フレンツェ・・・私の「宝物」に会いに行く
ルネッサンス芸術の中心地であったフィレンツェは、時を越えて叶う、壮麗で勇壮な作品たちとの出会いの場所だ。私はフィレンツェに到着するたびに、真っ先にウフィツィ美術館へと足を運ぶ。ため息が出るほど美しい絵画や彫刻を見た瞬間の興奮を、繰り返し味わうために。ミケランジェロもラファエロも、そこで静かに私を待っていてくれる。
なかでも私を惹きつけて止まないのがサンドロ・ボッティチェリ。15世紀にこのフィレンツェで創作活動に没頭した彼の残した「春」や「ビーナスの誕生」の前で過ごす時間は至福のときだ。
流麗な描線と鮮やかな色彩によって描かれた耽美的な世界は、私をどんなときにも夢み心地にさせる。数年前、夫とともにウフィツィ美術館を訪ねたときのこと。いつものように"ボッティチェリの部屋"で長い時間を過ごしていると、彼が私に突然こう言った。「そんなにボッティチェリが好きなら、ここにある彼の絵をプレゼントしよう。今日からは全部、君のものだ」メディチ家の富により生まれた名画を私の物に?! 思わず、私は噴き出した。そして、すっかりその気にもなっていた。「ここに預けておけば管理は完璧だし、修復だってしてくれる。君はただ、見たい時に見に来ればいいんだよ」夫の言葉で勝手に絵の持ち主になった私は、年に一度か二度、フィレンツェを訪れる口実を持った。「たまには"私の宝物"を見に行かなきゃ。だって、預けっぱなしじゃ悪いじゃない」(続く)