Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.286 映画監督 木村大作さん

2018年09月22日

今週ゲストにお迎えしたのは、先週に引き続き、9月28日から全国で公開される
映画「散り椿」の監督であり、撮影もされた木村大作さんです。

木村監督は、1939年東京都生まれ。
1958年、日本映画の全盛期に東宝の撮影部に入り、黒澤明監督の数々の作品で撮影助手を務められました。
73年に『野獣狩り』で撮影監督デビュー。
以後、『八甲田山』『追憶』『鉄道員』『北のカナリアたち』など、
数多くの作品にかかわり、名実ともに日本映画界を代表するカメラマンとして活躍してこられました。

2009年、『劔岳 点の記』で、初の監督作品。
この作品で、第33回日本アカデミー賞で最優秀監督賞、最優秀撮影賞を含む6部門を制覇されました。
2003年紫綬褒章、10年旭日小綬章を受章されていらっしゃいます。

木村大作さんにお話を伺っていきました。

【映画「散り椿」】
作品の舞台は、享保15年。藩の不正を訴え出たために藩を追われた、主人公の瓜生新兵衛。追放後も連れ添い続け、病に倒れた妻・篠は、死の床で最期の願いを新兵衛に託す。それは、新兵衛のかつての友にしてライバルであり、藩追放に関しても大きな因縁を持つ人物榊原采女を助けてほしいというものだった。
妻の願いをかなえるため故郷へ戻った新兵衛は、やがてある確証を得て采女と対峙する。過去の不正事件の真相や妻の本当の思いを知る新兵衛だったが、その裏では大きな力が彼を襲おうとしていた。




──カメラマンと監督の両立は天職

茂木:いよいよ、映画「散り椿」が来週公開ですね!

木村:もう、ドキドキしてます。人によっては賞を取りたいって思う人もいるだろうけど、俺は何人動員するかだね。多くの人が観てくれなかったら、映画って何の役にも立ってないから。

茂木:でも、木村監督の実績を見ますと、監督はずっと大ヒット作に関わってこられてるじゃないですか。

木村:それはカメラマンとしてね。『劔岳 点の記』はヒットしてくれたけど、2作目はダメだったんだよ。

茂木:いやいや!

木村:僕はやっぱり、世の中を盛り上がらないと我慢できないところがありますね。

茂木:改めて、木村監督は映画界においてすごいキャリアですよね!

木村:年取っているからね。もう映画界に入って61年目なんですよ。普通の会社だったら完全に定年ですよね。
でも、そういう長いキャリアの中でいい作品に恵まれたので、運が良かったんでしょう。

茂木:今回、監督作品としては3本目ということなんですが、現場では木村監督が撮影をされてるんだけど、その姿がまるで監督みたいだった、という評価があったとか。

木村:撮要するに、どこの現場でも進行役っているんですよね。誰かがそれをやらなきゃいけない。
監督の中でもワァワァ言う人もいますけどね。でも、降旗康男さんとかはワァワァ言う人じゃないから、僕が「それは違う」とか、ああだこうだってやってるわけですよ。知らない人が見たらそれは僕のことを監督と間違えますよね(笑)。

茂木:木村監督は、実は前から監督のような動きをしてたところもあるんですね。

木村:天国がどういうものかわからないけど、今は天国みたいな気持ちでやってますよ。カメラマンだけでは監督を口説かないといけないですから。
「こういう風にしたらこういう映像が撮れますよ」って監督に言っても、監督がNOと言ったらそれはできないんですよ。NOの回数が多い監督とは二度とやらないけどね(笑)。
でも、カメラマン木村大作と監督木村大作は一心同体だから、精神的にものすごく楽ですね。カメラマンだけやってるほうが精神的にはきつかったですよ。
それが無くなったので、解き放たれている気分です。天職みたいな形で今はやれていますね。

茂木:今回の「散り椿」並木道を馬が走るシーンとか、本当に綺麗ですよね!

木村:あれは富山にあるんですよ。300メートル続いてるんです。だから、馬を2頭並列で走っても大丈夫。
それと、あの並木道が国に入る入り口みたいなイメージがあるじゃないですか。そういう風に利用してるわけですよ。そういう意味ではぴったりの場所ですよね。
あの場所は今回探したんじゃなくて、十数年前に見つけてたんです。

茂木:ロケハンはそんなに前からやってらしたんですか?

木村:僕の場合、どこかに旅行に行っても“今は使えないけど、いずれ使えるな”っていう場所は全部見てあります。47都道府県を2回まわってるから。

茂木:監督は、作品の舞台挨拶などで全国もまわられてますもんね。じゃあ、このシーンはここがいいな、っていうのは全て頭の中で浮かんでいるんですね。



──美しい時代劇

茂木:今回の映画「散り椿」。大変美しい時代劇になりました。日本映画の今の現状、そういうものから見て、監督はどういう所を観客に見てもらいたいですか?

木村:結局、美しいっていう言葉の中には景色とか風景とか、画としての美しさもあるけど、
そうじゃなくて人の心の美しさもやりたいわけですよ。だから美しい時代劇をやりたいっていうのは、心も入ってるわけですよね。
今回は姉妹である女性二人の心の優しさと、それを取り巻く男たち。
特に瓜生新兵衛、采女、岡田准一さんと西島さんの心の持ってる優しさね。嫌な役は石田玄蕃をやった奥田瑛二くらいでしたよ(笑)。
そういうものを総合してエンターテイメントにしたいって言うのがこの時代劇なんですよね。

茂木:確かに、奥田瑛二さんは悪い感じの役でしたね(笑)。

木村:これも黒沢さんが言った言葉なんですが、「なんで黒沢さんは映画やってるんですか?」っていう問いに対して、「自分は美しいものを撮りたいと思ってる」と。映画でしか撮れない美しいものを撮りたいんだと。

茂木:素晴らしい!

木村:映画をやってるのそれだけだ、って言った言葉があるんですよ。僕もその言葉はずっと思ってることなんです。
言葉を少し拝借しているんだけど、「美しい時代劇をやりたい」っていうことになったわけですよね。
そういう意味では、人の心の優しさ。画面の美しさ。そこには雪があり、雨があり、風があると。そして、黒沢さんがあまりやらなかった“艶”。要するに男女のラブみたいなものを含めて「散り椿」にぶち込んだっていう感じですね。

茂木:その艶について、今回、妻・篠を演じた麻生久美子さん、そして妹・里美を演じた黒木華さん。この2人の演技素晴らしかったですね!

木村:静かなんだけど、憂いを含んだ表情、台詞の言い回し、そういうものを全部持っていたね。
僕はスタッフ、キャストに最初に言ったのは、篠との別れはきっかけであると。それが良い形でないと最後まで引っ張れない。
妹である里美・黒木華と、岡田准一演じる瓜生新兵衛とのラブロマンス、そういうつもりでこの映画を撮るんだ、と言いましたね。

茂木:黒木さんは定評のある女優さんですけど、最後は胸を打ちますよね。

木村:あの人は、日本人の時代劇向きの顔でもあるんだよね。昔の日本の美しさの雰囲気を現代に持ってる、唯一の女優さんじゃないかと思うぐらい。だから、時代劇の依頼が多いんですって。
でも、パーマをかけた髪の毛をさらっと出してスカートで足組んだりなんかしてる映画があるんですが、ドキドキしちゃうね。
黒木華さんは現代にも通じるんだけど、より時代劇にも通じるね。大ファンになりましたよ!






映画『散り椿』公式サイト

「映画『散り椿』 (@chiritsubaki928) | Twitter 」



来週は映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」の監督、ナタウット・プーンピリヤさんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。