「山口一郎 パリコレ滞在記 2019 (前編)」

SCHOOL OF LOCK!

山口「一郎先生、9月にパリで行われました ANREALAGE 2020 S/S COLLECTIONのショーの音楽を担当したんですけど、今回はそのパリコレ話をお届けしたいと思います!ボンジュール!」

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山口「僕がANREALAGEというブランドのパリコレの音楽を担当することになったのが2015年なんですけど、今回2020年のS/S (SPRING & SUMMER)……つまり、春夏の服のコレクションの音楽を今年も担当しました。そして、今回はゲスト講師が来ています。NFの青山翔太郎くんです。」

青山「青山翔太郎です。よろしくお願いします。」

山口「この青山くんと、ANREALAGEのパリコレの音楽を担当してきました。」

青山「はい。」

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山口「まず、パリコレって何なの?って話からしていくと、1900年代初頭に、オートクチュールという、お金持ちのために服を作っているメゾン……洋服屋さん、仕立屋さんがあって。そういうのが盛んになってきて、各メゾンごとに、こういう服を作っていますよって発表するショーをやり始めたのが始まり。現代は、パリコレクションの組合に認められたブランドがパリコレクションでショーをやると。で、自分たちは今季こういうテーマでこういう服を作りますよっていうのを紹介していくっていうのがパリコレクションですね。なので、ユニクロとかGAPとかそういうのではなくて、ハイブランドと言われるブランド。みんなが知っているブランドで言ったら……グッチとか、シャネルとか、プラダとか。そういうハイブランドの人たちが自分たちの服を紹介するショー。ライブですね、ある種。それが毎年2回、メンズとウィメンズで分かれているんだけど、ウィメンズは3月と10月。メンズは1月と6月にあると。これは、S/S (SPRING & SUMMER)とA/W (AUTUMN & WINTER) に分かれています。春にA/Wやって、秋にS/Sやるんだよね。だからサイクルが早い。デザイナーは年に2回、2つのテーマで服を作らなきゃいけない。ミュージシャンで言ったら2枚アルバムを作らなきゃいけないという……すごい過酷なことですね。そういうパリコレクションっていう歴史のあるものがあるんだけど、これはミラノとニューヨークでもあります。でも、僕らはパリでANREALAGEという日本のファッションブランドの音楽を5年ぐらい担当しています。」

山口「ファッションショーには必ず音楽があるんですよ。みんな見たことあるかな?シュッとした女性がパッパッパと歩くじゃん。日本のモデルで有名な人って言ったら?」

青山「冨永愛さんですね。」

山口「うん。冨永愛さんとかがシュッシュッシュと歩いて、くるっと戻ってくるみたいな。あれって後ろで音楽が流れているんですよ。青山くんって僕と出会う前から音楽を担当したりしていたでしょ?」

青山「そうですね。日本のブランドだとJOHN LAWRENCE SULLIVANとか、JUNYA WATANABE COMME des GARCONSとか。ただ、その時は選曲だったので、オリジナルで書きおろすっていうことではなかったですね。」

山口「普通は選曲が多いんだよね。作るってことはあまりないですけど、ANREALAGEでは毎回制作して、0から作っていくっていうことをやっています。何をガイドに音楽を作ったらいいかというと、もちろん服なんだけど。森永さん(ANREALAGE デザイナー)のファッションには、アルバムタイトルみたいなのが毎回ついているんですよ。僕らが初めてやったのは、『情熱大陸』に出た時だから……"REFLECT"っていうテーマで、日本語では、"反射"、"跳ね返す"。服の写真を撮ると光ってデザインが出てくる。写真を撮らないと見えないデザインがあるっていう。それを元に僕らは反射っていうコンセプトに音楽を作りました。"SILENCE"っていうコンセプトの時は、音がないっていうコンセプトで、花火が打ちあがってドーンって鳴るまでの音だったり、クラシックのチューニングの音とか。そういう風にコンセプトに沿って音楽を作っていくっていう。」

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山口「今回2020年のS/S、今回僕らがパリに行った時のANREALAGEのテーマはなんだったっけ?」

青山「"ANGLE"です。」

山口「"視点"だよね。その打ち合わせがあったのが……ショーの2週間くらい前だっけ?」

青山「打ち合わせしたのはもう1週間前くらいじゃないですかね(笑)。」

山口「(爆笑)」

青山「出発の1週間前くらいですね(笑)。」

山口「普通はそんなことないんですよ。いつもは3〜4週間くらい。まあ、そんなに変わらないんだけど(笑)。」

青山「本来であれば、パリコレやった次の週からは次のコレクションのことをデザイナーは考えるので、大体6ヶ月くらいはあるはずなんですけど(笑)。」

山口「ANREALAGEっていうブランドは、本当にショーのギリギリにテーマが決まって、服もショーの1ヶ月前くらいから作り始めるんですよ。だから全部がギリギリ。しかも、「"ANGLE"です」ってコンセプトを言われた時に、「"ANGLE"じゃないかもしれません」って言われて(笑)。」

青山「その時に、フライヤーを2つ同時進行させていて。」

山口「そう。こういうショーをやりますよっていう招待状があるんですけど、コンセプトによってデザイン変わるじゃないですか。だから、ANGLEっていうコンセプトと、もうひとつのコンセプトの、2種類を作っていて。僕らは"ANGLE"であっても、もうひとつのコンセプトであってもいいようにスタートしなきゃいけないという状況だったんです。ただ、タイトルは違っても考え方は一緒だったんだよね。」

