ON AIR BLOG

毎日新聞 PRESENTS NEWS CONNECTION

ON AIR BLOG / 2017.08.16 update

今日のトピックスは「トランプ大統領がフェイクニュースに対抗して「リアルニュース」という番組をYouTubeではじめた」というお話、毎日新聞信部デスク、堀山明子さんに解説していただきました。

Q:今日のトピックは、アメリカのトランプ大統領の選挙対策団体が「本物のニュース」と題したニュース番組の動画をフェイスブックで配信を始めたというニュースです。トランプ大統領といえば、ニューヨーク・タイムズやCNNなど大手メディアを「フェイク・ニュースばかり流している」と批判を続けていますが、大統領がニュース番組をつくるなんて、それこそホントのニュースなんですか?
A:それが本当のニュースなんです。先月30日から毎週土曜日に配信されている2分程度の短い番組なのですが、初回はトランプ氏の次男エリック氏の妻ララさんがキャスター役を務め、視聴回数は200万回以上にのぼります。2回目はCNNの元コメンテーターで、共和党全国委員会報道担当の女性がアナウンサー役で登場して、170万回を超えるヒットです。まだ3回目が最後ですが、これも再生150万回を超えていて、固定客をつかんでいるようです。必ず番組の最後に「これがリアルニュースです」と決めセリフを言うのが特徴です。

Q:内容的にはどんな感じなんですか?
A:「トランプ政権が始動してから100万人の仕事を創出し、失業率は16年間で最も低い」と政権の経済政策を絶賛するような、PR色の濃い内容です。メディアは自分たちの価値判断でニュースを配信しますから、歴代政権は政策の広報活動はします。オバマ政権も毎週、ラジオで政権の政策がいかにすばらしいかを宣伝していました。その意味で、広報活動だと言えば違和感がないかもしれませんが、メディアはフェイクで、こちらが本物のニュースという発信をしたので物議を醸しています。トランプ政権に批判的なワシントン・ポスト紙は、統計に出典がないとか、オバマ政権時代の成果を自分の成果のように言っているとか、いちいちファクトチェックをしながら「「本物のニュースというより、本物のプロパガンダだ」と批判しています。

Q;フェイクニュースという言葉は、トランプ政権になってよく聞きますが、誤報ということですか。
A:間違ったニュースという点では同じですが、目的が違います。誤報というと、大手メディアが事実誤認で間違った、あるいは、不正確な内容だったというのが一般的ですね。誤報だと分かれば、そのメディアはすぐ訂正を出す。これに対してフェイクニュースは意図的に根拠のないニュースを主にネットで配信し、社会的な影響を与えることを目的とする情報です。職業的なニュースサイトでなくても、個人や小さなサイトでも十分できます。
先週の毎日新聞で、「フェイクニュース王」と呼ばれるジェスティン・クーラーさんの話が報道されていたのですが、彼はソフトウェア開発の技術者で、「ナショナル・リポート」というもっともらしい名前のサイトでフェイクニュースを流し、1年に60万ドル(約6600万円)も稼いだそうです。閲覧数が100万を超えると、そのサイトに広告を出したいという依頼がたくさんくるというのです。だから、真実かどうかは問題ではなく、間違っていると指摘されても訂正しない。

Q:怖いですね。今、ニュースを信じていいのか、分からなくなっている人は多いと思います。フェイクニュースにだまされないためにはどうしたらいいのでしょうか。
A:まさに、検証が難しい時代ですね。メディアは職業として、ニュースの根拠は何か、情報源、統計の取り方に偏りはないかをチェックしますが、それには金も時間もかかります。今やフェイスブックで個人や団体がどんどんニュース風の情報を直接発信し、影響力が持てますが、数が多すぎて情報の真偽をチェックすることはできません。米国では、フェイスブックが第三者組織と協力して、露骨なフェイクニュースサイトをあぶり出し、そこと情報を共有しようとすると警告が出るようにしました。ただ、フェイクニュースサイトは米国で200カ所以上あるといいますから、とてもチェックしきれません。情報を利用する側が、ニュースの根拠がちゃんと示されているか、情報源はどこか、ちゃんと意識する必要があります。数日後でも数週間後でも結果を検証し、ニュース通りに事実が動いたか見ていると、信用できるサイト、そうではないサイトが分かってくるかもしれません。

Q:自分がニュースを見極める力をつけないと、フェイクニュースに振り回されることになりそうですね。
A:経済格差が広がり、価値観が2極化する中で、事実に基づいていても、価値観が違うと、排除するために「フェイクニュース」とレッテルを貼るケースもあります。フェイクか本物かは事実の解釈の問題ではないという点も重要です。

一番怖いのはフェイクニュースをSNSですぐに拡散できてしまう点。スマホの中に溢れるニュースサイトの中にもフェイクニュースが混ざっている可能性は大。ユーザー側もそのニュースの裏側までしっかりと読みとることが必要な時代なのかも。

Page TOP