【 二 】

私は占いが大好き。非現実的だって分かってるんだ。でも、自分がなさすぎて、すっからかんだから、占いでうめてる。それって実はとっても楽。だから、魔女さんの存在が私を変えてくれるならちょっともっと関わってみたいと思った。それに、私の願いが本当に叶うなら、見てみたい。洋行くんが何を考えているのか知りたい。もっと洋行くんに近づきたい・・・。
家にこっそり連れ込んだ魔女はとても明るい。さっきからしゃべりっぱなしでなんだか楽しそう。でもそろそろ声が大きすぎると思ったから
「もうちょっと声小さくしてよっ」と言うと、「あら、ごめんなさい」と言うのに小さくならなかった。
ところが突然、魔女さんは話すのをやめた。時計を見ると一時だった。
「ねぇ、そろそろ彼が夢を見始めたのよ!あたしのこのペンダントに触ってくれる。そしたら頭ん中に彼の夢が映像で浮かぶから。」
それはただの銀のペンダントだった。丸くて冷たい。私は言われた通りにそれに触った。
「目、閉じてね。ちなみにあっちからはあたし達がこうやって見てること分かんないからね。安心して。」
「うん。・・・あ、見えてきた。」
洋行くんの夢は白黒だった。そのせいか、なんだか淋しい。五分くらいたったかな。やっと映像がはっきりしてきた。そこには、私がいた。放課後のことだとすぐに分かった。私は覚えていてくれただけでもう胸がいっぱいだった。 「魔女さん、もういいや。」
「そう?じゃあ目を開けて。」
目を開けると私の部屋だった。まだ夢の中にいる感覚で変な感じだった。
「よかったじゃん!佳果のこと思い出してたねっ。」
「うん。今日はこの幸せな気分に浸ってもう寝るね〜。」
「じゃ、おやすみっ。」
その夜、夢を見た。洋行と同じ夢。でも、私の夢は少しぼんやりしていた。きっとあの時、頭が真っ白だったからだと思うけど。


【 三 】

「起きて〜!」
朝六時三十分。私は目覚まし時計では起きなかった。
「え、お母さん?」
「も〜、何寝ぼけてんのよ。あたしよ、クリス!起きてぇ〜!」
あ、忘れてた。私は昨日から小さな同居人がいたことを。魔女は朝っぱらからとても元気だ。私と一緒に学校へ行きたいと言ったけど、絶対に問題になると思って説得させた。
「絶対この部屋から出ちゃだめだからね!」
「むーっ。分かったもん。」
口では納得してくれたみたいでとりあえず一安心。私は学校へ行った。
「おはよー!」
「あ、由依子おっはよー!」
浅木由依子。高一。私とは小学校のころからずっと仲良し。大人しい女の子なんだ。
「ねぇねぇ、実はね昨日洋行くんと二人きりになっちゃったんだあ!」
私は真っ先に由依子に昨日のことを話した。
「あら、よかったね!二人きりなんてめったになれないくらい人気なんでしょ?」
由依子は洋行くんが嫌いだった。あんなお面かぶってるみたいにいつも笑ってたら、なんか痛々しいと言っていた。私にはそうは思えなかったけど、本当はそうなのかなぁと私も不安になってしまう。もし洋行くんが無理してずっと笑っているのなら、それは私にとってとても悲しいことだから。
「ねぇ、そういえば知ってる?また古川くんが謹慎になったらしいよ。」
古川俊くん、高一。学年一の問題児である。謹慎処分は高校に入学して何度目だろう。とにかく、両手ではとても数えきれない。もうすぐ進級する季節なのに、少し心配。みんな俊くんには怖くて近寄れない。しかしそんな俊くんには彼女がいる。高岡真由さん、高二。規則は無視で、髪は明るい茶色でゆるくパーマをかけている。メイクもすごくて、後輩としてはかなり近寄りがたい。そんな二人は似たもの同士で、お似合いなのかもしれない。
「何考えてんだろうね。」
私はふと、俊くんの考えていることが知りたくなった。
「だって古川くんて戸田くんとも仲いいんでしょ?」
「うん、中学校のときに初めて会って、それから仲良しなんだって☆」
「わぁ、戸田くんのファン丸出しだ・・・。」
「調べあげてますから☆」
「そうなの?・・・じゃあ、戸田くんて彼女いるの?」
由依子は軽く笑って私に聞いた。
「今のところ知りません!たぶん好きな人もいないよ。」
「じゃあ佳果も戸田くんと付き合えるチャンスあるんだね!まぁがんばりなさいよっ。」
ちょっとキツいこと言うけど、こうやって応援してくれる由依子のことが私は大好き。ずっと一緒にいれたらって思うんだ。


