「映画『曇天に笑う』 本広克行監督、登場!(後編)」

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今回も、映画監督の本広克行 先生をゲスト講師にお迎えします。
公私ともに一郎先生と親交がある本広監督の最新作は、3月21日に公開になる映画『曇天に笑う』。この主題歌をサカナクションが担当しています。

本広監督はこれまでに『踊る大捜査線』シリーズのテレビドラマや映画、ももいろクローバーZ出演の映画『幕が上がる』、テレビアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』など、数々のエンターテイメント作品を手がけてきた監督です。

山口「よろしくお願いします!」

本広「よろしくお願いします!」

山口「いつもは僕が黒板を書くんですけど、今日は本広監督に書いてもらおうと思います。」

本広「いやー……黒板、これ……。効果音だと思ってたんですよね。」

山口「ラジオ聴いてくださってるんですよね。」

本広「もう、もう。すごい聴いてます。」

山口「嬉しいなー。」

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本広「僕、いつも映画を作るときはこれしか考えてないです。」

山口「確かに……!みんな、知ってるか?ここにいる本広克行監督は、日本の映画の興行収入ナンバー1の監督だぞ!」

本広「いや……そんな、もう……(笑)。」

山口「確かに、『踊る大捜査線』も、笑って泣かせるし、僕が大好きなドラマ『お金がない!』……掘建小屋から昇りつめていって、またそこへ戻ってくるっていう、笑って泣かせるっていうね……いいドラマなのよ。」
本広「ふふふ(笑)。僕、泣き担当なんですよ。『お金がない!』でも。泣かせるためにどう演出するかっていうのが多くて……本当に、泣かせるのは本当に簡単(笑)。」

山口「ははは!(笑) 泣かせ上手!」

本広「笑わせるのが難しいんですよ。人を笑わせるのって非常に難しくて。泣かせるのは本当に簡単。笑わせるっていうことは本当に難しくて。笑わせすぎてもだめなんです。」

山口「なるほど。」

本広「あと、笑って地区によっても全然違うんです。北海道の笑いと九州の笑いって全然違うんです。」

山口「え?どういうこと?」

本広「笑いのツボが違うんです。大阪は濃いんです。笑うことに慣れているので、笑い方もうまいんです。で、北に行くほど笑わなくなるんですよ、日本人って。」

山口「え?じゃあ僕?(※山口先生は北海道小樽出身です。)」

本広「札幌とかは都会じゃないですか。後からできた街なので、そういう意味では新しいと思うんですよね。九州の方とかはあったかいので、結構笑ってるイメージ。沖縄とかはいつも笑ってるイメージじゃないですか?」

山口「確かに。音楽もあるんですよね、気候って。あったかい地域ではテンポがゆっくりで、ほんわかしたもの……レゲエとか。北海道は、雪が降って寒いし、雪が降ると音がデッドになって響かなくなるから、反響音を敢えて付けるっていう曲が増えるんですよね。」

本広「泣きは全般にいっしょそですね。振りがちゃんとあれば……人間の好きな、切ないね、悲しいね、ってものを振っておけば、最後にスイッチをピンって押すとみんな泣きます。泣けた映画を作ると、「いい映画だったね」って言われるんですよ。」

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山口「今回は、『曇天に笑う』じゃないですか。」

本広「すっごいしんどかったです……」

山口「(笑)」

本広「自分にとってはですよ、こんな無茶苦茶な題名……って。笑わせなければいけないっていう感じとか。笑顔でって感じだとちょっと薄いじゃないですか、テーマ的に。」

山口「曇天に笑うって……逆っていうか、反対ですよね、意味として。曇り空に笑うってどういうこと?って感じですもんね。」

本広「そうそう。で、映画において曇天を作るってめちゃくちゃ大変なんですよ。曇りをいつも待って、太陽が出ては駄目だし、雨が降っても駄目なんです。曇天の、雨が降りそうな、もやもやした感じを待っていなきゃいけないんです。太陽光が当たると撮影中止なんです、今回。」

山口「えー!それはきついですね。」

本広「いやー……きつかったですよー(苦笑)。」

山口「じゃあ、「今日は晴れなんで中止!」みたいな?」

本広「晴れたら、太陽光線を遮るためにみんなで巨大なビニールを引いて……すっごい時間がかかるんですよ。」

山口「えー……太陽を隠すってこと?」

本広「そうです。全部太陽を隠すんです。」

山口「マジで?」

本広「マジです。これは本当に。影ができちゃダメなんですよ。太陽が出るってことは、直射日光が当たって影ができるんです。」

山口「確かに……!ずっと同じトーンだった。」

本広「そうなんです。曇天のトーン。で、"笑う" でしょう?芸人さんたちがチャレンジしていることを、僕らごときが……みたいな。」

山口「役者さんたちは役者なわけじゃないですか。芸人をやっている人じゃないし、真面目に取り組むわけですよね?真面目に笑わせにいかなきゃいけないし、監督としてそういう役者を使って演出していかなきゃいけないわけですよね。」

