「ニューアルバム『834.194』発売!完成までの6年間を振り返ります。」

SCHOOL OF LOCK!


今週、遂にニューアルバム『834.194』がリリースになったサカナクション先生!
今回の講義は、山口一郎先生がサカナLOCKS! の職員スタッフといっしょに、ニューアルバム完成までの6年間をじっくりと振り返っていきます。いつものSCHOOL OF LOCK! UNIVERISTYの時間割を変更して、大幅に時間を延長した特別編です。

山口「6月19日にサカナクションは6年ぶりのニューアルバム『834.194』がリリースされました!ありがとうございます!生放送教室を聴いてくださった皆さん、ありがとうございました。サカナLOCKS!はね、いつも……なんて言ったらいいのかな(笑)。いつもこういう感じですよね、諏訪さん。」

諏訪「そうです。あ、どうも。作家の諏訪です。」

山口「(爆笑) ……あれ、"諏訪さん"でいいんですか?」

諏訪「あの……SCHOOL OF LOCK!は、職員の名前があるんですけど、面倒くさいので諏訪カヲルということでよろしいですか?」

山口「ははは(笑) じゃあ、諏訪さんね。」

諏訪「いつも作家として笑い声を届けているんですけど。」

山口「あと、『NFパンチ』でもね。」

諏訪「そうっすね。」

山口「僕に扮装したりしてね。」

諏訪ダミー一郎になったりしてます。」

山口「いつもこのメンバーでお送りしています。あと、ディレクターの横川さん(ヘルツ先生)。あと、デミちゃん(AD)ね。この4人でサカナLOCKS!を長く続けてきたんですけど。それでは、本日の講義を黒板に書いていきたいと思います。」

SCHOOL OF LOCK!


SCHOOL OF LOCK!


山口「今夜は、サカナクションのニューアルバム『834.194』がリリースされるまでの6年間のこと、そして、このサカナLOCKS!での6年間のことを振り返っていきたいと思います。サカナLOCKS!がスタートしたのは、今から7年前。2012年4月。諏訪さん、覚えてます?」

諏訪「覚えていますよ。」

山口「その時に打ち合わせで僕が音楽の表側だけじゃなく、裏側も見せたいということを言ったと思うんですよ。あれは、ちょうど『DocumentaLy』っていうアルバムを作っていたタイミングだったんですよ。そのアルバムは、リアル……ミュージシャンっていうのはどんな風にアルバムを作っているのかっていうところとか、音楽好きの兄ちゃん姉ちゃんが、純粋に音楽を作っている裏側も全部見せたい。アルバムの中でそれを全部見せたいっていう時だったので、全部見せていこうっていうのを言ったんだと思いますね。」

諏訪「うん、うん。」

山口「で、5枚目の『DocumentaLy』がリリースされたのが2011年9月。そこからシングルで「僕と花」「夜の踊り子」「ミュージック」と、コンスタントに……(笑)」

諏訪「信じられないね。今から考えると。」

山口「そうですよね(笑)。これをリリースをして、サカナLOCKS!をスタートして1年、2013年3月13日に『sakanaction』がリリースされました。」

諏訪「サカナLOCKS!がスタートして、1年経ってそこから6年間アルバム出していないんですよ。」

山口「……それやばいですよね。」

諏訪「よく続けられましたね。サカナLOCKS!」

山口「これ、SCHOOL OF LOCK!の講師の中でアルバム出さなかった暦最長じゃないですか?」

諏訪「そうですよ。ダントツですよ。」

山口「そうですよね(笑)。いつもはこんな感じで職員と打ち合わせをしながら、こんなことをやりましょう、あんなことをやりましょうってやりながらサカナLOCKS!を作っているんですけど、それをそのままお送りしているという(笑)。この6年間のサカナLOCKS!の中で印象に残っていることはありますか?」

諏訪「やっぱあれじゃないですか……「グッドバイ」を初解禁した時に、一郎くんが泣いたっていうのがあったじゃないですか。泣きながら曲紹介をしたっていう。(2014年1月9日の授業)」

山口「ありましたねー。もう、本気泣きでしたもんね。」

諏訪「あれはもともと、「さよならはエモーション」をシングルで出そうとしていたんだけど、今はどうしても「グッドバイ」っていう曲を先に伝えたいからっていうことで、確かシングルにしたんですよね。」

山口「そうなんですよ。CMで「さよならはエモーション」が使われていたんですよ。CM尺だけ作って、派手目なテンションで。CMも流れていたんですよね。」

諏訪「流れていましたね。」

山口「で、「さよならはエモーション」をそのままシングルとして出す予定だったんですけど、どうしても「グッドバイ」を出すと心に決めて。理由を話していくと、サカナクションの『sakanaction』って、サカナクションがぐんと行ったタイミングだったじゃないですか。紅白にも出たし、ピークを迎えているというか。サカナクションが駆け上がっていくタイミングになったアルバムでしたよね。」