青山「そうですね。」

山口「今回の"ANGLE"っていうのは、視点によってデザインが変わるという。普通は正面から自分の目で見て、平面の2次元でみるじゃないですか。斜め横から見ると服は斜めに見えるし、下から見上げると下のボリュームが大きくて上が小さくなるじゃないですか。その視点によってデザインって変わるよねっていうのをそのまま服にしちゃおうっていうのが今回のANREALAGEコンセプトだったんですよね。だから、今回はその視点っていうものを軸にどうやって音楽を作ろうかって話していったのが最初かな。」

青山「そうですね。」

山口「で、服もできていないんですよ、まず。打ち合わせの時点で。ANREALAGEの場合は、ショーをやることは決まっていて、どういうコンセプトでやるかがギリギリに決まって、服もギリギリにできるので、全部ギリギリ進行になるんですよね。ショー自体は9月24日。服が見れるのが9月20日、パリに行ったら見れるって言われたんですよ。」

青山「パリ現地入りの日(笑)。」

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山口「僕らは音楽を作るのにまず服を見なきゃいけないじゃないですか。日本で見れないから、とりあえずパリに行かなきゃいけないっていう(笑)。」

青山「だから、一郎さんも「青山くん、持てるだけの機材を全部持って行こう!」って(笑)」

山口「で、"ANGLE"っていうコンセプトだったので、音が立体的に変化するとか、ただ単に演奏するんじゃなくて、二度と同じ音が出ないけど記録されるっていうコンセプトを元に、演奏できる楽器がないかなって思った時に出てきたのが、"テルミン" っていう楽器で。あれってひとつのバーに対して手を撫でるように演奏するので立体的じゃないですか。でも音はモノラルで平面だから、森永さんが言っている"視点"っていうものに合うんじゃないかなっていうので、とりあえずテルミンだけ買って(笑)。テルミンもそうそうある楽器じゃないんですよ、楽器屋さんに。だからヤフオクで(笑) ……オークションで買いましたからね、1台。それくらいギリギリだったんですよ。」

山口「でね、言っても僕は日本にいたら分刻みでスケジュールを詰められるミュージシャンですよ。ラジオのレギュラーもあり、制作もあり、打ち合わせやNFの活動もあって、分単位でいつもスケジュールを切っている僕を、1週間くらいパリに缶詰めで制作させるっていう……本当にANREALAGEは狂気だなと思いました(笑)。それで、向こうで制作しなきゃいけないので、青山くんと相談して、ホテルの部屋でやると鬱屈しちゃうので、Airbnbっていう民泊みたいなやつだよね。」

青山「そうですね。民泊があって、そこで大きい部屋を借りて、そこに全部機材を入れて一郎さんと制作した感じですね。」

山口「だから二人で部屋にこもってひたすら作り続けるっていう作業。これがね……また良かったんですよ。何が良かったかって振り返ると、まず、日本にいて、東京の街を歩くと、自意識過剰かもしれないけど、自分のことを知っている人がいるかもしれないっていう緊張感が常にあるじゃないですか。もちろん、買い物に行って声をかけられたり、写真撮らせてくださいって言われることは嫌じゃないし、嬉しいなと思うんですけど。何か違う緊張感が常にあったんですよ。でも、制作していて疲れたなと思ってパリの街をぶらぶら歩いても誰も僕のことを知らないから。……ちょっと前髪が重たくて眼鏡かけた日本人が歩いているなってしか思わないから(笑)。だから、その緊張感がないっていうのは結構な開放でしたよね。青山くんと二人でご飯を食べに行ったり、街を歩いても全然平気だし。全部新鮮。何を食べるかもその場で決めればいいっていう。自由でしたね。」

青山「昼食も公園でサンドイッチを食べたりとか。」

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山口「その緊張感からの開放はすごく良かったんですよ。あと、マネージャーを連れて行かなかったんですよ、今回。青山くんと2人だったんです。だから、いつもだったら、制作終わりました……家に帰りました……「明日○○があります」……「こういうスケジュールです」……「確認事項があります」……「いつに何を入れてもいいですか?」……っていう最終ミーティングみたいなのがあったりして、常に追われている感じがあったけど、マネージャーを連れて行かなかった上にWi-Fi環境もそんなに良くないから、本当に制作にだけ集中できたんですよ。非常に過酷な旅でしたけど、制作も引きこもって。」

青山「朝から深夜までやっていましたよね。」

山口「日本である程度準備はして行ったんですけど。もう5年やっているので、音楽的にはこういうふうに行こうっていう当たりはつけて行ったんですけど、ずっと制作していましたね。家なので、空気も乾燥するからちょっとお湯沸かそうとか、洗濯機を回してみようとか、GEN GEN ANっていう日本のお茶を持って行ったんですけど、(フランス現地の)硬水には合わないね、軟水の方がいいねとか。そういうのを話しながら一緒に制作をしていたのはすごいよかったですね。それが今回面白かったし、勉強になった点ですね。」

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山口「でも、演出も決まってない状態なので、ギリギリまで完全には。音楽で合わせていくしかないんですよ。結構即興性が問われました。」

青山「そうですね。」

山口「音源をポンって流すんじゃなくて、その場の即興で演奏するし、尺もその場で変わるし、トラブルがあっても変わるし。本当にいい緊張感があるっていうか。僕らは音楽を作っているから完全に構成を把握しているじゃないですか、ショーの。上手くいっているかいないかは、僕らが一番分かったと思う。」



ANREALAGE 2020 S/S COLLECTION ‘’ANGLE’’ -full ver.-

というところで、今回の授業は終了の時間になりました。

山口「今週はここまでにして、来週またこのパリコレの話の続きをしたいと思うんですけど、次回はパリコレクションで使ったテルミンを、実際に演奏しようと思います。ヤフオクで買ったやつ(笑)。大阪在住の人から買ったテルミン。パリコレを実際に解説付きで演奏するっていうのをやってみようかなと思います。」

来週のオンエアをお楽しみに!!

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