2017.03.11
第205話 変化球

元・横浜大洋ホエールズ投手、野球解説者 遠藤一彦さん「クロマティを三振に取った球」

一般的に「フォークボールを投げるには指が長い方が有利」と言われます。実際「フォークボールの神様」と呼ばれた元・中日の杉下茂さんにコツを教わりに行ったのですが、杉下さんと手を合わせてみると私よりも関節ひとつ分も指が長くて、指の間にボールを挟んでもさらに指が余るほどでした。私の指の長さは普通の人とほとんど変わらないのでちょっと参考にならなくて、人差し指と中指を大きく広げるためのトレーニングを重ねるなどして自己流でフォークボールを覚えたんです。
こうしてフォークボールを覚えてプロで通用するようになったのですが、広島にだけはよく打たれました。これは癖を見抜かれていたからで、広島から長内選手が移籍してきた時に「遠藤さんの球種は入り方で全部わかります」と教えてくれたんです。古葉監督も広島から横浜に来て「球種がバレてるからなんとかしろ」と。ただ、当時は三塁コーチャーが球種を教えていた時代だったので、投球動作に入ったら隠しようがありません。最終的には「打たれないボールを投げるしかない」と開き直って投げていました。
巨人のクロマティがヒットを打った後、よく一塁ベース上で投手に向かって自分の頭を指差していたのは「配球は読めてるよ」というアピールでした。悔しいので一度やり返してやろうとみんなで話をしていたのですが、凡打では一塁に走った後すぐにベンチへ戻ってしまいますし、なかなか三振しない選手なので意外とチャンスがありません。でもある時、二死満塁でクロマティを2ストライクと追い込み、普通ならフォークのところを裏をかいてストレートで空振り三振に取った瞬間、自然と人差し指が頭に行きました。これは気持ち良かったですね。
ただしクロマティは悪気があってそういうゼスチャーをしていたわけではなく、試合を盛り上げようとしていたのだと思います。その試合の後で帰り際にすれ違ったら「グッジョブ!」と声を掛けてくれたのも良い思い出です。