諏訪『sakanaction』っていうアルバムタイトルをつけちゃったじゃないですか。だから、完全にそこで何かこう……1回目の終わりを迎えたって感じがしていたんですけどね。」

山口「それもありますけどね。でも、さらにここからスタートするぞっていう……さらにセールスを増やして動員を増やしていくにはどうしたらいいかって考えた時に、なんか……テレビに出たり、音楽業界の政治的なこと。それもどんどん利用してやっていかなきゃいけないんだなと。でも、やっていくぞっていう気ではいたんですよ。みんなにも強がっていた気がするんですけど。でも、実際……紅白とかも出て、ザッキー(岡崎)とかも、メンタル壊れちゃったりして。僕自身もちょっとおかしくなったりしてメンタルも壊れて。やっぱり無理してたなっていうのが分かっちゃったんですよね。だから、そういった当たり前の方法で作為的にわかりやすい曲をどんどん出していって、このままのスタンスで続けていくのはサカナクションとして無理だっていうのが分かっちゃったんですよ。僕はそこで「グッドバイ」っていう曲でドロップアウトしようと。そういった流れから。一個ずつ積み重ねていったもの……『sakanaction』で積み上がって、膨れ上がってバランスが崩れていたものを一回倒してまたちょっとずつ積み上げていこうという気持ちを表現したかったんだろうなって……今振り返ると思う。」

山口「自分のことってやっぱよくわかんないなって。当時、分かっていなかったんだなっていうのは、6年経って今当時のことを振り返ると……今になって分かってきたなって感じがしますよね。多分、サカナLOCKS!で泣いちゃったのも……やっとできて嬉しいっていう涙じゃなくて……これで本当にドロップアウトしちゃったなって。」

諏訪「あ、この曲をシングルでサカナクションとして出すっていうことは、そういうことなんだなって?」

山口「うん。こっちに行くよって。そういう気持ちは本気であったと思う。」

諏訪「さよなら、紅白の世界!みたいな?」

山口「うん。そういう気持ちが本気であったと思う。」

諏訪「なるほどね。」

山口「僕は、ある種バランスを一回取り戻すために「グッドバイ」を作って、フラットにしたというか。オーバーグラウンド側に傾いていたのが、一回バランスを取ろうと。ぐっと反対側にバランスをとったんじゃないかなって思います。「さよならはエモーション」「ユリイカ」も、「蓮の花」も。」



サカナクション/グッドバイ

諏訪「あー……だから、ここから6年が始まっちゃったんですよね。」

山口「そう!(笑)」

諏訪「ははは!(笑) ここから始まったなって思いますよ。「新宝島」の歌詞を仕上げるために何回サカナLOCKS!をお休みしたかっていう。」

山口「この2014年の記憶って、パソコンの画面の記憶しかない(笑)。」

諏訪「それってどういう心境だったんですか?這い上がりたいと思っていましたか?」

山口「這い上がりたいと思っていましたよ。抜け出したいと思っていました。でもね、今思えば……僕ね、「エンドレス」って曲から始まっているんですよ、これ。」

諏訪「あ、一個前の(アルバムの)。」

山口『DocumentaLy』っていうアルバムで、今の時代を絶対に歌にしたいっていうことを「エンドレス」でチャレンジしたんですよ。あの時に、絶対にたどり着かないだろうなって思ってチャレンジしていたんですよ。どんだけ潜っても、どんだけ考えても、いろんな情報収集しても、今の時代を歌うことは絶対に無理だけど、絶対にこれを完成させないとこのアルバムはリリースできないって思っていたんです。でも……できちゃったの。9ヶ月かかっちゃったんですけど。」

諏訪「エンドレス」?」

山口「そう。できたから、どんだけ苦しくても、絶対に他の曲でもたどり着くっていう風に分かっちゃったんですよ。潜れば潜るほど、自分の音や音楽に必ずたどり着けるって自信がついたんです。」



サカナクション / エンドレス

山口「で、「ユリイカ」もそうだったの。"郷愁"っていうことを言葉にしたいって思ってチャレンジしていて、あれもタイアップだったんですよ。妻夫木くんの映画。」

諏訪『ジャッジ!』だ。」

山口「そう。澤本嘉光さんが脚本で。SoftBankのCMのプランナーで、今に繋がるんですけど。」

諏訪「そうですね。「忘れられないの」に繋がりますね。」

山口「そう。その「ユリイカ」の歌詞を書いている時も、絶対辿り着けないって思っていたから。でも、「エンドレス」であれだけやってたどり着けたわけだから、絶対に歌えるって思って。"なぜかドクダミとそれを刈る母の背中を思い出した ここは東京"っていうあの一文が出てきて。その話もみんなにした気がするけど。」

