
男の背中を見つめながら、私は内心ひどくがっかりしていた。
――記念すべき初体験の場所なのに……。
思い描いていた情景とは、あまりにかけ離れている。入口に見張りのように立つ、目付きの鋭い警備員らしき男も不気味だった。
ヨーロッパでは初のレンタカー旅行。そのスタート地点リスボンへと向かう飛行機の中で、私の頭にはイメージができあがっていた。
真夏の青空の下、空港の屋外駐車場に用意されたピカピカの車にさっそうと乗り込む。それはまさしく、この旅の最初の5日間をすごした、大西洋に浮かぶマデイラ島のイメージだ。島の宮殿風リゾートホテル『リーズ・パレス』で、連日青い空とすごし、いよいよ本土に戻りポルトガル国内を車で旅しようというのだ。当然そのスタートを飾る場面にも青空があるものと思い込んでいた。なのに……。