2022年12月11日

小砂川チト
『家庭用安心坑夫』
(講談社)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

小川洋子さんが今年読んだ小説の中で、特に忘れられない作品『家庭用安心坑夫』。小砂川チトさんのデビュー作で「群像新人文学賞」を受賞しています。男性の顔が黒いマスクで覆われている不思議な本の装丁。その帯には「第167回 芥川賞候補作 選考委員 小川洋子さん激推し!!」と書いてあり、思わず手にとってしまいます。読みすすめてみると、そこは夢なのか現実なのか、コメディなのかミステリーなのか、読者はどこに連れていかれるのか見当がつきません。しかし読み終えて心に残るのは深い場所に取り残されたような哀しみ。忘れ去られた炭鉱の坑道で何かを待っているようにも感じます。

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