2013年9月16日

9月16日 震災怪談

今朝、お届けするのは、『震災怪談』です。
いま、東日本大震災の被害を受けた地域で、 “不思議な体験をした”という話が、広がり始めています。 そして、こうした体験談を“震災怪談”として記録し、語り継ごう という動きも始まっています。

お話を伺ったのは、仙台の出版社『荒蝦夷(あらえみし)』の代表・土方正志さん。荒蝦夷は、震災前から、東北に語り継がれる“怪談”を取りまとめてきた出版社です。

◆被災地に広がる“不思議な話”
沿岸被災地で「怪談」とまでは言わないが、ちょっと不思議な話が語られるようになっている。有名なものでは、仙台市内を流しているタクシーの話。乗客に行き先を尋ねると、津波で壊滅した「閖上まで」という。夜に閖上に言っても何もないですよ、と振り返ると誰も乗っていない。そこで仙台市内のタクシー運転手はどうするかというと、閖上まで行き、ドアを開け、バタンとしめて帰る。つまり、帰りたい人が乗ってきたのだから連れて行ってあげようということだと思う。こういう話が宮城県の各地で語られるようになっている。

もう一つは、わたしが直接耳にした話。宮城県北の仮設住宅におばあちゃんがやってきて、お茶っこ飲み(茶飲み話の世間話)をして、またね、と帰っていく。すると座っていた座布団がぐっしょり濡れている。家に招き入れた人は、そのおばあちゃんが、あの日に亡くなったはずだと気がつくが、仮設の色んな家に現れるそのおばあちゃんを、誰もが招き入れ、お茶を飲ませて送り出すという。
どう思っているのかを尋ねると「あのおばあちゃんは自分が死んだことに気づいていない、急に津波にやられちゃったから。そんなおばあちゃんに、あんたあの日にもう死んでしまったから来るんじゃない、というのも気の毒でな」と言う。だからみんな、「そのうち気がつくべ、ということで来たら上げてやんだ」という話をしてくれた。さっきのタクシーの話にしてもおばあちゃんの話にしても、そういう話が語られるというのは、生きている側、生き残っている側の一つの想い、願いがこういう話になってどんどん出てくるんじゃないかなと思う。


こうした“震災怪談”は、実は、1896年の明治三陸大津波のあとにも数多く語られ、民俗学者・柳田国男の「遠野物語」にも、掲載されています。その「遠野物語」を受け継ぐ形で、土方さんが代表を務める「荒蝦夷」は、怪談文学誌「幽」と共同で、「みちのく怪談」というプロジェクトを震災前から続けており、東北に伝わる怪談を取りまとめています。

明日も、沿岸被災地で語られる「震災怪談」についてお届けします。


荒蝦夷 代表 土方正志さん

2013年9月13日

9月13日 海と陸をつなぐ場所、防潮堤を考える(8)

「土木・工学」の視点から、防潮堤について考えます。
お話は、九州大学大学院(工学研究院環境社会部門)准教授、清野聡子さん。清野さんは、河川や海岸の生態工学が専門で、被災地の防潮堤のあり方について、支援/アドバイスを行っています。防潮堤建設を含む海辺の開発は、行政や事業者に一任するのが通例。でも、わたしたち一人一人が、声を上げる権利があると、清野さんは言います。

◆海岸は誰のもの?
「海/海岸は誰のものか」。海辺や海はそもそも国有地で国民のものだが、埋め立てにより、誰しもがアクセスできる海辺のはずなのに、埋め立てた人が自分の土地として、そこを立ち入り禁止にしたりして、70年代かなり議論になった。
そんな中、1999年(平成11年)海岸法が改正され、「防護」だけでなく「環境保全」や「利用者メリット」にも重点が置かれるようになり、一般の人が海岸について意見を言うことができるようになった。国民の権利として、海岸の形をどうするかとか、生態系をどうするかなど、(市民から)自由に意見が出ているという状態が望ましい。そうすると、「線で守る」とか「壁(=防潮堤)を建てる」とか、「(海辺)ぎりぎりまで住んでしまう」ということではないのではないか、見直さなければという機運がある。これだけのことがあったのだから、見直さざるをえないというのが、海岸に詳しい専門家や市民の意見。
また今回津波があり「高台」が注目されている。縄文遺跡や古墳があるところは、ものすごい知恵のかたまり。高台移転を予定していた場所に遺跡があって、それは、昔の人がそこに集中して住んできたということ。高台に住む「価値」をもう一回見出すこと。時間や空間の「スケール(尺度)」を大きく持って、どこに住むべきかをもう一回考えることが重要。


全国各地で巨大防潮堤の建設が進むなか、さまざまな角度から「防潮堤」について考えてきました。「住民の命をどう守るか」「環境や生態系への影響」「海辺の景観」「自然の地形を生かした防災」など、問題は単純ではありません。
そんな中でも、「行政や予算の都合でなく、時間をかけてじっくり考えるべき」という専門家の言葉が印象に残ります。沿岸の暮らしと防災をどう両立させるのか。各地で模索が続いています。

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パーソナリティ 鈴村健一

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