サワカリー先生


「想像ラジオ」
いとうせいこう(著)

たとえば、SCHOOL OF LOCK!でオンエアする曲を、
誰が決めているのかというと。

そりゃあもちろん、校長や教頭、
そして、この学校の職員たちでもあるんだけど。

誰に聴いてもらうためかというと、
当然、生徒のみんなで。

そんなキミに届くように必死で選んだ音楽や言葉を、
誰が決めたかというと、もう、職員じゃないと思うのよ。

いや、本当にそうあるべきだと思うの、奇麗事が言いたいんじゃなくて。
もちろん、うまくいかない時もたくさんあるんだけど。


本当にキミに届く音や言葉を選べるかどうか。その勝負。
それは、単なる“リクエスト”とは次元の違う話。

「恋人にフラれて悲しいんです」
そう言ってあの子が泣いている理由は、本当に恋人のせいなのか。
それとも、辛い時に助けてくれる友達が、誰もいなかったからなのか。

“空気を読む”。
それは、周りの人間に合わせるということではなく。

それはまるで、神からお告げを得る巫女(みこ)のように。
空に浮いている“答”をその手でつかむ。

「神様、あの子が本当に考えているのは、どんなことなんですか?」

大切な人の本当の心の中を想うことが“想像”であり、
そして、その後にキミが起こす行動が、“創造”なんじゃないか。

おこがましい行為かもしれない、でも。
神様の声を聴くくらい困難で、素敵なこと。

理屈では説明できないんだけれども、
遠くにいる会ったこともない人のことが、手に取るように分かる瞬間。

それは、単なる奇跡じゃないし、確かに存在すると思う。
とても難しいことだけれども。
いや、それを困難にしているのは、自分自身だったりして。


前置きが長い。『想像ラジオ』。

喋っている人の言葉。オンエアされる楽曲。
全てはキミの想像の中。

パーソナリティーの名前だけ決まってて、DJアーク。
今夜も木の上から放送中。

アークはゴキゲンな曲をかけながら、
どうやら、大きな震災があった直後の自分の話をしている。
じゃあ、それを聴いているリスナーは一体?

想ー像ーラジオー。

本のページをめくって、ジングルが鳴ったら番組がスタート。
“そうぞう”の強さと優しさを肯定する、僕らの物語の始まりだ。

ストーリーの創造主はいとうせいこう先生。

音楽ユニット口ロロのメンバーにして、
日本一切れ味鋭い“ツッコミ”を繰り出すタレントにして、
日本語ラップの創始者の1人にして、博覧強記の作家。

名前だけでも覚えて帰って下さい。