諏訪「した。覚えてる。」

山口「これが出てきて、やっと完成したんですよ。」

諏訪「グッドバイ」「ユリイカ」「さよならはエモーション」「蓮の花」……この4曲なんだ。」

山口「そう。この4曲が、僕にとって深海ですよ。アレンジはともかく、歌詞を担当する僕にとっての深海時代というか。」

諏訪「MVを見てもそうですけど、なかなかの狂気ですからね(笑)。」

山口「ユリイカ」にいたっては未成年が見られなくなって、年齢制限がかかっちゃって(笑)。」

諏訪「裸体をなぶるような……」

山口「そうそう。でも、僕はあの曲とMVができたときに、「目が明く藍色」ができたときと一緒で、サカナクションの新しい境地にたどり着いたって思ったんですけど、これまた全然評価されなかったんですよね。たくさんの人に聞いてもらえる状態にあったわけじゃないですか。」

諏訪「サカナクションの『sakanaction』までね。」

山口「そう。だから、「グッドバイ」とか「ユリイカ」にも、もっと反応があると思ったんですよ。クラスの10人くらいに届くようになった分、2人や3人……4〜5人には届くかなって思ったんですけど、狙い通り1人から2人だった(笑)。

諏訪「ははは(笑)。言い方は悪いですけど、うわばみが取れたみたいな感じだったんですね。」

山口「そうそ。でも、その分血が濃くなったというか。サカナクションを好きだった人たちの中でも、深い部分を愛してくれている人たちがさらに入り込んできてくれたんですよね。」



サカナクション / ユリイカ

諏訪「でも、その後に出たのが「新宝島」なんですよ。」

山口「そうそう。」

諏訪「これが、この4曲の流れでは生まれる流れではないような曲というか……広がり方。ミュージックビデオを含めて。」

山口「新宝島」をサカナLOCKS!の職員に聴かせた時、どう思いました?」

諏訪「本当に……今までの4曲のサカナクションのモードだったので……中1くらいのテンションでいうと、「びっくらこきました」(笑)!」

山口「ははは(笑)」

諏訪「ただ……純粋に、良い曲っていうと言葉が難しいんですけど……でも、良い曲っていう感想ですね。」

山口「それって、サカナLOCKS!の生徒が「新宝島」を聴いたらどう思うと思いました?SCHOOL OF LOCK!の生徒が聴いて、刺さるって思いました?」

諏訪「思いましたよ。」

山口「おー。」

諏訪「ラジオでこのイントロをかけた瞬間に、振り向いてくれるやつがいるっていうのはわかるんですよ。」

山口「あー、ラジオをやってきた人間としてね。」

諏訪「そうですね。(♪「新宝島」のイントロが流れて……)はい、振り向いた!って。」

山口「(爆笑)」



サカナクション / 新宝島

山口「この「新宝島」が生まれるきっかけを作った人間は、大根仁監督なんですよ。あの監督がいなかったら、この「新宝島」は生まれなかったんですよね。結構ダークなモードに僕らが入っていっていて、「グッドバイ」「ユリイカ」「さよならはエモーション」「蓮の花」ってモードに入っている時に、大根監督が劇伴をやらないかって。大根監督のテンションとしては、「グッドバイ」から「蓮の花」までの4曲はないんですよね(笑)。」

諏訪「(爆笑)」

山口「なくなってたんですよ。「そうなの?」くらいな。「行こうぜ!サカナクション!」ってノリで来ていたんですよ。僕らは海でいうとどちらかというと凪いでいる状態なのに。」

諏訪「あの、『モテキ』の神輿でやってきたんだ(笑)。「曲作ろうぜー!」って(笑)。」

山口「そうそう(笑)。来ちゃったから、それに応えないといけないなっていうのもあったし、今までの4曲とは違うテンションにしなきゃいけないっていう覚悟は、劇伴をやっていく中で見えていたんですよ。」

諏訪「それはサカナクションとしてそっちを向かないといけなかったんですか?それとも、映画の主題歌としてこういう風にしなきゃいけないって?」

山口「映画の劇伴を受けた時点でサカナクションとしてもそっちにいかなきゃいけないっていう気持ちになったんです。チャンスだと思ったんです、僕は。「自分の心象スケッチだったり、深海的なこと……ドロップアウトした自分たちが、浅瀬に向かっていくきっかけみたいな。呼吸するチャンスみたいな。」

