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トウキョウハナコマチ

アスファルトを剥がし時代を遡る
東京の過去を旅するタイムリープ・コーナー。

※こちらに掲載されている記事の内容については諸説あります。

愛する人の面影を重ねて……漱石が愛でた文鳥


2017.11.9 (thu)

夏目漱石というと、猫を思い出す人も多いのではないでしょうかデビュー作である「吾輩は猫である」。実際に漱石はこの小説のモデルとなる猫を飼っており、愛猫の死後、墓標に一句をしたためたとも言われています。

そんな猫好きなイメージの漱石ですが、猫以外にも動物がメインの小説を書いています。そのタイトルは「文鳥」。友人から勧められ文鳥を飼った主人公が、文鳥に愛情を持ちながらも世話を怠り、最後には死なせてしまう物語。その死を人のせいにしたりと人間らしい感情が入り乱れます。

実際、漱石も文鳥を飼っていました。門下生であった鈴木三重吉の文鳥に関する朗読に惹かれ、自身も文鳥と暮らしたいと思ったようです。その愛らしい姿にすぐに虜になったようで、小説「文鳥」ではこんな表現が登場します。

「文鳥の眼は真黒である。瞼の周囲に細い淡紅色の絹糸を縫い付けた様な筋が入っている。眼をぱちつかせる度に絹糸が一本になる。と思うとまた丸くなる。籠を箱から出すや否や、文鳥は白い首をちょっと傾けながらこの黒い眼を移して自分の顔を見た。そうしてチチ、と鳴いた」
さすが漱石、ともいえるこの表現力。大きな瞳でこちらを見つめる文鳥の姿が思い浮かぶようです。

主人公はこの小説の中で、文鳥を愛する女性に重ね、思いを馳せます。これは漱石の初恋の人、「日根野れん」ではないかと憶測されていますが真相は分かりません。「文鳥は軽く、淡雪の精のようだ」と記す漱石。その美しい姿を眺め、愛でる姿が目に浮かぶようです。