2025年04月19日
今夜ゲストにお迎えしたのは、宇宙飛行士の野口聡一さんです。
野口聡一さんは、1965年生まれ。
東京大学大学院を修了後、IHI(旧・石川島播磨重工業)に入社後、1996年からJAXAの前身、NASDAの宇宙飛行士の候補者に選抜されました。
その後、3回の宇宙飛行に成功し、15年間で船外活動は4回、世界で初めて、滑走路、地面着陸、水面着陸という、3通りの方法で帰還したとして、ギネス記録に認定されています。
2021年、野口さんが、ISS国際宇宙ステーションで、ショパンの『別れの曲』を生演奏した動画、「宇宙からのショパン生演奏」は、YouTubeクリエイターアワードを受賞され、話題を集めました。
そして、2022年6月に、JAXAを退職。
現在は、合同会社・未来圏の代表、国際社会経済研究所の理事、東京大学特任教授などを通し、講演活動や大学での教育、研究活動を精力的に行っていらっしゃいます。

──収入・アイデンティティ・モチベーションの「三重沈下」の悩み
茂木:野口さんは今回、主婦の友社からご著書『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』を出されました。野口さんはエリート中のエリートじゃないですか。宇宙飛行士の選抜も数百倍の倍率なんですよね。
野口:そうですね。なる確率が非常に低い仕事であるのは、間違いないと思います。
茂木:その野口さんが定年前退職をされたというのは、少し意外ですね。やっぱりエリートならではの、でも皆に通じるような悩みとかがあったんですか?
野口:結局は、「収入」「アイデンティティ」「モチベーション」、この「三重沈下」という。これは宇宙飛行士であっても、やはり大きな組織の中の歯車として働く、組織人間である、と。それは小さな集団でも同じですし、NASAみたいな巨大な集団であっても、「組織の中で働く」という意味では一緒なので、実は我々の悩みというのは、ほとんどの会社で苦労されている皆さんと同じような悩みを抱えてるんじゃないか、と。
茂木:野口さんは長期滞在もされましたし、いわゆるEVA、船外活動もされましたし、それから15年のブランクを越えて、また宇宙に行かれましたよね。
野口:はい。「15年のブランクを越えて船外活動をやった」ということで、これもまたギネス記録になっています。なので2つギネスを頂いているんですけど。
茂木:それだけのことを成し遂げた野口さんは、ですからオリンピックで言えば金メダルを何個も獲ったようなことをされて、宇宙飛行士としての活動を辞められる、というその時点で、やっぱり色々考えられたんですね。
野口:そうですね。もちろんプロフェッショナルとしてはすごく恵まれたキャリアだと、私も思います。色んな人に助けて頂いて、色んな記録も作ったし、行きたいところに行けた気持ちはあるんですけど、だからと言って、毎日幸せであるわけではない、と。つまり、そこは別なわけですよね。
年齢を重ねるにつれ、モチベーションというのは…我々の場合は「宇宙に行く」ということがモチベーションなんですけど、会社の中で働いている人で言うと、いわゆる「出世」ですよね。かつて、我々の親世代は、年齢と共に自然に出世して、それが「モチベーション」で、肩書きが増えて行って、それが「アイデンティティ」で、最後に「収入」、お金が貰える。それが3点セットで実現していたわけですよ。
我々の世代はそうではない、と。それは単に贅沢を言っているだけじゃなくて、そのモチベーションになっている出世と言うか、そういうものがなくなってくることで、生きがいそのものがなくなる。