諏訪「それをどっかでやっぱり待っていたんだ。」

山口「そう。自分はずっとえら呼吸の魚だと思っていたら、実は肺呼吸だったっていう(笑)。

諏訪「(笑)」

山口「やっべ、呼吸しなきゃだめになってきた……っていう気持ちになったのかな。」

諏訪「でも、この曲でサカナクションを知ったっていう世代があるじゃないですか。で、そこからまだアルバムまで4年かかっているんですよ。」

山口「マネージャーのサバちゃんもこの辺でチームサカナクションに入ってきたんですよ。だから、サバちゃんは今回マネージャーになって初のアルバムリリースなんですよ。」

諏訪「だいぶかかったね。」

山口「そう。初プロモーションなので。」

諏訪「すごいっすね。」

山口「で、翌年に「多分、風。」をリリースして。」



サカナクション / 多分、風。

山口「これも歌詞がね……サカナクション史上初の発売延期です、これが。」

諏訪「これが、記念すべき1回目の?(笑)」

山口「そう。これ、最初は「多分、汗。」だったんですよ。で、発売が夏じゃなくなったから、秋の汗にしなきゃいけなくなって……風になったんですよ。」

諏訪「これなんか、めっちゃアレンジの数いっぱいありませんでした?」

山口「ありました。」

諏訪「サカナLOCKS!で流した気がする。(2016年12月1日の授業)」

山口「あー、そうそうそう!」

諏訪「書き込みがあったんですけど、SCHOOL OF LOCK!の。」


モス
モス聴かせてもらいました!
浅瀬の攻めた曲調でありながら、自分らしさを肯定してもらえるような歌詞でとても好きです。
あと、めっちゃ好きだった多分、風。の別メロディーが進化して使われていて感動しました。
最高です!

山口源一郎
男性/18歳/千葉県



モス
モス聴きました!
この掲示板で他の人も書いていたのですが、私もモスの前奏を聴いた時「あ!多分、風。の時に流れた音源だ!」と思い興奮しました。
確か「爪、爪、爪、爪で描いた…」みたいな歌詞も付いていたような…?
どうしてこのメロディーをモスで使うことになったのかが気になります!

マルナガ
女性/17歳/東京都


諏訪「生徒が、「多分、風。」のときに、いろんなパターンのアレンジとかリズムとかを流したのがアルバムに入ってません?って。」

山口「あ、そうだそうだ!あれ「モス」のサビじゃない?違う?」

諏訪「その時に聴いた生徒が覚えていて、アルバムで再会してるんですよ。」

山口「へー!僕自身も忘れているのに……。」

諏訪「言ってもね、発売じゃないアレンジをラジオで聴けるってなかなかないんで(笑)。」

山口「ははは(笑)。そうですよね。でも、裏側を見せるっていう意味で、サカナLOCKS!で最初にたてたコンセプトが思い通りにいっているわけですよね。」

諏訪「はい。」

山口「ちょっと待って、1年に1枚ずつシングルを出しているってこと?1年に1枚しか出していないの?」

諏訪「まあ……この後のことを考えたら、まだ出ている方よ?」

山口「この後を考えるとね(笑)。」

諏訪「多分、風。」までは出てたなって僕らは認識していますよ。」

山口「まだ良い時?」

諏訪「まだ出ていた時ですよね、山上さん。(ビクター山上さんが「出てました」と返事をする)……ね!」

山口「この後だってカップリング集とか出しているわけでしょ?」

諏訪「あれだよ……なんか出さなきゃいけなかったんですよ。」

山口「契約上ね、ビクターの。」

諏訪「アルバム出すっていう契約にハンコ押してあったんですよ。ベストも。」

山口「ベストも、これは出さなきゃやばかったやつ。」

諏訪「ベストは、ベストを出すっていうことは、いよいよアルバムを出さなきゃいけない人のタイミングですよね?」

山口「いや、ここは説明させて欲しい。『魚図鑑』を出すことになった理由としては、アルバムを出す上で、シングルたちがたくさんたまっていると。このシングルを全部アルバムに入れると、コンセプトとしてただのシングル集になっちゃうんじゃないのって。」

諏訪「一枚のアルバムだとね。」

山口「だったら、もうベスト盤を出して、ベスト盤にそのシングルを全部入れて一回終わらせよう、チャラにしようって。そういう意味で、HIP LAND野村プロデューサー……社長になりましたけど。その野村さんは、ベスト盤を出すことは否定派だったんですよ。ずっと昔から「ベスト盤っていう考え方は好きじゃない。アルバムでちゃんと表現するのがバンドなんだ」って。だけど、僕と山上さんで、「全部シングルを入れないとアルバムを作れません!」って言ったら、野村さんが「わかった、ベストを出そう。」って。で、ベスト盤を出すことになったんですけど、僕は途中で気が変わって。いや、待てよと。この6年間を無視してなかったことにするっていうのは、バンドとしてどうなんだって。例えば、(草刈)愛美ちゃんが妊娠して出産した時期のこととか、アカデミー賞を獲った「新宝島」とか、タイアップをやったっていう自分たちのドラマを無視するわけにはいかないと。その6年間を包括してアルバムを新たに作りたいっていうことにして、急遽ベストアルバムには「陽炎」(※–movie version-)「新宝島」だけは入れて、シングル曲を抜いたんです。」