【 四 】

「ただいまー。」
今日も無事、学校から帰ってきた私は急いで二階へかけ上がる。もちろん、あの小さな魔女さんに会うため。
「魔女さんいるぅー?」
私の部屋のドアを開けたときの第一声だった。
「あのね、私の名前はクリスっていうのよ。そろそろ"魔女さん"って呼び方やめてくれる?」
机の上でファッション誌を読んでいた魔女さんは私に向かって少し怒った。
「あ、ごめんごめん!・・・ねぇ、洋行くんはまだ夢見ないー?」
そんなことを言うと、クリスは呆れた声で言った。
「あのぉ、今何時だと思います〜?」
「・・・七時ですっ・・・。」
「まだ寝てるわけないだろうがぁ!」
そう言われてしまったので、私は十一時ごろまでずっとクリスをちらちらと見ていた。
「お待たせしましたぁ。やっと彼は夢を見出しましたよ。」
「ほんと?!」
私はすぐさまクリスのペンダントに触った。だんだん見えてきた夢の中で彼は、女の人と二人で歩いていた、でも、その女の人の顔はよく見えない。髪が黒くてストレートだということは分かった。それは私ではなかった。私の髪は現在、パーマを少しかけていて、肩につくかつかないか、微妙なところ。でもその人は背中の半分くらいある、つやつやな髪をしていた。
「もしかしてこの人、洋行くんの理想の人?」
「そうかもね。にしても髪キレイな人だなぁ。」
私はペンダントから手を離した。
「ねぇクリス。私、ストレートにする!」
「まじで?別にいいけど・・・。」
 夢の中で見た女の人が本当に洋行くんの理想の人なら、近づきたいと思った。まず一歩は、ロングつやつやストレートの髪!


【 五 】

「わ、佳果どうしたの?!」
「えへ、イメチェン?みたいな。」
「かわいいよ、似合ってるっ。」
由依子に言われるだけで私はかなり嬉しかった。
「あ、いいじゃん。」
・・・。
「えぇっ?!洋行くん?」
「あははっ、やっぱおもしろいわ。」
私は何だか頭が真っ白になってしまってとても変な答えになってしまった。でも、私はとても嬉しかった。あの夢は本当だったんだと、感動したし半信半疑だった魔女のクリスを本気で信じることができそうだった。


【 六 】

「ねぇクリス、あなた本物だったんだね。」
家に帰って私はクリスに満面の笑顔で話した。
「あったり前でしょうがっ。あたしは見習いだけどちゃんと魔法は使えるもん。」
「今日の夢もかなり楽しみだな!」
そして私は今日もクリスのペンダントに触れる。また昨日と同じ女の人が見えてきた。
「あっ・・・。」
今日の彼の夢は、はっきり見えた。この女の人は西川さくらさん。高二の先輩。すごく大人っぽくて勉強もできて、スポーツもできる。しかも美人という、私とはかけはなれた人だった。洋行くんが好きになってもおかしくない。私はさくらさんに完敗だった。
「あ〜っ、だめだぁっ。」
私はすぐに夢を見るのをやめた。でも、完敗と分かっていても悔しい。せめて、今までいい子ぶって長くしていた制服のスカートをさくらさんぐらいの長さにして、普通の女子高生をしようと思った。


【 七 】

「スカート短くしたねぇ。」
由依子はおはようの代わりにそう言った。
「もしかして・・・何かあった?」
「・・・ううん。何もないよっ。ちょっとイメージチェンジを・・・ね。」
「そっか。ならいいんだけど。」
私は昨日の夢がけっこうこたえたみたいで、今日はずっとなんだか憂鬱だった。


【 八 】

「ただいま。」
「?元気ないじゃん。」
「やっぱり昨日の夢は、私にはキツかったもん・・・。」
私はクリスにはなぜか本音が言えた。そして涙が出てきた。
「今日は・・・夢見るのやめる?」
クリスのその言葉を聞いて私は思う。
「あ、それは何か嫌。見る、今日も。」
私は周りの人からよく変わった子だと言われる。クリスも何だか不思議そうな顔をしている。
「よし!気合入れて見るぞぉー!」
そしてベンダントを握る。今日もはっきり見えきた。
「・・・やっぱりいるぅ・・・。」
さくらさんはたぶん、洋行くんの夢の常連さんなんだろう。
「・・・あれ?」
さくらさんのとなりにいた男の人の顔が見えた。その人は、洋行くんではなかった。高瀬尚樹さん、高二。一年生の間でも人気はかなり高い先輩。頭がよくてスポーツもできて、かっこいい。なんで尚樹さんが洋行くんの夢に出てるんだろう・・・。
「ねぇ、もしかして彼女、彼のことが好きなんじゃないの?」
「え?」
私はびっくりしてペンダントから手を離してしまった。さくらさんは、尚樹さんのことが好きなの?
「そっかー。で、その尚樹さんが洋行くんとやらの夢に出てるってことは、知ってるんだね・・・。さくらさんが尚樹さんを好きってこと。」
「てことは、洋行くんは失恋してるの?」
「そうゆうこと。」


