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04 SPECIAL COLUMNS  男の背中を見つめながら、私は内心ひどくがっかりしていた。
 ――記念すべき初体験の場所なのに……。
 思い描いていた情景とは、あまりにかけ離れている。入口に見張りのように立つ、目付きの鋭い警備員らしき男も不気味だった。
 ヨーロッパでは初のレンタカー旅行。そのスタート地点リスボンへと向かう飛行機の中で、私の頭にはイメージができあがっていた。
 真夏の青空の下、空港の屋外駐車場に用意されたピカピカの車にさっそうと乗り込む。それはまさしく、この旅の最初の5日間をすごした、大西洋に浮かぶマデイラ島のイメージだ。島の宮殿風リゾートホテル『リーズ・パレス』で、連日青い空とすごし、いよいよ本土に戻りポルトガル国内を車で旅しようというのだ。当然そのスタートを飾る場面にも青空があるものと思い込んでいた。なのに……。
 レンタカー会社の受付の男に連れてこられたのは、ガソリンと埃の匂いが入り交じった、薄暗くてだだっ広いガレージだった。
 男がダークグレーの小さな車を指さした。フランス車。料金が一番安い車だ。マニュアル車でクーラーなし。連日30度超えは当たり前の国なのに、クーラー付きの車は贅沢品という話だった。
 受付の男を待たせたまま、素早く点検する。車体を見回す。前の車に随分接近した縦列駐車が気になったが、少しバックして何度か切り返せば出せるだろう。私は、OKと言った。
 ふと、立ち去る男の肩越しに警備員と眼が合う。刺すような視線。自分が盗難車の取引でも済ませたような居心地の悪い気分になった。
 
……つづく
Crick here
ポルトガルを制するものは、ヨーロッパを制す。
文・写真|稲葉なおと