諏訪「え……」

山口「なくしたの。ちゃんとアルバムを完成させようと思って。だから、アルバム出す出す詐欺の前に、野村さんに、ベスト盤に全部シングル入れるよ詐欺を働いていたの。」

諏訪「二回やってますよ(笑)。」

山口「身内で一回やっていたっていう(笑)。」

諏訪「でも、『魚図鑑』で出会えたリスナーはいたわけじゃないですか、きっと。ただ6年間が経っていたわけじゃなくて。そういうリスナーたちを獲得していく中でのリリースなのかなって思うんですよね。」

山口「うん。僕は『魚図鑑』をリリースして今回のアルバムのコンセプトが決まったんですよ。ベストアルバムって、"深海""中層""浅瀬"って海の深さの中に自分たちの今までの曲がどこに属するのかって振り分けたんですね。その中で、札幌時代の曲は比較的中層から深海にあって、東京に来てから作った曲はほとんど浅瀬だったんですよ。この分布はなんなんだっていうのを『魚図鑑』を出すことで客観的に分析できて、僕たちって作為性を持って東京で音楽を作っていたけど、札幌時代に作っていた時って作為性みたいなものはなかったよなっていうことを考えて、これはひょっとしたら新しいアルバムのコンセプトにする時にひとつのヒントになるんじゃないかって。『魚図鑑』を出すことで発見できたんです。だから、出してよかったなって。」

諏訪「なるほど。6年って数字でみたら、めちゃめちゃ長いし、待たせているし、時間が経っているなって感じだけど、一個一個の物語というか、事柄を見ていくと、やっぱりそこに至るまでの必要なものしかないんだね。」

山口「僕にとっては、1曲は1アルバムみたいなものですからね。」

SCHOOL OF LOCK!


諏訪「僕、思うんですけど……何かのものを作る時って、当然100パーセントを目指して作るじゃないですか。でも、結構な割合で、繰り上げで100にするんですよ。これを100だって。」

山口「僕らね……100点狙わないんですよ。」

諏訪「おー、100パーセントじゃなくて、100点ね。」

山口「100点狙わずに、150点狙いにいくんですよ。」

諏訪「あー……もう次元が違ってたー(笑)。」

山口「100点を狙いにいくと、どうしても70点や80点くらいになっちゃうんですよね。でも、150点を狙いにいくと、100点を超えるチャンスが出てくるんですよ。」

諏訪「これ、数字で言うのは簡単だけど、100パーセントを目指すのがめちゃめちゃ難しくて、その上で150点目指すってとんでもないことなんですよ。」

山口「ふふふ(笑)。自分に設計図があって、その通りに作るのって簡単じゃないですか。お手本があって、説明書があって、その通りに組み立てて作ってもその通りにはできないですよね。2ミリずれたり、斜めになったり。でも、僕らには設計図……お手本がないっていうか。つまり、完成するものがどんなものかわからない状態で、自分たちの感覚で良いっていうものを組み上げて行って、できたものが自分たちにとって良いかどうかもわかんないっていうか。だから、世の中に出て評価された時に、初めてこれは良いって言ってくれたんだとか、これはあんまり響かなかったんだってわかるから。150点目指して作って、自分たちにとって120点だと思っても、リリースしたら70点だったりとか、5年後には100点になっていたりとか。すごい変動する感覚。でも、そういう風に思えるっていうのはやっぱりどこまでも詰めていくっていうか、諦めない根性。絶対に自分たちの課題をクリアするんだ、自分たちが良いと思うところに辿り着くんだっていう精神というか……考え方だと思っているんですけどね。」