【 九 】

私は昨日あまり眠れなかった。洋行くんが失恋したってことは、私にとってラッキーなことのはずなのに、なんだか淋しかった。
「どうしたー?なんか元気ないじゃん。」
「ん−。ちょっとねぇ・・・。」
ちょっとした沈黙。由依子は小さく言った。
「ねぇ、昨日から佳果らしくないよ。なんかあったなら言ってくれなきゃ悲しいよ・・・。」
由依子が自分の気持ちを語ることは少ない。しかも"悲しい"なんて私に向かって言うことはほとんど今までなかったから、びっくりした。
「ごめんね、由依子に隠し事がしたかったわけじゃないんだ・・・。でも、ちょっと言えないことなんだぁ・・・。」
クリスのことは、きっと内緒にしておかなければいけないと思って、言わなかった。
「もしかして、あたしのこと内緒にしたかったのぉ?」
「・・・。」
「ふあーっ。カバンの中はやっぱり厳しい!」
「・・・ちょっと待って!なんでクリスがここにいるの?!」
「てか、この子なにもの?!」
クリスは、どうやら毎日カバンの中に潜んでいたようだ。なんと由依子は、私のごちゃごちゃしてる筋の通っていない説明を分かってくれたみたい。
「でねっ、クリスは夢の中も見られるようなすごい子なの!」
「夢の中?」
私は、由依子になら全部話していいんじゃないかと思った。
「そう、私は最近、洋行くんの夢の中を見てるの。」
正直、怖かった。ちらっと由依子を見た。由依子はちょっとびっくりしていた。
「少しだけ、びっくりした。・・・そっか、だから最近佳果、変わってきたんだね。私はね、佳果が好きだよ。がんばってがんばって、努力したもん。戸田くんだって、佳果のがんばりに気づいてくれるはずだよっ。ねぇ、戸田くんに告白してみたらどう?きっとうまくいくはずだよ。」
「告白かぁ・・・。なんか怖いな。」
私の本心。いくらさくらさんに近づこうとしたって、洋行くんが私のことを見てくれる自信がないから、怖い。
「怖がっていたってなにも始まらないじゃない。」
由依子は私の手を取って言った。
「さ、行ってこい!」
クリスと由依子に背中を押され、私は洋行くんに告白することになった。


【 十 】

「呼び出しちゃってごめんね。」
「あぁ、別にいいよ、放課後はいつも暇してるから。」
私は洋行くんを教室に呼び出して、告白をすることにした。
「あのね、私・・・洋行くんのこと好きなのっ。」
洋行くんはびっくりしていた。
「え、本当に?」
「うん・・・。」
「俺さ、最近ちょっと変わってきた水沢も好きだったんだけど、ずっと変わらない明るくって優しい水沢も好きだったんだ。」
「・・・え、本当?」
そう私が言うと、洋行くんは笑って
「同じこと言ってる。」と、言った。
「じゃあっ・・・。」
「うん、付き合おっか。」
私は嬉しすぎて泣きそうだった。まさか、私のことを洋行くんが見てくれてるとは思わなかった。でも、夢の中で出てきたさくらさんは何だったんだろう・・・。
「ねぇねぇ、西川先輩のことが好きなんじゃなかったの?」
私は疑問を残すことが嫌だったから、率直に聞いてみた。
「え、西川先輩?うーん、あの人は俺の憧れなんだ。好きではない。憧れと好きは違うんだよ。」
「なるほどー・・・。」
「俺の一番は佳果だけだからな!」
洋行くんは思った以上に優しくてびっくりした。


【 十一 】

「由依子とクリスのおかげだよぉー!」
私は告白したその日、由依子の家に行って泣いてしまった。
「なんで告白成功したのに泣いてんのよー!」
由依子は笑って言った。

私は本当にいい友達を持った。そしていい彼氏を見つけたみたい。
私はこれからもこんな感じでピースを見つけ、ジグソーパズルを完成させていくんだろう。

終わり