食への深い愛情

菊池亜希子(女優、モデル)×野村友里(「eatrip」主宰、料理人)

2020

01.17

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ライフスタイルのムック本『菊池亜希子ムック マッシュ』の編集長を務めるなどファッション&カルチャーのアイコンとしても知られる菊池さん。先日、「食」にまつわるエッセイ集「おなかのおと」も発表されました。一方、原宿にレストラン「eatrip」を構え、ケータリングの演出、雑誌の連載など食を通じてさまざまな活動を行う野村さんは、先日、表参道の GYREに新しいお店、グロッサリーショップ「eatrip soil」もオープンしました。


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幼少期の思い出の味



菊池
こんにちは。お久しぶりですね。私のラジオのゲストに出てもらったのが最後かな。

野村
最後かも。

菊池
初めましてだったのは数年前だけど、お互いに数十年来の友達とかが近くに、共通していたりして、前から知っているような感じがしている。
野村
きっと同じような経験をしていたり、同じ場所にいた出来事やエピソードが多々ありましたね。

菊池
最初からすぐに話しやすくて、納得みたいな感じでした。あとは、「eatrip」にご飯を食べに行ったりとか別の番組で取材をさせてもらったりとかもあって。今回、出版した「おなかのおと」という本が、家族の話というか、私はそんなにフーディーというかすごい食べ歩いて詳しくてというタイプではなくて、その代わり何か食べたものにまつわる記憶がすごくあって、そういう話を誰としたら面白いかなあと思った時に、友里さんは家族の話を前にされてたなと思って、食は食べた味だけではなくて思い出、その時の記憶とかがすごく密接に繋がっているから、そういうお話をしたいなって思って浮かんだのが友里さんでした。
野村
ありがとう。

菊池
幼少期の過ごし方とか家族構成とか違うんだけど、なんとなく子供時代の感受性みたいなのがちょっと近かったような気がする。
野村
すごく面白くて、菊池さんの小さい頃に話しかけたくなっちゃった。

菊池
基本的に素直な子供ではなかったですね。
野村
こだわりがね。
菊池
次女だから自分のこだわりが曲げられなくて姉のほうが良い子だったので。私はおばあちゃん子だったのに、この本にも書いてあるんですけどおばあちゃんが作ったスパゲティを一口も食べなかったってって話。
野村
それはお母さんが教えたレシピだったというおちですよね。

菊池
そうそう。
野村
パスタにお醤油かけて食べていたという。
菊池
ひどいですよね。
野村
それはなかなか、食いしん坊のわりには、
菊池
本当におばあちゃんのことは大好きだったんだけど、お母さんが作る洋食をおばあちゃんはいつも食べてくれなかったから、そんなおばあちゃんが時々腕を振ってミートスパゲティを作っても普段、洋食を食べないのになんでというお母さんへの気遣いみたいなのもあって。
野村
いじらしい。かわいい。でも、よくずっとパスタに醤油かけて食べていたとは。

菊池
思い出す、パスタに醤油。おいしくはないけど私の幼少期を代表する味かも。
野村
大人になっても思い出の味になっちゃうところがまたね、
菊池
和風パスタとか、きのこソースとかオイル系の醤油ベースとかだとちょっと胸が痛くなる。いろんな人に対してちょっと罪悪感みたいな、おばあちゃんごめんねって思って。



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美味しいは、楽しくて嬉しいことばかりでない


菊池さんの最新エッセイ「おなかのおと」には、子ども時代から母になった現在までの「食」にまつわるエピソードがつまっています。


菊池
父の話を書いたんです。父とパフェを食べた日の話があって、お父さんが一時期仕事を休んでいた期間があって、私は16歳ぐらいでモデルの仕事を始めていて、東京に行ったり来たりしていたから、いつも地元の最寄りの駅まで母に送ってもらってたんだけど、その期間はお父さんが駅まで送ってくれて、時間があるから喫茶店に行こうとなって、ふたりで喫茶店に入って、私はモデルのお給料をはじめてもらえるようになったから、「お父さん、今日私がご馳走してあげるよ」って言った時にお父さんがすごい寂しそうな、いたたまれないような顔をして、私は良かれと思って言ったことだけど、父親としての色々な気持ちや葛藤がきっとあったんだろうなと思って。チョコレートパフェだったんですけど、その時の父のちょっと肩の落ちた感じとか思い出しちゃって、この本が出た時に実家の母がいち早く買ってくれたんだけど、お父さんには読ませないでと言ったんです。あのエピソードは未だにちょっとお父さんには読んでほしくないかもなって思ってる。娘にご馳走される喜びもあるし、でもその時たまたま仕事してなかったから、そういうのは自分が親になって余計に思うっていうか。美味しいのは、楽しいことだけではない。
野村
泣きながら食べたご飯とか全く味がしなくなるしね。
菊池
この中にしゃぶしゃぶを食べた日の話があって、私がすごい色々あって人生で一番落ち込んでいた時期に、友達に「外食がいいか、うちに食べに来るかどっちがいい」か選んでと言われて、外に食べに行くエネルギーすらなかったから、家に行ったら、おいしいお肉を用意してくれて、ポン酢を置かれて、どさどさ肉を入れられて、何があったかも聞かなくて、ただひたすらしゃぶしゃぶを食べた。それまでずっと食事が喉を通らないで落ち込んでたんだけど、しゃぶしゃぶを食べながら湯気と一緒にすごい泣いて、すっきりしてそこから友達に話を聞いてもらったことがあって、人生で一番泣いたご飯かもしれない。食べながら裸ん坊みたいな気持ちになる時があって、食欲って本能に近いから赤ちゃんみたいな気持ちになった。

野村
わたしが、7〜8年前かな、「ロスト・エモーション」というハリウッド映画の食をやらせてもらったことがあって、リドリー・スコットがプロデュースした50年後の未来の映画だったんだけど、50年後の未来は秩序を守るために戦争とか色々なことがあって、人は、感情をなくす手段に出たっていう設定。戦争はジェラシーとかいろんなもの憎しみとか、そういうもので生まれるから感情がコントロールできれば平和が守れるんじゃないかって、まだ感情が抜けきれない人のことを病気と見なして排除されていくわけ、主人公の二人はまだ感情が残っていて、それが恋に落ちる究極なラブストーリーになるんだけどで、その時の50年後の楽しみは食なの。その食事を作って下さいというオーダーだったので、映画の中のシーンでやっぱり、ご飯を食べてる時にちょっと表情が出る、あの人もしかして人間が残ってる人かもというのがきっかけで接近していくんだけど確かに食の時に感情が隠しきれない。そうあるべきだし、食事をするときは、なるべく鎧が外れるほうがいいな。
菊池
いろんな肩書きとか取っ払ってただ食べる時間が大事ですよね。


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菊池さんによる「食」にまつわるエッセイ集「おなかのおと」は、文藝春秋より発売中です。

【『おなかのおと』菊池亜希子 - 文藝春秋BOOKS公式ホームページ】

野村さんは先日、表参道のGYREに新しいお店、グロッサリーショップ「eatrip soil」をオープンされました。

【JOURNAL EATRIP 公式ホームページ】

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