海上の決闘!? 突入! 『望星丸(ぼうせいまる)』!!! 〜ナゾの調査船に潜入せよ!〜


…ポー! …ポー!

AM11:12。波力発電所の戦い (?) から、およそ1時間後。林さんは、どこからか聞こえてくる汽笛の音で目を覚ました。気づくとそこは、見たこともない港。その、海に面したコンクリートの上で、どうやら自分は小一時間ほど眠っていたらしいー

「イテテテ…」

体を動かそうとすると、まるで二日酔いのような鈍い頭痛が走る。一体、なぜ自分はココに…?

「ええと… 潜入をして、変なロボットを作ってる人を見つけて、それから、変な実験所を見つけて、それから… それから?」

思い出そうとしても、何も思い出せない。思い出せるのは、昨晩は得意先 (=大人にとって、とてもとても大切な存在) と朝までしこたま飲んでいたこと、そして、つい先ほど見ていた、奇妙な夢のことだけだった。

夢の内容はこうである。

大きな体育館の真ん中で気持ちよく寝ている自分。そこに、大学職員風の、変なオジサンがやってくる。

「お〜い兄ちゃん、勝手に入ってきて何やってんの! 起きて起きて!」

しかし、林さんはとても気分がよく、オジサンの言うとおりにしない。しかし、その大学職員風のオジサンは、それでも無理に起こそうとする。

「いや〜 頼むよ。…ほら、あっちの海沿いだったら気持ちイイ風も吹いてるし、寝るんだったらあっちの方が絶対にいいからさ」


ぼんやりした意識の中、オジサンは自分の体をかついで、港のような場所に自分を丁寧に連れ置き、また立ち去るー


なんとも奇妙な夢である。

「うーん… まあ、無事だったんだから、ヨシとしますか!」

過去は振り返らない。これぞ男である。



さて。林さんは次なる目標をロック・オンし、作戦を再開した。次なる目標、それは、先程まで寝込んでいた林さんの耳を鳴らした、あの汽笛の主である。遠くに見えるその船は、その白い体に太陽の光を反射させ、眩しく光り輝いていた。

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「一見、美しい船ですが… 黒い匂いがしますな。潜入してみましょう」

近くまで来ると、船上の乗組員たちの顔までがハッキリと見える。彼らはどうやら、まだ20代前半の若者だ。しかし、その動きは驚くほど機敏で、全く無駄がない。おそらく、日頃から厳しい訓練を受けているのだろう。見張りも厳重で、船に忍び込む隙は一切見当たらない。

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「ふん… こうなったら、アレを使うしかありませんな…」

と、林さんは、正気とは思えない行動に出た。

正面突破! しかも、ナゾの笑顔を浮かべながら!

林さんの作戦。それは、営業スマイルだった。普段から鍛え上げた笑顔で相手を油断させようというのだ。なんとも大胆な作戦。しかし、背中にはしっかりと『H&K USP』を握り締めている…

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「いや〜、本日はお日柄もよくなんちゃらかんちゃら…」

気持ちの悪い笑顔を浮かべながら近づいてきたスーツ姿の男に、警戒の表情を浮かべる若き乗組員たち。

「あのー、どうかしましたか?」

「いや、ホンッと今日は雲ひとつない天気で富士山が近くに見えまして… いや、と言いますのも、私の祖父が生前、富士山が非常に好きでなんちゃらかんちゃら…」

林さんの薄っぺらい営業トークに乗組員たちが関心を示そうとした (気がした) その時!

林さん、再度正面突破!!!!!

「ちょちょちょちょ! ナニしてるんですか!」

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…あえなく失敗。

「ちょっと、どうしたんですか? ひょっとして、何かの取材ですか? それだったら、ボクたちが案内しますから、どうぞコチラへいらして下さい」

取材? しめしめ、この若者たち、私のことを、何かの取材に来た人と勘違いしておりますな! …このまま、取材をしにきた体で忍び込む! …アリですぞ! …アリですな!

「これは○○で、アレは…」

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熱心に、林さんにいろんなことを教えてくれている乗組員たち。の、隙を見て、船内の部屋にふらりと忍び込む林さん。中には、様々な計器が並んでいる…

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と、そこに! 明らかに、彼らのボスと思われる、中年の男性を発見!

「手をあげるんですな!」

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しかし、悪の組織のボスらしき男に銃口を向けたその瞬間! 先ほどまで外にいたはずの若者たちが、林さんの体を取り押さえた。全く、恐るべき瞬発力である。

「ちょちょちょちょナニしてるんですか! これはボクらの船長なんですよ! …てか、一旦落ち着いて喋りましょうよ」

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林さんは、しぶしぶ席についた。すると、

「いやいや、これは、彼らの実習の一部でしてね」

日に焼けた顔が凛々しい、『キャプテン』と呼ばれる男が優しい声で語り始めた。

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「この船は『望星丸 (ぼうせいまる) 』といって、うちの大学の持ち物なんですよ。うちの学部は学科を問わず、入学した学生は一度は必ず乗船実習を受けることになっているんです。時には、船の上に泊まりこんで… あ、でも、ここにいる彼らの場合はちょっと違うんですけどね。彼らは未来の船長を目指す『航海学科』の学生ですから、4年生になると、一泊や二泊どころか、一年間の間も海の上で実習を受けるんです」

さすが『ナゾの海洋機関』だけある。普通の大学ではありえない『授業内容』に、林さんは目を丸くした。しかし、街で遊びたいざかりの若者たちだ。彼らにとって『乗船実習』は、過酷ではないのか。

「ボクらはとにかく、早く船長になりたいって気持ちでいっぱいなんで。陸で遊んでいるよりも、船の上で働いている方が断然楽しいですね。モチロン、実習は厳しいこともたくさんあるんですけど、みんなで船の上でおいしいご飯を食べたり、夜、デッキからみんなでキレイな星を見たり… やっぱり、楽しいことの方が多いですね」

客船、タンカー… 彼らがパイロットを目指す船の種類は様々。だが、彼らは、『船長』になるという共通の目的のもとに、全国からここに集まっているのだ。しかし、彼らの道のりは長い。卒業をして、航海士の資格を取った後も、船長になるまでにはまだ、ある程度の期間が必要とされるそうだ。なのに彼らは、未来のことをそれはそれは楽しそうに話す。

「だって、海が好きなんです。しょうがないじゃないですか」

美しい目。またしても誤解は晴れた。今日の空のように。

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船長との硬い握手を交わした後、林さんは、雲ひとつない空よりも晴れやかな心で、また海に出る彼らを見送った。

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「またハズレ…ですか。しかし、なぜかこの組織には、美しい目をした若者がたくさんいますなァ…」

いや、気を抜いてはいけない。
自分にそう言い聞かせ、林さんはまた次の作戦に取り掛かった。