2013.11.02
第31話 フライフィッシング


ある日、僕は仕事に行こうと、玄関にあったオタマジャクシの水槽の横を通ったら、なにか得体の知れないモノが水面に上がってきました。そして頭がパカッと割れて美しいカゲロウが現れたんです。その光景を見た僕は「魚はこの瞬間を狙っているのか!」とひらめいて、フライフィッシングの世界にどっぷりはまりました。
だから僕らが巻く毛針(画像)も、カゲロウ、トビケラ、ユスリカなど、魚が食べる虫を模しています。サイズが同じだからすごく小さいし、色も地味。羽を真っ白にすれば見やすくてやりやすいけど、賢い魚に疑似餌だと見抜かれてしまうので、色のトーンを落としてなるべく本物に近づけようとします。
糸の付いていない毛針を川に流せば自然に流れますが、釣りだから糸が付いていますよね。毛針が水面に落ちて流れに引っ張られることを「ドラッグがかかる」と呼ぶのですが、いかにドラッグを少なくしてナチュラルに流すのかがフライフィッシングにおける唯一のテクニックです。
毛針は自分で作ります。それをやらないとフライフィッシングをやる愉しみの半分を放棄したことになりますから。たとえば、今ここにあるのはトビケラが成虫になる直前の、水面に泳ぎ上がる瞬間を模した毛針です。そんな毛針を作るために『水生昆虫ファイル』なんて本を持ち歩いています。
実は水中にいる魚の視点だと、水面の虫は6本の足で水の表面に立っています。その6つの波紋さえリアルであれば、実はその上は魚にはあまり関係がありません。つまり僕がすごくリアルな毛針を作っているのは、どこかで人にウケようとしているから。こういうのを僕らの世界では「人を釣る」と言います(笑)。