高橋:今週は、山と谷、森と川、平野と海といった自然を
大きくとらえる考え方、「流域」にスポットを当てていきます。
お話を伺うのは、慶應大学名誉教授の岸由二さん。
実はこの流域という概念、生物多様性はもちろん、
ここ数年、相次ぐ水害を考えるうえでも、とても重要なもの。
ぜひ、知って頂きたいと思います。


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高橋:慶應大学 名誉教授の岸由二さんです。
岸さんとは、2016年にお会いして以来で、
場所は、神奈川県・三浦半島にある「小網代(こあじろ)の森」。)源流から海までというとすごい距離を歩いたような気がするけど、1200メートルしかない小さい流域なんですね。
いろんな生き物を見ながら流域を歩いたのを覚えていますが、まずは流域という考え方について。一緒に行った小網代という場所がすごく象徴的な場所なんですよね。


岸:あそこは緑一面の窪地、70ヘクタールくらいが
保全されているんです。どういう理由で保全されているかというと、
あの緑一面に降った雨が浦の川という小さい川を作る。
その小川が源流から流れて上流、中流と行って干潟を作る。
雨の水を川に変える地形を流域というんです。
別の言い方をすると川に雨の水が集まる地形と言ってもいいんだけれども、
そう言っちゃうと川が見えないところは流域じゃない気がするでしょう。
普段は川がなくてもいいんです。雨が降りました、
降ったらその雨が集まって川になっちゃった。
そういう水の集め方をする地形を流域というんです。


高橋:てっきり川の近くが流域だと?

岸:日本の有名な国語辞典のいくつかが、
川の周りで大雨の時に川幅が広がって流れるでしょ、
それを流域と呼ぶという間違った定義を間違って書いているんです。
それは氾濫原という。川が大雨の時に幅広く流れる、
それを流域だと今も思っています。でも全然違う。
雨の水を集めて川にする地形のことを流域といいます。
これは国際定義なので誰かが思いついて言っていることではないんですね。


高橋:だからたぶん流域と聞いて自分たちが思っているものよりももっと広い感じですよね。



岸:そうです。
それで困るのが小学校・中学校・高校、大学、
一般社会でも流域は教えないんです。
義務教育で流域について習った人はいないはずなんです。
川の水は流域という地形で集まってくるということを
書いてある教科書はないんです。国語辞典も間違っている。
学校でも教えてない。
でもそれを知らないと大雨に対する対応はできないんだから困っちゃうよね。


高橋:そうですよね。雨が降って急に川になるわけではなく、道があるんですもんね

岸:小網代というのは70ヘクタールという
そんなに大きくないんだけれども、
谷のてっぺんから海まで雨の水を集めて
1本の川になるのをそのまま観察できる。
だから地形が天然記念物なんです。
それがあそこは保全されている最大の理由です。


高橋:でも岸さんの専門は進化生態学ですから、生き物の進化、生態を研究する学問だというのはわかるんですけど、どうして流域と関わるんだろう。

岸:僕は一応大学で助手になって助教授になって
教授になるアカデミックキャリアというのをたどっているんです。
進化生態学と言われてもわからないかもしれないけど、
数学を使って生き物の適応的な変化をあれこれ理論的に分析すると同時に、
生き物の習性とか行動を研究するというのをやっていたんです。
だから僕のアカデミックな関心の中に流域は無いんです。
それで教授にまでなっちゃって。あえて言うと2つあって、
生態学って僕が中心でやっていたような生き物の進化を
考える生態学ばかりではなくて、生態系生態学というんだけど、
地域の自然をどうするか、例えばこの街を汚染のない街にするには
どうしたらいいか、水害にならない街にするにはどうしたらいいか、
地域の自然のことも含めて、雨の動きや森の構造、
自然の作る秩序に基づいて生態系を考えるのが正しいと思いついて
いろんな論文を読んで、地形に雨が集まる水循環という
現象の起こる流域という地形で生態系を考えるのが良いと。
それで小網代は自然保護をするのに流域は絶対にうまくいくはずだ、
それはうまくいったんだけど、それで自分の育った鶴見川という所では、
街全体を災害がなくて自然と共存できるような良い街にするには
流域で考えるのが正しいということで応用してきた。
だから流域は市民活動でやってきた。




岸:もう一つ、人間は言葉をしゃべるでしょう。
言葉という本能を持っている動物なんですよ。
それとおんなじで人間は地図を作る本能を持った動物だと思っているわけ。
中学生から高校生位の頃から、
なんで僕が遊んで育った場所を呼ぶ地図ができないんだろうって
ずっと悩んでいたんです。


高橋:考えたことがないんですけどどういうことですか?

岸:僕が育った街は横浜市鶴見区〇町〇丁目。
でも僕はどこで育ったかというと、
鶴見川の脇で川で遊んで育って、橋で川を渡って向こうの丘に行って、
田んぼとか谷戸という小さな谷で魚取りをしたり
虫取りをして遊んで、採取狩猟民みたいにして育ったんですよ。
体の中にある地図は山とか川とか谷でてきている。
それをなぜ横浜市とか、僕が決めたんではない鶴見区とか、
なぜそうなるの。どうやったら自分の体の中にある、
本当の地図と感じているものを言葉にして
人に伝えられるかと考えていた時に、
全然別の市民運動で使っていた流域が役に立つというのがわかって。
流域って雨の降る大地を隙間なく全部埋め尽くしているんです。
隙間がないんです。日本列島は全部流域で分けられる。
しかもひとつの流域は町や番地みたいに細かく分けることができる。
例えば僕の育ったお家は、
「多摩三浦丘陵区・鶴見川本流流域・下流・潮田の小さい水路脇・南」
とか言うと位置がわかる。
僕のいた慶応大学の研究室なんかもっと面白くて、
「鶴見川流域・矢上川支流の流域・松の川という支支流の流域・
一の谷という支支支流の流域・その北の方にある第二校舎」
といえば、行政地図は何も知らなくても
僕の研究室にこんにちはって来られるでしょう。


高橋:知っていればですよ。流域を知っていれば!

岸:人類は二本足地球の上を暮らしている
400万年ぐらい経っていますが、
その99.9%は最初狩猟民をやっていたんです。
都市なんかないんです。畑なんかないから、
じゃあ今度あの山の向こうでウサギを捕まえようと
仲間を話しとするときに、もし言葉で伝えているとすると、
山とか川とか谷を使って地図を喋ってるんです、絶対に。
それは人類が全部忘れただけだよね。
でも僕はたまたま中学2年生まで
ほとんど採取狩猟民のような暮らしだったから。
でもみんながどこにいたって何かの流域のどこかにいるんだ
というのが母地図として共有されるようになると、
こんな街を作ったら何をどう努力したって
崖崩れは起こるでしょということが
ごく当然のようにわかると思っているんです。
ただそれには200〜300年かかる。


高橋:流域で地図を作れるし理解ができるし、流域という考え方が最近相次いでいる水害とかそういうことを考える上ではめちゃめちゃ重要なんですね。

岸:というか水害というのは流域という地形で起きるから。
その上に生き物の世界が広がった流域という生態系だから。
その上に人間は流域という地形や生態系の必然やロジックを
無視した生活圏を作っちゃったから事故が起こっている。


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高橋:慶應大学名誉教授・岸由二さんに、
「流域」という概念について、お伺いしました。
来週もこの続きをお送りします。


◆岸由二さんの最新刊「生きのびるための流域思考」は、筑摩書房から発売中です!



【今週の番組内でのオンエア曲】
・ 君とdrive / YONA YONA WEEKENDERS
・ Same Love / マックルモア&ライアン・ルイス

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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