茂木:なるほど。
野口:そして、アイデンティティを失う、肩書きを失うと、これは人生の居場所がなくなるということに繋がるわけですよね。
最後に収入ですが、もちろんそれは多いに越したことはないけど、ほとんどの人は月給しかないわけですから、だからそれが上がらないというのは、まさに生業(なりわい)、生活の基盤が成り立たない。そうすると、知らないうちに、人格も、居場所も、生きる糧も、会社に全部持っていかれてるんじゃないの、と。それじゃあ良くないね、というのがこの出発点だったんですよね。
──弱さの情報公開、スキルの棚卸し
茂木:この本を拝読していて僕がすごく感心したのは、やっぱり、そうは言っても野口さんは特別な方なんですが、本の内容自体はどんな方にも当てはまるような悩みとか、人生の選択のポイントが書かれているじゃないですか。例えば、リスキリングの話だとか、組織に頼るのか・それとも思い切って飛び出しちゃうのかとか、その辺りが非常にいい本ですよね。
野口:ありがとうございます。宇宙飛行士のことだけを書いているんだったらもう書く意味がないんですけど、私のケースは1つの例であって、オリンピック選手の方は、まさしく金メダルを獲って帰ってきて、やはり似たような壁にぶつかって苦労されているんです。
サラリーマンであっても、60歳(65歳)で定年退職した次の日に、アイデンティティの総替えであったり、収入がなくなるとか、モチベーション…生きがいがなくなると、全く同じような状態になるということに気づいて、こういう本を書こうということにしたわけですね。
茂木:今聴いていらっしゃるリスナーの方の中にも、ご自身が、あるいはご家族の方が、人生の岐路に立って考えているという方がいらっしゃると思うんですけど、一番訴えたいポイントというのはどこにありますか?
野口:「今は、誰しも心が折れる時代である」と。
かつては「性根がなってない」とか、「気持ちが甘いから心が折れるんだ」と言われていたような気がするんですけど、今は皆、心が折れる時代なんです。自分にその弱さがあるということを、むしろ積極的にオープンにした方がいい、認めた方がいい。
僕は「弱さの情報公開」みたいな言い方をしますけれども。
茂木:なるほど(笑)。
野口:むしろ「自分はこんなに弱いんだ」ということをしっかり認めずに、自分の痛みに気がつかないふりをしている方が、後になって痛くなってくるんです。ですから、今生き方に関して悩んでいる、あるいは今の職場環境で苦しんでいるなら、それを積極的に情報公開して、「そこからどうやれば立ち直れるのか」ということを皆と一緒に(考える)。
我々は自分の弱さを言語化するのが下手なんですよ。特に、私自身も下手だと思います。なかなか自分の弱さを認められない。それだと人生は変えられないですよね。それが1つの大きなメッセージです。
茂木:確かに、この本を読んでいると「弱さの情報公開」というのは非常に印象的なキーワードなんですが、野口さんにも弱さはあるんですか?

野口:ありますね。ですから私自身も、本当に些細なことで悩んできているわけです。自分自身で仲間の宇宙飛行士と比べたり、上司に当たる人からの何気ない一言で…、現場で一生懸命頑張っているのに、役員の人にそれを認めないような発言をされた時に、やっぱりすごく傷つきましたし。やっぱりそれでアイデンティティを失うことになりかねないんですよね。
上司から言われたことをちゃんと受け入れないといけない、と。それが社会人と言うか、会社人としては当然と思っているところもあったんですけど、それはやっぱり「評価軸を他人に置いている」ことが良くなかったんじゃないかな、と。 自分のことは自分でちゃんと評価してあげようよ、というところも、もう1つ大きなところかなと思います。
茂木:「棚卸し」みたいなことも書かれてましたしね。
野口:はい。自分の苦しい状態から抜け出す3つのステップとして、1つは「評価軸を自分に持ってこよう」と。自分が正しいと思うことは正しい。自分が生きたいやり方に合わせていく。
2つ目は、「自分の力をちゃんと棚卸しして、理解しよう」と。何ができるかが分かれば、評価軸が自分になって、自分の持っている力をしっかりと棚卸していく。
最後に、「できることであれば、自分の得意技に持っていく」。その方が結果的にハッピーな人生になるので、その3つのステップで戦略的に生きてほしいな、と思いますね。
茂木:宇宙飛行士という特別な方の書いた本なんだけど、どんな方にも当てはまることが書かれているんですね。
野口:そうですね。ヘルメットを被って格好いい写真を使いがちですけど、ヘルメットを脱いだ中には生身の人間がいる、と。その人は同じような弱さに悩んでいるし、弱さを情報公開してその怖さと向き合う、というところが、まさに戦略的な生き方かなと思いますね。
茂木:野口さん、この『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』をこれから読むという方に、是非メッセージを頂いてよろしいでしょうか?
野口:はい。50歳から始めるということにこだわらず、今、人生を進める中で、何かに困っている方々、自分の収入・アイデンティティ・モチベーションを何とかしたいと思っている方に、人生を諦めない方法、戦略的に生きていこうということで読んで頂ければ幸いです。

