DAILY NEWS ★あなたの気になる特集内容は?ソーシャルボタンでシェアしよう!

番組スタッフ
東京・目黒区で3月に5歳の女の子が父親から殴られた後に亡くなった事件。
煽情的に報じられた女の子の“反省文”は、事件と関係のない第三者の怒りを呼び起こすには十分すぎるものでした。

「ママ、もうパパとママにいわれなくてもしっかりと じぶんからきょうよりか もっともっとあしたはできるようにするから もうおねがいゆるしてゆるしてください おねがいします ほんとうにもうおなじことしません ゆるして」

その怒りの矛先は、女の子を保護する立場にあった児童相談所へと向かい、香川県議会議員の山本悟史さんによると、香川県の児童相談所に「なぜ救えなかった」という電話が相次いでいるのだといいます。
****
「かわいそうだ!なぜ救えなかった!」という電話が香川県の児童相談所や本課にバンバンかかっています。気持ちはわかりますが、職員はその対応に追われることで、今、保護が必要な子どもたちへの対応ができにくくなっているのが現実です。
<山本悟史さんのツイッターアカウント(@mossanKAGAWA)より抜粋>
*****

行き場のない怒りを誰かにぶつけたいという衝動は分からないではありません。
ただ、怒りをぶつけたところで何も変わらないどころか、まわりまわって子どもたちの不利益につながる可能性があるのです。

それを示しているのが、『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
今回の事件よりも過激ではありますが、同じような経緯をたどる海外の事例が取り上げられています。
*****
2007年、ロンドン北部のハリンゲイで、ピーター・コネリーという17カ月の男の子が亡くなった。
小さなピーターは、恐ろしい虐待と育児放棄の末、短い生涯を閉じた。その死の15カ月後、実の母親トレイシー、彼女の恋人スティーブン・バーカー、バーカーの兄ジェイソン・オーウェンの3人が、幼い子どもを死なせた罪で実刑判決を受けた。
しかし翌日の新聞報道では、この3人とはまったく別の人々に非難が集中した。イギリスの日刊大衆紙『ザ・サン』は、第一面に「血塗られた手」と見出しを掲げて彼らを叩き、その他の新聞も大々的に非難した。
(略)実は、マスコミの怒りの矛先は、当時ピーターを保護する責任があった人々、特にピーターを直接担当していたソーシャルワーカーのマリア・ウォードと、地区児童安全保障委員会(LSCB)委員長のシャロン・シュースミスに向けられた。
『ザ・サン』紙は、この2人の解雇を求めて嘆願書を作成した。そして新聞の紙面に彼女らの写真を掲載し、「この2人を知っていますか?」と見出しをつけ、電話番号を添えた。嘆願書には最終的に160万人もの署名が集まった。
地元の役所はプラカードを掲げた群衆にあっという間に取り囲まれ、シュースミスのもとには殺害の脅迫状が送られた。さらには、彼女の娘も殺害予告を受け、身を隠さなければならなかった。
*****

マスコミや国民の怒りの矛先がソーシャルワーカーへと向けられた結果、ソーシャルワーカーの辞職が急増。
批判を恐れるあまり、保護される子どもが飛躍的に増え、保護された子どもたちは従来よりも質の低い家庭の里親に預けられるという悪循環を生んだようです。
*****
ここまで大騒ぎになれば、その後はソーシャルワーカーの仕事振りが改善されるだろう、と人々は確信していた。(略)ではその結果どうなったのか?
(略)結果は、ソーシャルワーカーの辞職の急増だった。新たにソーシャルワーカーになる人の数は激減。(略)一方、辞めずに仕事を続けたソーシャルワーカーは、以前よりもはるかに多くの件数を担当することになった。
当然、一人ひとりの子どもにかけられる時間は減る。そして、彼らは自分の管理下の子どもたちに何かあった場合を恐れ、強引に介入し始めた。危険な信号を見逃して「魔女狩り」に遭うわけにはいかないと考えたのだ。
その結果、家族から引き離される子どもの数は飛躍的に増え、裁判所は急増した保護事案の処理に追われ、保護命令は次々と出されることになった。
(略)保護された児童は里親に預けられたが、急増した保護児童の需要に合わせるため、それまでより質の低い家庭にも里親としての承認が与えられるようになっていった。
また子どもたちは、本来の家庭から引き離されたことで、その多くが心身にダメージを受けた。
*****

この話を日本に置き換えてみると、認定NPO法人フローレンスの代表理事、駒崎弘樹さんのブログによると、日本ではそもそも、ケースワーカーが受け持つ件数が多すぎるうえ、里親も圧倒的に不足しているといいます。
つまり、里親が不足しているから、親子を引き離す「一時保護」を児童相談所が躊躇するというのが現状です。
現時点でこのようなギリギリの状況にあることから考えると、これに苦情が加われば、状況が悪化するのは明らか。
苦情の電話を掛けるという行為は、結果として保護を必要とする子どもを苦しめているのです。

“反省文”によって国民の怒りの感情を煽ったマスコミの責任もあるでしょう。
ときに怒りの感情が事態を好転させることもありますが、虐待事件に関しては怒りの感情を煽ることは逆効果でしかないように思います。

(スタッフH)
(2018/6/12 UPDATE)

MESSAGE ★ 番組へのメッセージはこちらから ★ 皆さまからのご意見お待ちしております


ページの先頭へ