本広「そうです。で、今回は特に若いかっこいい男の子たちがたくさんいるので……笑いに長けた、芸人をやりながら役者もやっているって人は今回使っていないので、結構大変でしたね。笑うっていって笑いのシーンみたいなコテコテなことをやったら駄目だなって思って、"笑えない笑い" をやろうって。」

山口「笑えない笑い?」

本広「いちばん下の宙太郎っていう男の子がいるんですけど、その子が常に空回りをする笑いをやろうっていうのを目指して……何回も見ているとニヤニヤしてくるっていう笑いを目指して。そういう風に『曇天に笑う』は作っていきましたね。」

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山口「福士蒼汰さんが主演ですけど、どうでした?」

本広「蒼汰くんは本当に真面目で、全くセリフを嫌がることもないし、言いづらいとも言わないし。身体性も高くて、アクションもほとんど自分でやらせていて。本人には言わないけどスタントマンも用意しているんですけど、全部自分でやって。で、撮影中に左足の小指が痛いって言っていて、病院に行ってきてみたら、ひびが入っているんですよ。それでもアクションやっていたんです。」

山口「えー……!」

本広「ずっと言わないんですよね、本当に痛かったんだと思うんですけど。そのくらい激しいアクションも出来るんですよ。」

山口「そりゃ女子はキュンキュンしちゃいますよね。」

本広「いやー、かっこいいですもん。で、綺麗な着物を着て、スローモーションでふわーって舞ったりして。」

山口「ちょっと着物の胸元がはだけているんですよね。」

本広「そうそう(笑)。」

山口「僕、衣装が、音楽作るのに引っ張られたんですよ。」

本広「あ、そうですか。へー……!」

山口「和だけど妖艶……みたいな。それに結構曲として引っ張られていって、「陽炎」のゴダイゴ感……『西遊記』感が。」

本広「オリエンタルな感じですよね。」

山口「そうそう。そこに引っ張られていきました。」

本広「そうですか、それは嬉しいと思いますねー……スタッフも作家の先生も。」

山口「マンガの原作じゃないですか。衣装を作るときにマンガの原作からインスピレーションを持ってくるわけですか?」

本広「全く変えるか、全く同じにするかどっちかしかなくて。どっちですか?好きな漫画を実写化した場合、全然違うとあれ?って思います?」

山口「思う。」

本広「僕も思うので、同じにしてくれって言って。」

山口「あの……『攻殻機動隊』あったじゃないですか、ハリウッド版の(『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』)。素子が英語なのが……なんか違うなっていうのがあって。」

本広「本当はアニメ版の監督の押井(守)さんも英語にしたかったんだと思うんですけど、日本語にしないと日本国内でのビジネスとして成功しないので……」

山口「でも、それを頑張って日本語にしたあの違和感が僕らにはまったんですけどね。」

本広「なるほどー。」

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山口「僕、"ライスワーク"と"ライフワーク"って言い方をよくするけど、本広監督も、エンターテイメントとして、仕事として楽しませるものを作るっていうことと、自分のライフワークとして好きなものを作るっていう、その二つの掛け合わせで生じる揺れってあるじゃないですか。」

本広「はい、はい……もう、本当に、毎日それと戦ってますね。好きなことをやり過ぎてしまうと、なんか偏ってますよね。それがおもしろいと認められる人たちは天才だと思うんです。」

山口「うん、うん……尾崎豊とかね。」

本広「で、僕らのような凡人というか、普通に作れるクリエイターといわれる人たちは、いろんな方からの……パクリとかって言われますけど、いろんなものを吸収して、それを形にして出すクリエイトなんですよね。」

山口「僕ね、人の真似をするのは全然ありだと思うんですよ。だって、新しいものを今から生み出すのって、こんなにいろんなものが考えつくされた中でやれるわけないと思うんですよ。」

本広「そう、間違いないですね。」

山口「だから、人のものを真似して自分らしく変化させていくっていうのはありだと思うんですけど、自分の真似をし始めると、劣化していくしかなくなるじゃないですか。」

本広「素晴らしいですね、本当にそうなんですよ。これくらいでいいかなーってものを出していると……僕、日本の映画監督の歴史を調べるのが大好きなんですけど、そういう人はみんな枯れてますね。同じことをやればいいんだろうってやっていると、いなくなってます。」

山口「ですよね。」

本広「うん、これは間違いないと思います。」

山口「だからね、僕、もっくんすごいなって思ったんですよ。今回の『曇天に笑う』って映画も、その前の映画もそうですけど、踊る大捜査線のシリーズからの……それはもっくんにとってもすごく大きな映画だったと思うんですけど、そこから、舞台をやられたり、マニアックなこともやられたりしていて……そこからまたここに帰ってきているっていう……自分の中の葛藤自体もすごく共感できたし、これから次にどんなことをやっていくのかっていう楽しみもあるし。今回いっしょに映画を作ることができて、僕、嬉しかったです。」
本広「いやー、こちらこそですよ。一郎さんがそこで戦っているなっていうのは僕も分かっていたんですよ。なかなか曲は上がらない、曲が上がってもサビを変えちゃうとか……ものすごい戦いなんだなっていうのが分かって。僕は全然待てましたけどね。」