諏訪「またラジオに戻るんですけど、サカナLOCKS!と他の番組で、ユーミン(松任谷由実)さんと対談したじゃないですか。」

山口「僕は、あの時ユーミンさんに……今思えば本当に怖いんですけど、「僕もポップスを作りたいです」って言ったんですよ。そしたらユーミンさんが間髪入れずに、「あんた何言ってんの。あんたはもうポップス作ってるじゃない。」って言ったんですよ。僕その言葉に驚いちゃって、「どういうことですか?」って聞き直すと、「ポップスっていうのは、今この時代の流行に乗ったものを作るってものでもないし、30年後や40年後に評価されるようなものでもない。5年後に評価される1歩先の音楽がポップスなのよ。」って僕に言ってくれたんですよ。「あんた、それもう出来てるじゃない!」って。僕はもっとわかりやすくとか、自分が難しくなってしまう言葉を通訳しなきゃいけないとか、そんなことばっかり考えていたのに、ユーミンさんに「もう出来てるじゃない」って言われた時に、このままで良いのかもって……1歩アクセルを深く踏めたというか。進もうって思えたんですよね。僕もずっとそんなことを考えていたんですよ。手の届かない遠いところじゃなく、横並びじゃなく、手を伸ばせば届く一歩先の音楽を作りたいって思っていて。それって僕はマイノリティ的な要素を含む言葉として使っていたんだけど、ユーミンさんはそれを完全にマジョリティ側の言葉として言っていたから……逆転しちゃったというか。」

諏訪「すげー……」

山口「それで、僕は「忘れられないの」っていう曲をチャレンジして作ったんですよね。」



サカナクション/忘れられないの

諏訪「これはAORではあるんですか?」

山口「うん。1978年の、Bobby Caldwellっていう、日本でものすごく流行ったミュージシャンがいるんですよ。こういう音楽ってどういう構造で出来ているのかなとか、こういう時代の音楽ってどういう音楽があるのかなとか、これに影響を受けている人たちはどういう人たちなのかなっていろいろコンテキストを探しながら聴いていってたんですよ。山下達郎さんとか。」

諏訪「そうですね。今、山下達郎さんってまためっちゃ海外で評価されているって言っていましたね、横川さん。」

山口「そう。それが和物っていう形で山下達郎さんのレコードが出回って、めっちゃ高くなってるんですよ。日本に今はあんまりなくて、海外にいっちゃってるんで。」

諏訪「えー。」

山口「なぜ今、山下達郎さんの音楽が海外で再評価されているのかっていうのを分析した結果、僕らがたどり着いた答えは……つまり、山下達郎さんはあの時代に聴いて影響を受けていた音楽を本気で愛してそれを模倣したっていうか……本当にそのグルーヴを出そうとして試行錯誤して出来たのが当時のアルバムだと思うんですよ。なんだけど、日本人が感じているグルーヴと海外の人たちが感じているグルーヴって本質的に違うというか。」

諏訪「わ……」

山口「僕たちは、カスタネットを小学校で叩くわけじゃないですか。ドン、パ、ドン、パ、ドン、ドン、パッ!って。表のノリが日本人にはあるから、どうしてもそこでリズムを取るけど、海外の人は裏でとるというか……よく、踊るのがかっこいい人は裏でのっているとか言うけど、そういうのが本質的にあると。だから、海外の人が、日本人が真剣にカバーした時にその通りにならない違和感を今聴くと「何このグルーヴ!」ってなっている。そのずれが、いい意味で。僕らも今自分たちが愛してきた音楽だったり、美しい過去の音楽の影響を受けて、現代に落とし込むとどうなるのかなって真剣にやってさえいれば、今この時代にも、5年後にも10年後にも20年後にもちゃんと聴いてもらえるものになっているんじゃないかなっていう答えがあったんです。「忘れられないの」はそういうものにしようって、作っていたのがあります。」

諏訪聴きッドルーム(「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」)とかもそうですか?」

山口聴きッドルームもそうですね。でも、聴きッドルームは、どちらかというと、「新宝島」を作る時の物語としてできた曲なんですよ。話がちょっと戻るけど、暗黒時代……じゃないや(笑)。」

諏訪「言っちゃったじゃん、自分で(笑)。」

山口「……深海時代(笑)。その深海時代の4曲を作って、あのモードになっていた時に、どうしても「新宝島」を完成させないといけないと。だけど、外に向かって音楽を発信する動機やモチベーション、大義だったりがなかったんですよ。だって、広げるのやめたってしていたのに、状況的に『バクマン。』の主題歌を作るには外に広げないといけないって悩んでいて、「新宝島」の歌詞が書けなかったんですよ。それで、モチベーションや大義がなきゃいけないって決断して、『NF』のイベントをやらせてくれないと、僕はこれ以上、歌詞を書かないって。」

諏訪「出た!3回目の脅迫ですよ。」

山口「ははは(笑)。要するに、たくさんの人にこれからも広げていく。その代わり、広げていった人たちを連れて行く場所、空間を作りたいと。これも次のアルバムの表現になるはずだと言って、『NF』っていうのを作って、「新宝島」を完成させたんですよね。」