●野口聡一 (@Astro_Soichi)さん 公式 X(旧Twitter)
●野口聡一 (@astro_soichi)さん 公式 Instagram
●宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職 / 野口聡一 (著)
(Amazon)
●主婦の友社 公式サイト
野口聡一さんは、1965年生まれ。
東京大学大学院を修了後、IHI(旧・石川島播磨重工業)に入社後、1996年からJAXAの前身、NASDAの宇宙飛行士の候補者に選抜されました。
その後、3回の宇宙飛行に成功し、15年間で船外活動は4回、世界で初めて、滑走路、地面着陸、水面着陸という、3通りの方法で帰還したとして、ギネス記録に認定されています。
2021年、野口さんが、ISS国際宇宙ステーションで、ショパンの『別れの曲』を生演奏した動画、「宇宙からのショパン生演奏」は、YouTubeクリエイターアワードを受賞され、話題を集めました。
そして、2022年6月に、JAXAを退職。
現在は、合同会社・未来圏の代表、国際社会経済研究所の理事、東京大学特任教授などを通し、講演活動や大学での教育、研究活動を精力的に行っていらっしゃいます。

──収入・アイデンティティ・モチベーションの「三重沈下」の悩み
茂木:野口さんは今回、主婦の友社からご著書『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』を出されました。野口さんはエリート中のエリートじゃないですか。宇宙飛行士の選抜も数百倍の倍率なんですよね。
野口:そうですね。なる確率が非常に低い仕事であるのは、間違いないと思います。
茂木:その野口さんが定年前退職をされたというのは、少し意外ですね。やっぱりエリートならではの、でも皆に通じるような悩みとかがあったんですか?
野口:結局は、「収入」「アイデンティティ」「モチベーション」、この「三重沈下」という。これは宇宙飛行士であっても、やはり大きな組織の中の歯車として働く、組織人間である、と。それは小さな集団でも同じですし、NASAみたいな巨大な集団であっても、「組織の中で働く」という意味では一緒なので、実は我々の悩みというのは、ほとんどの会社で苦労されている皆さんと同じような悩みを抱えてるんじゃないか、と。
茂木:野口さんは長期滞在もされましたし、いわゆるEVA、船外活動もされましたし、それから15年のブランクを越えて、また宇宙に行かれましたよね。
野口:はい。「15年のブランクを越えて船外活動をやった」ということで、これもまたギネス記録になっています。なので2つギネスを頂いているんですけど。
茂木:それだけのことを成し遂げた野口さんは、ですからオリンピックで言えば金メダルを何個も獲ったようなことをされて、宇宙飛行士としての活動を辞められる、というその時点で、やっぱり色々考えられたんですね。
野口:そうですね。もちろんプロフェッショナルとしてはすごく恵まれたキャリアだと、私も思います。色んな人に助けて頂いて、色んな記録も作ったし、行きたいところに行けた気持ちはあるんですけど、だからと言って、毎日幸せであるわけではない、と。つまり、そこは別なわけですよね。
年齢を重ねるにつれ、モチベーションというのは…我々の場合は「宇宙に行く」ということがモチベーションなんですけど、会社の中で働いている人で言うと、いわゆる「出世」ですよね。かつて、我々の親世代は、年齢と共に自然に出世して、それが「モチベーション」で、肩書きが増えて行って、それが「アイデンティティ」で、最後に「収入」、お金が貰える。それが3点セットで実現していたわけですよ。
我々の世代はそうではない、と。それは単に贅沢を言っているだけじゃなくて、そのモチベーションになっている出世と言うか、そういうものがなくなってくることで、生きがいそのものがなくなる。

