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ON AIR BLOG / 2017.12.06 update

今日は、昨日の毎日新聞夕刊に掲載された、YouTubeで「障害を持つ息子へ」と題した67人の子供たちの写真のスライドショーが話題になっているというお話です。毎日新聞外信部、堀山明子さん解説していただきました。

※スライドショーはコチラ※

Q:相模原市の障害者施設で19人が殺害、24人が負傷した事件の1年を機につくられたそうですが、事件の被害者家族がつくったものなのですか。
A:いえ、事件の直接の被害者ではありません。自閉症の息子を持つ福岡のRKB毎日放送の記者、神戸金史(かんべ・かねぶみ)さんが障害を持つ子の親たちにフェイスブックを通じて呼びかけたものです。「幼いころの写真と1年以内に撮った写真」を1枚ずつ募集し、全国から寄せられた67人のスライドショーが9月末にアップされました。神戸さんは事件後、容疑者が「障害者はいなくなればいい」「生きてても仕方ない」などと供述したことにショックを受け、自分たちを否定されたような無力感に襲われたそうです。この動画投稿は、同じようにショックを受けた親とタグを組んで、社会的偏見に対して異議を唱えたメッセージと言えます。写真が次々と流れるだけのシンプルな構成なのですが、障害を持つ子たちの成長する姿をひたすら見ていると、「生きていることが無駄ですか」「これでも無駄ですか」と、無言で問いかけられている感じになります。

Q:事件では確か、家族の希望で被害者の実名が報道されませんでしたね。それもあって、あれだけの多くの人が犠牲になりながら、奪われた生命の重みを社会がちゃんと共有できていないのではないかと思うことがあります。
A:事件後しばらくして、負傷者2人の家族は「子供が悪いことしたわけじゃない」と実名報道を許可しましたが、多くの家族は報道されたことによって、かえって社会的偏見に満ちた攻撃を受けるのではと恐れて名前を出さないことを希望しました。メディアは実名報道を原則にしていますが、報道による2次被害を恐れる家族の思いは尊重しました。ただ、障害者であることを理由に被害の詳細が報じられないことが、結果的に、障害者を社会から抹殺するかのような圧力に加担することにならないか。毎日新聞社内でもずいぶん議論があり、葛藤しました。私個人も記者として、割り切れない気持ちでいました。問題の本質は実名報道かどうかより前に、「排除されても仕方ない人」を作り出す社会的風潮や偏見にどう向き合うかです。神戸さんは記者として、障害を持つ子の親として事件に敏感に反応し、表現したのではないかと思います。

Q:親として、障害を持つ子の人生に誇りを持ち、それを表現することがポジティブな抗議運動になるということですね。
A:そうなんです。動画では神戸さんが事件から3日後に書いた詩が歌になって流れるのですが、最後のほうに「そのままで、いい。それで、うちの子。それが、うちの子。」というフレーズが出てきます。こんな風に、社会の定型におさまらない個性を肯定できる社会になればいいですね。事件については障害者だけでなく、介護が必要な重病患者や高齢者、多くの人たちが事件で「自分を否定されたような無力感」を抱いたと報じられました。社会的偏見と戦う方法はいろいろありますが、もし身近に、社会から「役立たず」と言われているような無力感を感じている人がいたら、その人の存在にありったけの感謝を示すことが社会を変える最初の一歩になるのかなと。そんなことを考えさせてくれる動画でした。

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