11/19 「メジャーとインディーズ(1)」
自宅レコーディングがどういうものかを説明すると、僕の部屋は防音工事とかはされていない、普通のRC鉄筋のマンションなんですけど(笑) その中で、床にキーボードを直に置いたり、ドラムは叩けないから、打ち込みっていう形でレコーディングしています。これがすごくいいんですよ。やっぱりね、デビューしてスタジオ・レコーディングとかに慣れると、アシスタントの方がいたり、機材もちゃんと揃っていたり、人が多かったりして、作るっていう事が仕事っぽくなっていっちゃうんですよ。 でも本来、僕らサカナクションは音楽が好きで集まった5人なので、みんな、最近どんな音楽が好きなのかとか、普段よりもたくさん感じながら、話し合いながらレコーディングできているっていうのがすごく良いです。ちょっと進行は遅れていますけど、いつかこの授業でまた新しい曲を紹介できたらと思っています。ラジオネーム、俺は波に乗らない……良い名前ですね。出席!」 さて、今回の授業は、みなさんに提出してもらった小論文の宿題、「メジャーとインディーズのメリット、デメリットについて140字以内で述べなさい。」を紹介しながら、"大変良くできました" などのハンコを押していきます!
「確かに、インディーズの形態からリリースしている人たちは、自分たちで制作して、自分たちで宣伝もしなきゃいけないっていう側面があるのかな、と僕も思いますね。例えば、僕たちが所属しているビクター(Victor Entertainment)や、ソニー(Sony Music Entertainment)、EMI(EMI Music Japan)などの、メジャーレーベルからリリースしている人たちは、関わっているスタッフが多いし、プロモーターっていう人たちが全国にいるわけですから、各地で宣伝してもらいやすいです。 あと、"テレビ担当" っていうスタッフもいて、そういう人たちがテレビ局にプロモーションしてくれて、テレビとかに出演する機会をもらったりします。そういう意味では、きぃちゃんが言っている事は間違いではないと思います。観点としては良いですね。」
「なるほどね。でも、これには色々と間違いがありますね。メジャー・ミュージシャンは、レーベルと契約していますけど、雇われている訳ではないんですね。 例えば、1年契約や2年契約というような形で、「1年で1枚アルバムを出してください。」「2年間で必ず2枚アルバムを出してください」という風に契約をしています。 "ショット契約"と言って、アルバムを1枚出すだけの契約もあります。基本的に、ミュージシャンは自営業と同じで、家で商売として八百屋さんをやっているのと同じなんですね。そのレーベルの社員ではないので、雇用保険もないです(笑) 雇われている訳ではないので、"思い通りにいかない" という事は特にありません。 もちろん、レーベルによる戦略があって、それに沿ってやっていくミュージシャンもいると思いますが、ミュージシャンとレーベルが相談していく、というのが大半なのではないかな。そうではないミュージシャンもいると思うけど、全部をそういう風に捉えるのは間違いなんじゃないかな。あとは、メジャーレーベルからリリースするとしても、デビューしてすぐは、制作費や宣伝費を多くもらえる訳ではありませんからね。最初のそういう状況の中で結果を出していった人たちが、制作費や宣伝費をたくさんもらうようになります。 "インディーズの人たちがCDの収益金が全て自分に還元されるところ" とありますが、これも一概に正解とは言えないですね。インディーズといっても、1人でやっている人は別として、インディーズ・レーベルに所属している人は、レーベルにも収益がないと成り立っていかないので、全ての収益が、作った人に入ってくるという訳ではないんです。これは、原盤権が絡んでくる話になるのですが、これまた複雑なので、違うタイミングで詳しくお話ししていきたいと思います(笑)」 「簡単に例えてみると、生徒の君が、花瓶を自分で作ったとしましょう。その材料費を自分で負担したら、売った収益は自分のものになるけど、花瓶の材料を誰かがもってきてくれたり、代わりに支払ってくれたりすると、その人たちにその費用を払わなければならなくなりますよね。 もってきた人にも還元しなければならないし、関わってくれた人にも還元しなければなりません。インディーズだからといって、アーティストだけで作っているとは限らないんです。そして最後の、インディーズのデメリットに関して、"失敗したら全てが自己責任" という部分は、メジャーでも関係なく自己責任で、作っている人の責任になってくるので、これもちょっと違うかなと思います。ただ、一生懸命考えてくれたんだよね。ありがとう!」
