2015年06月21日
宮本輝
『螢川・泥の河』
 (新潮文庫)

昭和30年、戦争の傷跡がまだ残る大阪を舞台に、少年・信雄と舟に暮らす姉弟との交流を描いた「泥の河」。ひとりの少年が大人になるためには、こんなにも複雑なものを抱えるのかとあらためて感じさせる小説です。「螢川」も「泥の河」も作者の自伝的要素が強い小説と言われていますが、宮本輝さんにとっても心に強く残る作品。それまで勤めていた会社を辞め、半年後に書き始めた「泥の河」。その間、暗中模索しながら何度も何度も「螢川」を書き直していたそうです。現在、日本の文学界を代表する作家・宮本輝さんにとっても、デビュー作や初期の作品は苦しみの中から生まれたもの。その苦しみが小説の切ない輝きとして感じられます。

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