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山口「ひとつ言わせてもらってもいいですか?新しい歌詞と、新しいメロディーってあと2行だったんですよ。あと2行書き終わったら終わるっていうところまで行っていたんですよ。」

本広「えー……それはオリジナルバージョンってことですよね?」

山口「そう。それはオリジナルバージョンに入ることになったから、また全部書き直しているの。曇天用にやっていたから。」

本広「あ、映画館でしか聴けないバージョンと、ってことですよね?」

山口「そう。」

本広「そんな……僕らにしたらありがたいですよ。」

山口「「陽炎」の2パターンで一卵性双生児ですよ。」

本広「そんな曲って今までにあったんですかね?」

山口「ない。」

本広「(笑)」

山口「僕ね、最近思うんですけど、iPhoneとかPCってOSがアップデートしていくじゃないですか。バージョン10.11……みたいな。曲もそうやって、「陽炎1.01」「陽炎1.02」って、アップデートしていいんじゃないかって思って。音楽でビジネスしていく時代は、種類が変わっていくのでビジネスも変わっていくと思うんですけど。多分、もっくんも考えていらっしゃると思うんですけど、システムのアップデートをしなきゃいけないのかなって。今回の「陽炎」も2つのバージョンがあって、『曇天に笑う』のためのものも作ったし、サカナクションの「陽炎」も作ったし……この2つをちゃんと広めていきたいなって。システムを作るっていう。」

本広「面白いですよねー……そういうことってなかなかやってくれないですよ。普通のミュージシャンの方は、言われたことをそのままタイアップですねって出すだけだけど、一郎さんはそこの考えまでいっちゃうから、それは締切がなかなか決められないですよね。」

山口「前に映画の音楽をいっしょにをやったのは大根仁監督で、大根監督もすごく人物として好きですし、大根監督も戦っているのも分かったし。そういう風に、ちゃんと距離が近くて、直接話ができて、やりとりができないと、誰かが間に入るとやっぱり難しくなるんです。」

本広「そうですね。」

山口「今後も、よろしくおねがいします。」

■映画「曇天に笑う」曇天ダンス〜D.D〜 サカナクション/陽炎




山口「あとね、「陽炎」の曇天ダンスっていうのも、振り付けがMIKIKOさんで、映像が公開されているので。」

本広「そうそう。」

山口「これはもっくん映像は関わってないんですよね?」

本広「これは一切関わってないですね。ああいう、脇役の人たちがダンスをしたり、スピンオフさせるっていうのは、僕、大賛成なんですよ。」

山口「僕もそう思う。」

本広「本編は本編であって、スピンオフはみんなで楽しくいろいろやっている方が。」

山口「あの『踊る大捜査線』の署長のやつでしょ?」

本広「そうそう、3アミーゴスのやつとか。演劇とかも作ったんですけど、あの時。今回もそういう風に広めていって欲しいなって。『PSYCHO-PASS サイコパス』ってアニメはものすごい広がりを見せて、どこまで行くんだろうって感じなんですけど。だから、ひとつの映画で終わりにしたら、それで終わりになっちゃうので、バージョンアップムービーをやりたいんですけど、いろんな理由で出来ないんだったら、そこから生まれる副産物的なやつを作るのは、映画の新しいあり方だなって思っています。」

山口「さすが……想像できていますね、いろいろ。」

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今回の授業も終了の時間になりました。

山口「どうでしたか?サカナLOCKS!楽しめましたか?」

本広「いやー……楽しかった。一郎さん、やっぱり芝居してるんだなーって思いました。テンション上げめで。」

山口「嘘?これ、芝居なのかな?」

本広「芝居ですよ、それ。それが芝居です。だから、役者やれますよ。」

山口「無理無理無理(苦笑)。だって、僕小学校の頃の学芸会で主演だったんですけど、演技ができなすぎて外されましたからね(笑)。」

本広「ふふふ(笑)。でも、役者が似たような人が集まったらつまらなくなりません?」

山口「確かに。」

本広「同じような芝居をする人が集まってきますよね?濃くなりますよね?そしたら映画ってつまらないなってなりません?」

山口「なる。」

本広「なりますよね?ってことは、ここで一郎さんが「はい!(※サカナLOCKS!の授業オープニングの一郎先生の真似)」って言って出ていく(笑)。おー、キャラができてる!って、最初ちょっと見られなかったです。ドキドキしながら(笑)。」

山口「ははは!(笑) まあね……でも、やらないです。」

本広「やってくださいよ!」

山口「……まあ、ゆっくりご飯食べながら話しましょう(笑)。」

映画『曇天に笑う』は、3月21日公開です。映画を観た生徒の皆さんは、ぜひ感想を[サカナ掲示板]に書き込んでください。

■映画『曇天に笑う』予告編【弐】


サカナLOCKS! 放送後記

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