アグリジェント・・・古代ギリシャ神殿のそびえる街
アーモンドやオリーブ、オレンジの花が咲くシチリア。この島の人々について、仲の良いイタリア人(彼はミラネーゼ)の友達はこう言った。「中村俊輔選手のいるレッジョ・カラブリーアとは海峡を隔ててすぐなんだけど、気質がぜんぜん違うんだよね。物静かで穏やかなんだけど、何を考えている分からないところもある。イタリアの"島国人"だからね、僕から見ると日本人に凄く似ているよ」
その通りなのである。シチリア人はフレンドリーではあるけれど決して押し付けがましくはなく、シャイな一面も垣間見える。気質の違いは、独自の分化と歴史を刻んできたことの証かもしれない。
このシチリア島に私が憧れる場所がある。アグリジェントだ。隆盛を極めた古代ギリシャは、このアグリジェントにたどり着くと、海からせり上がる急な斜面の上にいくつも巨大な神殿を建設した。2500年もの時を越えても朽ちることがなかった神殿の数々は、古代ギリシャ人の夢の象徴のようにも見える。彼らは、大きな石を積み上げながら、天に棲む神々の力を手にしたいと願ったに違いない。そのスケールの大きさには声を失うほどだ。
夜、神殿を仰ぎ見る所に建つホテルに戻り、オープンエアーのテラスで夕食を摂りはじめた。見上げると、群青色の空に大きな月が浮かんでいる。いつもよりたくさんワインを飲んでいた私は、神殿の上で白く光るこの月を観ていた古代ギリシャ人の気配を、ふと、感じていたのだった。
(完)