2013年4月6日

4月5日 京都大学防災研究所 矢守克也教授(5)『個別訓練タイムトライアル』(後編)

今週は、京都大学防災研究所、矢守克也教授のインタビューをお届けしています。専門は防災社会心理学。神戸や東北の大震災を検証し、その経験を全国に伝える活動を展開しています。

矢守さんが高知県四万十町興津地区で取り組んでいるのが、「個別訓練タイムトライアル」です。

◆厳しすぎる想定は「あきらめ」を生む
高知県の四万十町興津地区(人口1000人くらいの小さな集落)では、最大25メートルの高さの津波がくるかもしれないといわれている。ただし、想定を厳しくすることは、一方で、あきらめを生んでしまうという危険もある。あまりにも厳しい予想だと、「もうやめた」ということになる。

◆一人一人個別につくる津波避難計画
そこで「個別訓練タイムトライアル」という試みを始めた。これはある種の避難訓練。避難訓練といっても普通タイムを計られたことなんてないんじゃないか。ましてや、自分が逃げている姿をビデオに撮ってもらったことなんて、たぶん多くの方はないと思う。そのビデオをとる役目を、地元の小学校の子供たちに割り当てている。おじいちゃんおばあちゃんが逃げている、一人一人、そういうビデオができる。
その動画に、動く地図がついていて、おじいちゃんおばあちゃんがどんなふうに雛所に向かうかというのがアニメーションで示される。そして、逃げていく後を、まさに津波が追っていくところが、アニメーションで見られる。これを「個別訓練タイムトライアル」からできあがる「動画カルテ」と呼んでいる。
おじいちゃん、おばあちゃんの避難の一つ一つに密着して、おじいちゃんの問題はここね、だって家を出るまで10分もかかっているから、この部分をどうにかしたほうがいいよとか、おばちゃんの問題はこの登り坂で、ここでスピードが落ちちゃってるから、なんとか人に助けてもらうようにしないと、とか。

◆地域の小学生とお年寄りが一緒に取り組む効果
そういうことを、わたしたちから言うと、おじいちゃんおばちゃんも「もういい!」ということになるが、孫みたいな年齢の子どもたちから言われると、意気に感じて、「じゃあもうちょっと頑張ってみようか」ということになる。
実際うれしかったのは、この試みをして、それまでお医者さんに行くときしか外出しなかったというおばあちゃんが、街の避難訓練なんかにも参加してくれるようになって、避難タイムもだいぶ縮まった、というケースもある。
こんなふうに、一人一人に寄り添った避難訓練が、これから求められるんじゃないかと思う。

地域のお年寄りが「もう助からないから・・」とあきらめてしまうのではなく、「自らの意志で逃げる」ことで、地域全体の被害も減らすことができる可能性も。住民一人一人に寄り添った避難訓練がいま注目されています。

矢守研究室

2013年4月6日

4月4日 京都大学防災研究所 矢守克也教授(4)『個別訓練タイムトライアル』

今週は、京都大学防災研究所、矢守克也教授のインタビューをお届けしています。専門は防災社会心理学。神戸や東北の大震災を検証し、その経験を全国に伝える活動を展開しています。

矢守さんが高知県四万十町興津地区で取り組んでいるのが、「個別訓練タイムトライアル」です。

◆津波避難の新しい取り組み「個別訓練タイムトライアル」
いま日本で一番懸念されている災害の一つが、東日本大震災で被災地を襲った津波が、今度は西日本を中心にやってくるんではないかと、非常に心配されている。新聞などで「南海トラフの巨大地震津波」と呼ばれているもの。
そうしたものが心配されている地域の一つの高知県の四万十町興津地区(人口1000人くらいの小さな集落)で、わたしはこの数年、地元の小学校を中心に防災教育をすすめている。この興津地区は津波の危険が非常に高く、最大25メートルの高さの津波がくるかもしれないといわれていて、15〜20分くらいで来るかもしれないと言われている非常に厳しい地域。そういう厳しい地域なので、この興津地区はそれなりに避難場所は整備されつつある。例えば高台の避難所や避難タワーも数基できた。それなら問題解決かというと、そんなことはなくて、本当にみんなそこに、しかもそんなに短時間に行けるのか、という話がある。実際非常に厳しい。考えてみればわかると思うが、ご飯を食べていようが、寝静まっていよう、お風呂に入っていようが、地震が起きてから15分後に近くの高台にいけと言われて、特に高齢のおじいちゃん、おばあちゃんは、足も弱っているし、動作も機敏に動けないし、もうあきらめた、という方が多く出ている。

◆想定を厳しくすることは「あきらめ」を生む危険もある
想定を厳しくすることは、一方で、あきらめを生んでしまうという危険もある。あまりにも厳しい予想だと、「もうやめた」ということになる。わたしたちは興津地区の、特に高齢の方にそういう雰囲気を感じたこともあり、「個別訓練タイムトライアル」という取り組みを始めた。

◆集団ではない、一人一人の避難計画。
これはある種の避難訓練。避難訓練というと、集団でやっているイメージだと思うが、これは違う。一人一人行う訓練。「田中さんだけの訓練」「山田さんだけの訓練」。ましてや、自分が逃げている姿をビデオで撮ってもらったことなんて、たぶん多くの方はないと思う。この「個別訓練タイムトライアル」でやっていることは、まさにそれ。一人一人に密着して、その方が逃げる様子をビデオで全部とって、さらにタイムをはかる、というもの。


一口に「避難」といっても、年齢や体力、住んでいる場所によって、避難にかかる時間はさまざま。一人一人の避難計画を考えることが、これからの津波避難の大きなカギとなります。また、興津地区では地域の小学生とお年寄りが一緒になって、一人一人の「避難カルテ」をつくることで、さらに効果を上げているそうです。

矢守研究室

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パーソナリティ 鈴村健一

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