2018年6月10日

倉橋由美子
『暗い旅』
(河出文庫)

「暗い旅」を読み始めて、最初に不思議に感じるのは、物語の主人公が「私」ではなく、名前でもなく、「あなた」として描かれていくことです。この作品は主人公の心の中を徹底的に探る小説なので「私」で書くと重くなってしまうのではと小川さん。「あなた」にすることで客観的な視点を持つことができるのではないでしょうか?「あなた」は東京の大学に通う女性で、婚約者がいます。しかしその「かれ」からは1週間以上も連絡がありません。そこで「あなた」は「かれ」を探す旅に出るのです。行く先は鎌倉、そして京都。その旅の終着点は何なのでしょうか?自分の内面へと深く入っていく暗い旅。読者は混沌とした心の風景に迷い込んでいきます。

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