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ON AIR BLOG / 2017.09.13 update

今日のトピックは、トランプ大統領がオバマ政権時代の移民政策を転換不法移民を強制送還をしない保護制度を撤廃する方針を決めたというニュース。毎日新聞外信部、堀山明子さんに解説していただきました。

Q:今月5日に発表されたそうですが、どういう人たちが対象になるのですか?
A:オバマ大統領が2012年6月に発令した大統領令に基づくもので、親に連れられて16歳までに米国に渡った、当時30歳以下の若い不法移民が対象です。対象者は米国内に約80万人いるとされます。重大な犯罪歴がないことなど一定の条件を満たせば、強制送還を2年間免れ、労働許可も得られるというものです。問題行動がなければ2年間の滞在も延長し続けられます。米国内には1100万人以上の不法移民がいるとされていて、パスポート偽造や密入国など違法行為をした人は救済が難しいのですが、違法行為の認識がない「子供には罪がない」、だから保護しようという制度です。

Q:1100万人って、東京都よりもちょっと少ないくらいの人口じゃないですか。
A:そうなんです、東京都の人口1300万人には届きませんが、米国人口約3億2000万人のうち4300万人が米国籍の移民ですが、移民の4人に1人は不法移民ということになります。彼らは「見えない存在」として扱われていますが、米国社会では非常に身近な存在です。カリフォルニア州など移民に寛容な州では運転免許もとれますし、免許がとれると身分証明になるので、不法移民であることを隠して大学に行ったり、就職していたりします。あまりに数が多いので移民団体は、不法移民という違法性を匂わす表現は使わず、Undocumented immigrants(ドキュメントのない移民=ビザなし移民)と言っています。オバマ大統領は彼らを強制送還しない制度をつくる時、移民に夢を与えるという趣旨で通称「ドリーム法」と呼んでいたので、彼らはドリーマーと言われたりします。

Q:「不法移民の子」はドリーマーですか。ポジティブですね。堀山さんはロサンゼルス特派員をされている時、ドリーマーの取材はしましたか。
A:まさにドリーム法が制度化する時に特派員でしたので、何人も取材しました。米国籍がないと知ったのは高校生になってからとか、パスポートを取ろうとして初めて親から聞いたという人に多く会いました。ドリーマーたちの希望の星とされる人の1人に、ピュリツァー賞受賞した元ワシントンポスト記者、ホセ・アントニオ・バルガスさんがいます。彼は制度導入のときに31歳になっていたので救済対象からは外れましたが、ドリーマーの運動の中心人物でした。フィリピン出身で、16歳に親から聞くまで不法移民だと知りませんでした。2007年に名門バージニア工科大学での銃乱射事件に関する報道で賞を受賞した時、家族は喜んでくれず「不法移民とばれたらどうするんだ」言われ、トイレで泣いたと言います。ワシントンポストをやめた後、ニューヨークタイムズ日曜版で「ビザなし移民としての私の人生」という長い記事で告白し、大反響を呼びました。その1年後にオバマ大統領令が出ますので、ある意味、ドリーム法のきっかけになったとも言えるニュースです。

Q:ドリーマーたちは小さいころから米国人として生きていて、親の出身国に強制送還されても困りますよね。
A:英語しか話せない、親の出身国とは地縁も血縁も切れている人も多いので、本当に80万人を強制送還したら人権問題になります。民主党支持基盤の15州はトランプ大統領の決定は憲法違反だとして提訴していますし、与党共和党の中にも彼らを保護する法律をつくろうという声も上がっています。マイクロソフトやグーグルなどドリーマーを雇用しているIT企業は彼らを守ると宣言しています。トランプ大統領の先日の決定によると、来年3月までは現在の滞在許可は有効ということで6カ月の猶予がありますから、その間に法律ができるかどうか、米国内で大きな論争となりそうです。

トランプさんは移民に厳しい措置を取るって選挙前に公言していたんで自分の支持者へのアピールの部分もあるんだろうけど、あまりに残酷。アメリカがどんどん自由の国では無くなってきている気がします。もちろん賛成している国民も大勢いるわけで、反対の国民の声がどう政府に届くか?今のアメリカが真の民主主義国家なのか?世界が注目している気がします。

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