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ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート
ブレイディみかこ (著)
税込価格:1,944円
出版社:岩波書店
ISBN:978-4-00-002399-3


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国民投票でEUからの離脱を決めたイギリス。
離脱派の急先鋒だった独立党の党首が辞任を表明するなどEU離脱をめぐる混乱については毎日のように報道されていますが、イギリス国民の不満の声、とくに離脱を望むほど切迫した状況はいまいち伝わってきません。
本書はイギリス在住20年のライターが、報道では伝わってこない、市民レベルの声が伝える良著です。
国民の不満、たとえば、「芸能界、サッカー界における富裕層の独占」。
かつては労働者の階級の子どもが成功しようと思ったら、「芸能界に入るか、サッカー選手になるしかない」と言われていたのですが、今のイギリスでは芸能界もサッカー界も裕福な家庭の子どもが独占。子どもを演劇学校やサッカー・アカデミーに通わせるお金がなければ、才能のある子ですらその才能を開花できなくなっているようです。
こうした傾向は保守党政権が失業保険や生活保護の打ち切り政策を行ってから、さらに悪化。
俳優やミュージシャンといった「食えない時代」がある職業は、裕福な親がついている若者にしか目指せない時代が到来していて、UKロックの衰退につながっているという説もあるといいます。
このほかにも、移民問題が背景にある「住宅危機」。移民が流入、人口が急増し、住宅が不足。それでも政府は公営住宅を建てるなどの対策を講じないため、家賃が上昇をつづけ、家賃を払えなくなってホームレスになる人が急増していること。
ソーシャル・クレンジング(階級浄化)、ソーシャル・アパルトヘイト(階級隔離)という言葉が使われるほど、貧者と富者の居住地の分離が進み、とくに首都圏から下層民の姿が消されていることなどが示されます。
こうした状況を背景にイギリスをはじめヨーロッパでは極端な右派と左派が台頭していると報じられていますが、実は今は現状を変えてくれるなら右だろうが左だろうがイデオロギーは関係ないというところまできていて、台頭しているのは右でも左でもなく「下」の勢力。
いわば、「右対左」ではなく「下対上」という構図。「下」の勢力はうまくいかなくなった経済システムを変えたいだけなのだと著者は説きます。
このように、本書に詰め込まれているのはイギリス在住だからこそ語れる生の声ばかり。
イギリスのEU離脱により混迷するヨーロッパ。その情勢を正しく捉えるため、今必読の書です。

(評者:スタッフH)
(2016/7/6 UPDATE)

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