茂木:なるほど。
野口:そして、アイデンティティを失う、肩書きを失うと、これは人生の居場所がなくなるということに繋がるわけですよね。
最後に収入ですが、もちろんそれは多いに越したことはないけど、ほとんどの人は月給しかないわけですから、だからそれが上がらないというのは、まさに生業(なりわい)、生活の基盤が成り立たない。そうすると、知らないうちに、人格も、居場所も、生きる糧も、会社に全部持っていかれてるんじゃないの、と。それじゃあ良くないね、というのがこの出発点だったんですよね。
──弱さの情報公開、スキルの棚卸し
茂木:この本を拝読していて僕がすごく感心したのは、やっぱり、そうは言っても野口さんは特別な方なんですが、本の内容自体はどんな方にも当てはまるような悩みとか、人生の選択のポイントが書かれているじゃないですか。例えば、リスキリングの話だとか、組織に頼るのか・それとも思い切って飛び出しちゃうのかとか、その辺りが非常にいい本ですよね。
野口:ありがとうございます。宇宙飛行士のことだけを書いているんだったらもう書く意味がないんですけど、私のケースは1つの例であって、オリンピック選手の方は、まさしく金メダルを獲って帰ってきて、やはり似たような壁にぶつかって苦労されているんです。
サラリーマンであっても、60歳(65歳)で定年退職した次の日に、アイデンティティの総替えであったり、収入がなくなるとか、モチベーション…生きがいがなくなると、全く同じような状態になるということに気づいて、こういう本を書こうということにしたわけですね。
茂木:今聴いていらっしゃるリスナーの方の中にも、ご自身が、あるいはご家族の方が、人生の岐路に立って考えているという方がいらっしゃると思うんですけど、一番訴えたいポイントというのはどこにありますか?
野口:「今は、誰しも心が折れる時代である」と。
かつては「性根がなってない」とか、「気持ちが甘いから心が折れるんだ」と言われていたような気がするんですけど、今は皆、心が折れる時代なんです。自分にその弱さがあるということを、むしろ積極的にオープンにした方がいい、認めた方がいい。
僕は「弱さの情報公開」みたいな言い方をしますけれども。
茂木:なるほど(笑)。
野口:むしろ「自分はこんなに弱いんだ」ということをしっかり認めずに、自分の痛みに気がつかないふりをしている方が、後になって痛くなってくるんです。ですから、今生き方に関して悩んでいる、あるいは今の職場環境で苦しんでいるなら、それを積極的に情報公開して、「そこからどうやれば立ち直れるのか」ということを皆と一緒に(考える)。
我々は自分の弱さを言語化するのが下手なんですよ。特に、私自身も下手だと思います。なかなか自分の弱さを認められない。それだと人生は変えられないですよね。それが1つの大きなメッセージです。
茂木:確かに、この本を読んでいると「弱さの情報公開」というのは非常に印象的なキーワードなんですが、野口さんにも弱さはあるんですか?

野口:ありますね。ですから私自身も、本当に些細なことで悩んできているわけです。自分自身で仲間の宇宙飛行士と比べたり、上司に当たる人からの何気ない一言で…、現場で一生懸命頑張っているのに、役員の人にそれを認めないような発言をされた時に、やっぱりすごく傷つきましたし。やっぱりそれでアイデンティティを失うことになりかねないんですよね。
上司から言われたことをちゃんと受け入れないといけない、と。それが社会人と言うか、会社人としては当然と思っているところもあったんですけど、それはやっぱり「評価軸を他人に置いている」ことが良くなかったんじゃないかな、と。 自分のことは自分でちゃんと評価してあげようよ、というところも、もう1つ大きなところかなと思います。
茂木:「棚卸し」みたいなことも書かれてましたしね。
野口:はい。自分の苦しい状態から抜け出す3つのステップとして、1つは「評価軸を自分に持ってこよう」と。自分が正しいと思うことは正しい。自分が生きたいやり方に合わせていく。
2つ目は、「自分の力をちゃんと棚卸しして、理解しよう」と。何ができるかが分かれば、評価軸が自分になって、自分の持っている力をしっかりと棚卸していく。
最後に、「できることであれば、自分の得意技に持っていく」。その方が結果的にハッピーな人生になるので、その3つのステップで戦略的に生きてほしいな、と思いますね。
茂木:宇宙飛行士という特別な方の書いた本なんだけど、どんな方にも当てはまることが書かれているんですね。
野口:そうですね。ヘルメットを被って格好いい写真を使いがちですけど、ヘルメットを脱いだ中には生身の人間がいる、と。その人は同じような弱さに悩んでいるし、弱さを情報公開してその怖さと向き合う、というところが、まさに戦略的な生き方かなと思いますね。
茂木:野口さん、この『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』をこれから読むという方に、是非メッセージを頂いてよろしいでしょうか?
野口:はい。50歳から始めるということにこだわらず、今、人生を進める中で、何かに困っている方々、自分の収入・アイデンティティ・モチベーションを何とかしたいと思っている方に、人生を諦めない方法、戦略的に生きていこうということで読んで頂ければ幸いです。

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●宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職 / 野口聡一 (著)

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