諏訪「歌詞がそうですよね。「新宝島」の歌詞。」

山口"このまま君を連れて行くよ 丁寧に"と。で、「新宝島」を作ったから、連れて行く先の曲をカップリングにしようって、「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」で。「新宝島」で来て、サカナクションにはいろんな乗り物がある……「多分、風。」「アイデンティティ」だ……すごく楽しい。「シーラカンスと僕」はちょっと独特の雰囲気……「三日月サンセット」はすごく沁みる。「グッドバイ」は今やっとわかってきた……って。音楽ってすごく楽しいかも……ってたどり着いた『NF』Night Fishingっていう夜釣り。そしてかかってきたのがこの聴きッドルーム。遊びに来いよって。ライブだけじゃなく、ここでも一緒に遊ぼうよっていう。入口と出口の曲なんですよね。だから、アルバムにも……当時、(草刈)愛美ちゃんが妊娠中だったから、レコーディングに来られなかったんですよ。だから、実はこの曲のベースはモッチ(岩寺)が弾いてるの。」

諏訪「へー!」

山口モッチザッキーエジ(江島)と僕の4人だけで収録した曲なんです。それも、そのまま6年間の記録として収録したの。」

諏訪「そうなんだ、録り直していないんだ。」

山口「で、愛美ちゃんに、サカナクションで一番好きな曲何?って聞いたら、「「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」」って(笑)。「この曲最高!」って。そのドラマも分かって言ってくれていると思うんですけど。それはそのまま今回のアルバムに収録したんですよね。」

諏訪「そうですか……!」



諏訪「ちなみに、アルバムの話になるんですけど、「モス」って最初「マイノリティ」ってタイトルだったじゃないですか。「モス」っていうタイトルになる経緯みたいなのも聞かせてもらいましたけど。僕、この「モス」をツアーで聴いた時に、本当に感動して。」

山口「へー。」

諏訪「なんでしょうね……本当にずっと曲作りに悩んで、アルバムが発売延期になった後にツアーがあったじゃないですか。そこで、こんなに素晴らしい曲ができていたんだっていうので、めっちゃ感動したんですよね。」

山口「モス」、好きですか?」

諏訪「僕、大好きです。」

山口「へー、意外!」

諏訪「僕は、結構ベタに好きなんですよ。こういう曲が。断然DISC1!って言っちゃうタイプの男なので。DISC2は人生で必要な時がやってくると思ってるタイプなんです。わかりますか?」

山口「なんとなくわかる(笑)。でも、この曲を作った時、円グラフを書いて作っていて。」

諏訪「円グラフ?どういうことですか?(笑)」

山口「この曲のコンセプト……DISC1に入っている曲は、作為性をもって作っている曲だから。」

諏訪「僕は作為性にはまるタイプなので。」

山口「ははは(笑)。その諏訪さんが釣れた「モス」っていう曲は、円グラフがあるとしたら、メンバーと話し合って結果的に落ち着いたバランスっていうのが……」

SCHOOL OF LOCK!


SCHOOL OF LOCK!


山口「25パーセント、Talking Heads感。25パーセントは山本リンダ感。」

諏訪「イントロね!」

山口「そう!でも、後で気づいたんですけど、これは相川七瀬感なのかもしれないって(笑)。」

諏訪「ははは(笑)。相川七瀬山本リンダ感なのかもしれないしね。」

山口「よくわかんなくなっちゃってるけど(笑)。"夢見る少女じゃいられない"かもしれなかったんですけど(笑)。で、1990年代〜2000年代のUKロック感。これは、Bloc Partyだったり……僕らの青春です。UKロックにものすごく勢いがあって……UKインディーロックって言っていいのかな?Klaxonsだったり。その辺の感じを出したかった。残りの25パーセントがC-C-B感。」

諏訪エジーがピンクの髪で歌ってる感じでしょ?」

山口「ははは!(笑) C-C-Bがわからない人は検索してみてください(笑)。その、Talking HeadsUKロック山本リンダC-C-Bの4つを混ぜ合わせてサカナクションらしい曲を作るとどうなるのっていうお題でやり始めたんです。」

諏訪「ほー!作為性っていうのはそういうことでもあるんですね。実験的なところがあるわけですね。」



山口「マッチとピーナッツ」っていうアルバムの曲は、Bee Geesっていう「Stayin’ Alive」とか、70年代の超モンスターディスコバンドですよ。そのBee Geesジュディ・オング。」

諏訪「魅せられて」。」

山口「そう。これが、「マッチとピーナッツ」のBメロの部分なんですよ。"心が こぼれた"のところ。」

諏訪「わかる!……でも、これ聴いている人が誤解するかもしれないけど、まんまやっているとかじゃなくて。パクったじゃんとかの世界じゃなくて。」

山口「世界観の話。」



山口ジュディ・オングだと思って聴いてみて。」

諏訪「本当だ……広がってる!(笑)」

山口「なんとなくわかるでしょ?」

諏訪「いや、っていうか……それで作れているメンバーがすごい!これは。この例えで、こうですねってやっているメンバーがすごいよ!一郎くんの中にある音楽と映像込みで鳴っているものをキーワードとしてメンバーに渡して、今のサカナクションが鳴らす音としてあの曲ができているとしたら、俺はメンバーがすごいと思う。」

