ナポリ・・・魅惑の笑顔と太陽光線
港町であるナポリはローマ、ミラノに続くイタリア第三の都市。経済的に急成長を遂げた北部と比べ、長い不況から抜け出せずに多くの失業者を抱える南部の中心地は、その現状とは裏腹に、太陽が降り注ぎ、人々の表情も輝くように明るい。「ナポリに、プライバシーはないよ」ホテルに到着したとき、夫からそう言われ「一体、何のことやら？」と訝しく思っていたのだが、私はその実態をすぐに思い知ることになった。ショッピングをしていれば、まるで旧知の友人のように店員が話し掛けてくる。
レストランで食事をすれば、ウエイターが注文を忘れて、日本人の私を質問攻めにする。うんざりするほどのイタリア語の洪水に、ただ唖然とするばかり。ところが、どんなに付きまとわれても、怒りが込み上げたり嫌な気分になったりしない。歌を歌っているようなリズム感のあるナポリ弁と、太陽光線のようにキラキラとした笑顔があまりにチャーミングで、なぜか心が躍ってしまうのだ。
地元の人しか行かないピツェリアで本場のピザを頬張り、ヴェスーヴィオ火山の噴火によって灰に埋もれた古代都市ポンペイの遺跡を歩き、ナポリから高速船で35分、宝石のように美しいカプリ島で海水浴とシーフード料理を楽しんだ私は、あの有名な言葉「Vedi Napoli e poi muori」（ナポリを見て死ね）の意味を噛みしめながら、こう呟いていた。「今度、生まれてくるなら、絶対にナポリ人だわ」
(続く)