「うーん、なるほどね。つまり、うみねこは、世の中に知られているというのが、リスナーのひとつのステータスであるという風に考えているという事ですね。しかし、今のネット社会では、インディーズもメジャーも関係なく、YouTubeだったり、Twitterで、自分たちを宣伝する事ができますし、ミュージシャンはUstreamなどで、自分のメディアを持つ事ができます。 Ustreamがすごく注目されたのは、自分たちの音楽で自分たちの話を好きなタイミングで簡単に話せる手段として "自分たちから発信できる" からです。うみねこちゃんは、その中で、無作為に誰もが耳にしたり目にするような、世の中に広く伝わっている音楽を聞く事にステータスがある、という風に感じているのかなと思います。"YouTubeで話題になったりした場合は別" とありますけど、世の中に浸透したミュージシャンのことをメジャーだという感覚があるのかな。ちょっとずれてるけど、今の若者って感じがしますね。」
「確かに "メジャーの利点は、流通組織を通してCDショップに置いてもらえる" っていうのは合っています。CDを作って、お店に届けてくれたり、返品したり、在庫が無くなったら送ってあげるっていう、大きい流通を利用しているっていう所ね。 ただ、インディーズも、インディーズ用の流通っていうのがあるんですよ。CDショップに行くと、インディーズのCDを置いているところもありますからね。だけど、全国の小さいレコードショップまでは行き届かないし、お店も売れる見込みが無いものは入荷させないし、宣伝されているものを置く方が安心するので、インディーズの商品を入れるのはなかなか難しいのかなって感じもします。だから、"ライブ会場やネット販売等の自主流通しか無い" わけではありません。 "現代は音源のみをネットで販売できます" っていうのは、メジャーもそうですね。『配信限定リリース』という形は、ネットに音楽を置いておくだけで、どんどん収入になってくるという部分がとても現代っぽい、ひとつの方法です。音楽をたくさんの人に届ける方法論みたいなものが、メジャーもインディーズも、大きな変化が無くなってきているという時代なのではないかと思いますね。」 ということで、そろそろ今回の授業も終了です。 最後に山口先生から、今日のまとめを。 「皆さんの宿題をみてきて、メジャーは「自由にできない」「お金がある」「売れてる」。そして、インディーは「自由にできる」「お金がない」「売れてない」というイメージを持っている生徒が多いみたいだと感じました。「メジャーになれば宣伝バンバン打ってもらえるし、CDもドンドン流れるし、お客さんもガンガン入る、ジャンジャンくる!」みたいな感じで(笑)、インディーは、「好きな事やる!針の穴通すような音楽作る!」みたいなイメージがあるみたいですけど、そんなことないですからね。 メジャーだってCDが売れない時代になってきていますから、制作費やら宣伝費もなかなか無いし、タイアップとかも、ごく一部のミュージシャンしか獲得できないものになっています。テレビのCMとかで1本CMを打つのにどれだけお金がかかるのか、みなさん知っていますか?ミュージックステーションの間のCMに、自分たちのミュージックビデオを15秒流すのに、みなさんが想像している以上の額がかかるんですよ。 メジャーでも、よっぽど期待されているミュージシャンじゃないと、そういうことができないわけですね。インディーズはその点、自分たちのレーベルで自分たちの音楽が世の中に響くように、ひとつのコミュニティにしている人たちが多いかな。それは素晴らしい事だし、スタイルの違いっていうだけだと僕は思います。」 ということで来週は、山口一郎先生による140字では収まらない、詳しい「メジャー/インディー論争」をお届けします!実は、山口先生、過去にこのテーマでコラムを書いた事があるそうなので、その時の話を元に、授業してくれることでしょう。来週の授業に続く! M アイデンティティ / サカナクション |