山口「そうそう(笑)。で、セッションでこんな感じじゃない?っていうのができて、歌詞を入れていくんですけど、「マッチとピーナッツ」は、Bee Geesジュディ・オングに合う歌詞ってなんなんだろうって……僕がたどり着いたのは、(漫画家の)つげ義春だと思ったんです。」

諏訪『ねじ式』!」

山口「ははは(笑)。『紅い花』とか。漫画っていうものがただ単なるエンターテイメントじゃなく芸術だった時代のシュールさ。それを混ぜ合わせると面白いことができるんじゃないかと思って、"深夜に噛んだピーナッツ 湿気ってるような気がしたピーナッツ"って。そのコンセプトが、つげ義春×Bee Gees×ジュディ・オング。」

山口「やっとたどり着いた……この6年間。サカナLOCKS!で見守られながらやってきましたけど。」

諏訪「このアルバムを10代とかがどんな風に受け止めてくれるのかなみたいなのは気になるところかなと思うんですけど。」

山口「作為性って僕が言ってきましたけど、作為性も表現なわけですよね。表現としての作為性だから。そこに引っかかってくれる10代はきっといるだろうなって思うんですよ。「新宝島」とかも入っているし、DISC1の受け止められ方は想像できるんです。でも、DISC2を10代の子たちがどう捉えるのかっていうのは想像できていない。」

諏訪「僕は、DISC2は本当にお守りだと思っていて。DISC2の曲たちがいつか君を救ってくれる日があるよっていうか……そういう気がしているんですよね。」

山口「うん……ユーミンさんの言葉を思い出すんですけど、DISC1を聴いて、DISC2をあまり聴けていない子たちが、5年後にDISC2を聴いてくれて、めちゃくちゃいいって思ってくれる……そんな風になるといいなと思っていますけどね。」

諏訪「でも、僕らが思っている以上に10代の子たちもすごく感受性豊かというか。受け取ってくれているかなと思いますよ。」

山口「うん。リスナーを信用しなきゃだめだなっていうのは、ミュージシャンとして大前提にあると思います。これを作っても理解してくれないだろうなとか……」

諏訪「そういうのってあります?理解してくれないだろうなって。」

山口「昔はありましたよ。自分たちとしてはこの感覚がバッチリだけど、もう少しわかりやすく変えようってチャレンジをしたりしていたけど、それはもうやめましたね。このDISC2では、「茶柱」っていう曲にはドラムも入っていないし。ピアノと歌と蝉の声だけ。蝉の音のノイズだけっていう……普通だったらもうちょっとビートを入れてみようかとか、明るくしてみようかっていうのがあったけど、このままでいいって。絶対に理解してくれるはずって。そう信用することができてたからこそ、作れたかなって思います。」



山口「ということで、6月19日にニューアルバム『834.194』リリースされました!サカナLOCKS!もこんな風にオンエアされていますので、サカナLOCKS! UNIVERSITYも今後ともよろしくお願いします。ということで、今回の講義はここまで。いいですか?諏訪さん。」

諏訪「大丈夫です。」

山口「音で学ぶ、音を学ぶ、音に学ぶ音楽の講義、サカナクションの山口一郎と、」

諏訪「作家の諏訪でした。」

山口「さよなら!」

諏訪「ばいばーい。」

今回の講義は、先日GYAO!にて配信された、一郎先生とサカナLOCKS! 職員による講義『サカナLOCKS! 外伝』を再編集したものです。

SCHOOL OF LOCK!

サカナLOCKS! 放送後記

もっと見る

LOCKS!SCHOOL OF LOCK!の講師陣

  • ミセスLOCKS!

    Mrs. GREEN APPLE

  • Saucy LOCKS!

    Saucy Dog

  • 宮世琉弥

    宮世琉弥

  • 乃木坂 LOCKS!(賀喜遥香)

    乃木坂46(賀喜遥香)

  • 乃木坂 LOCKS!(井上和)

    乃木坂46(井上和)

  • SEVENTEEN LOCKS!

    SEVENTEEN

  • INI LOCKS!

    INI

  • 景井LOCKS!

    景井ひな

  • ビーバーLOCKS!

    SUPER BEAVER

  • 新しい学校のリーダーズLOCKS!

    新しい学校のリーダーズ

ページトップへ戻る