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Dream HEART vol.371 評論家・雑誌「PLANETS」の編集長 宇野常寛さん 著書「遅いインターネット」

2020年05月09日

今週ゲストにお迎えしたのは、評論家で、雑誌「PLANETS」の編集長、宇野常寛さんです。

宇野常寛さんは、1978年、青森県のお生まれです。
ニュース番組や討論番組を中心に様々なメディアに出演され、
立教大学社会学部兼任講師も務めていらっしゃいます。
そして、批評誌「PLANETS」の編集長として、独自のメディアを運営。
書籍、メールマガジン、インターネット番組、イベント、オンラインサロンなど、
多岐に渡る活動を編集、プロデュースをされ、ご活躍中でいらっしゃいます。


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──“タイムラインの潮目”からの離脱

茂木:宇野さんは元々有名な文化人ですけども、今回出された「遅いインターネット」(NewsPicks Book)、これで世の中とったんじゃないですか?

宇野:僕もね、凄く手応えがあったので、“なんで今の150倍くらい売れないんだろうな?”と思っているんですよね。

茂木:ちょっとちょっと(笑)。でもこれ、素晴らしい内容ですよね。幻冬社 NewsPicksでいま話題の箕輪厚介さんも編集スタッフに入っているということで、オールスターキャストじゃないですか?

宇野:そうなんですけど、これ、僕と箕輪さんで仕掛けた本なんですよね。
NewsPicksBookというのは、今が旬の起業家の人やビジネスマンを中心に、“読むと元気になるもの”とか、“明日からのビジネスに役に立つもの”を揃えてきて、そしてここ1〜2年で、出版シーンのある種の中心になったと思うんですよ。
ただね、本当にそれだけで良いんだろうか、と。本をカンフル剤のように読み捨てて行く人も増えてしまったんじゃないのか、と。
そういう反省が箕輪さんの中にもあって、「宇野さんと(仕事を)やるんだったら、NewsPicksBookを内側から壊すものをやりたい!」と。
この本(「遅いインターネット」)でいうところの「速すぎるインターネット」で、タイムラインを一瞬でハックして「この波に乗らなければ時代に乗り遅れる!」という感覚を呼び起こして、“一気呵成に物事をなす”という文化を体現しているのがNewsPicksBookだと思うんですよ。
それを内側から壊す! 「そうじゃないんだ!」と。ここから先はもっと「遅いインターネット」が大事なんだと。タイムラインの潮目なんかとは距離を置かないとダメなんだ、というボールをぶつけることで、より広い所にレーベルが行けるような本にしたいと箕輪さんから言われていて、2人で仕掛けた本なんですよね。

茂木:宇野さんが仰った“タイムラインの潮目”って、この本のひとつのキーコンセプトじゃないですか。これはどういうことですか?

宇野:例えば、ある芸能人が不倫をした。こいつはとんでもない奴だということで、みんなで一斉に石を投げるじゃないですか。その時にみんなこう思うはずなんですよ。「この流れだったら、今コイツにダメ出しできる」と。ダメ出しをすることによって、自分はマトモな(マジョリティの)側なんだ、と思って安心できる。
そう思って、TwitterやFacebookとかで“今叩いても良いということになっている、目立ち過ぎた人とか失敗した人”に石を投げる。そうすると、ちょっとスッキリするし安心する。その楽しみっていうものを、悪い意味で覚えてしまった人達がいっぱいいるんだと思うんですよ。

茂木:それが“タイムラインの潮目を読む”ということなんですね。

宇野:そうなんですよ。本当はインターネットというのは、好きな時に好きなように好きなことを発信できるという自由が売りだったはずなのに、いつの間にか僕らは“タイムラインの潮目”を読んで、同じ行動をとることによって安心する道具に使っていると思うんですよね。

茂木:それが「速いインターネット」ということですね。そして宇野さんは「遅いインターネット」を提案されていると。

宇野:実際に速すぎると思いません? 情報がポンと渡って来る時に、みんなたぶん1つのニュースの背景を調べたりとか、関連情報を探ったりとか、ちょっと資料批判的にソースを探してみたりとか、そんなことする人はほとんどいないと思うんですよね。
特にTwitterなんかで発言しようとする人、あるいは、ソーシャルブックマークに投稿するのが好きな人というのは、この話題に対して「イエス」か「ノー」か。どちらに加担するのが良いのか、その潮目を読むことしか考えてないと思うんですよ。上手く潮目を読んで、今叩いても良いことになっている人に石を投げて、上手く石が当たると沢山の座布団が貰えてフォロワー数が増える。そんな、いじめ大喜利みたいなことが、今のインターネットジャーナリズムの中心に居座ってしまっていると思うんですよね。

茂木:宇野さんのお話を伺っていて、本当にそうだな、と思っている方も多いと思うんですけど。今回「遅いインターネット」を読ませていただいて、現時点における思想家・宇野常寛の代表作だと言っていいな、と。大変素晴らしい本だなと思っています。

宇野:ありがとうございます。

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茂木:宇野さんから「遅いインターネット」を提案したいと。

宇野:結論から言うと、僕は2つのことをやろうと思っているんですよ。
1つは“完全にタイムラインの潮目というものから離脱した新しいメディア”をインターネット上に作ろう!、ということ。ヒット数とかを気にしないで、5年後10年後とかも残る記事をいっぱい更新していくWEBマガジンを作ろうと思っているわけですよ。それはもう始まっています。

もう1つは「書く」というスキルをみんなに共有するワークショップをやろうと思っています。
「書く」ことや「発信」することって気持ち良いじゃないですか。でも、その方法がみなさん結構分かっていなくて、結局、どうでも良いような自分の生活記録を垂れ流したりとか、人を虐める行為とかね。誰かの言ったことの揚げ足をとるとか、今叩いていいという空気になっている人に石を投げて気持ち良くなるとか、そういうレベルの低いネガティブな発信が現在は増えているような気がします。
そうではなくて、ちゃんと読んでくれた人にとってプラスになるような、“価値のある発信ができるスキル”というものを、共有したいんです。
僕は元々田舎で会社員をやっていた人間で、自分でメディアを作ってこういう活動をするようになっていったので、“僕が持っているノウハウで良ければ共有しますよ!”ということでやっていこうと思っていて。

この2つの運動の組み合わせで「遅いインターネット」計画というものを、今年から始めているんです。

茂木:これはもうすでに参加することができるんですね。

宇野:できますよ。WEBマガジンも更新してますし、ワークショップの類もやっています。

茂木:ぜひ、興味のあるみなさんは検索して参加してみてください。

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宇野常寛さん (@wakusei2nd)Twitter


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遅いインターネット公式サイト