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三軒茶屋星座館
柴崎 竜人 (著)
税込価格:1,365円
出版社:講談社
ISBN:978-4-06-218718-3


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住んだり勤めたりと三軒茶屋に関わって随分になるが、いまだに全体像を掴めていない。古き良き佇まいの映画館やバッティングセンター。店の外観とは裏腹にすこぶる旨い料理を出す長崎ちゃんぽんの店。果ては、かつて釣り堀まであったこの街は、時代も文化も渾然としている。それはまるで、夢の中の、西方浄土へと至る途上の異国の街を思わせる佇まいだ。

長く親しんでもまだまだ日々多くの発見があるのだから、初めて訪れた人は三軒茶屋の面白さに圧倒されるようだ。先日も上京した友人が三軒茶屋を歩き回ったあげく、「無いものはないんじゃないか」と感嘆の声を漏らした。
そこで僕はふと思ったのだが、三軒茶屋には星空がない。建物と建物に四角く切り取られた空を見上げても、星空と呼べるほどのものは見られない。思ったとおりに口にしたら、友人の顔が引きつったので、それ以上言わなかったが、僕は本当はこう続けたかった。
「星空はないけど、住んでる人ひとりひとりが星なんだ」と。

人は人生において明滅を繰り返し、人生という名の星座を成すのだと思う。こっぱずかしいポエミィなことを言ってると思われるだろうが、ここでぜひ読んでいただきたい素晴らしい本がある。
柴崎竜人「三軒茶屋星座館」(講談社)がそれだ。
三軒茶屋でプラネタリウムをいとなむ主人公のもとには、なぜか様々な悩みや問題を抱えた人達が集う。それを主人公が「気持ち良く、僕にしゃべっちゃいなよ」とうながし、星座にまつわる神話になぞらえて解決していくこの物語。

この物語の醍醐味は、主人公の星座の解説がやたらと面白いことだ。
神話の登場人物達がまるでギャルやチャラ男の風情で語られるのだが、なぜかこれが驚くほどしっくりくる。とっつきやすくするために換骨奪胎しているというより、神話の神々って元々そうなんじゃないかとすら思ってしまうほどストンとこちらの胸に落ちてくる。星座にまつわる神々の物語も、実は我々と何も変わらない。みんなずっと昔から同じで、これから先も変わらないんだろう。

人生の意味について考えることはあるだろうか? なぜ楽しいことと苦しいことが交互にやってくるのかと疑問に思ったことはあるだろうか?
ぜひ、この「三軒茶屋星座館」を読んでほしい。空に星はなくとも、地上は人という名の星で満ちている。人は輝いたり暗くなったりを繰り返しながら、ふたつとない星座をその人生で形作ることがわかっていただけるだろう。
「三軒茶屋星座館」これはあなたの心のプラネタリウムだ。


(評者:文教堂書店三軒茶屋店 中川浩成)


(2014/1/23 UPDATE)

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