「ゲスト講師「田中裕介」監督 - 前編」

SCHOOL OF LOCK!

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聴取期限 2020年1月10日(金)PM 11:00 まで



山口「はい、授業を始めますから席についてください。Twitterを開いている生徒はTwitterを閉じなさい。Instagramを開いている生徒はサカナLOCKS!のインスタアカウント(@sakanalocks_official)をフォローしなさい。授業が始まりますよ。新年あけましておめでとうございます。今年もサカナLOCKS!よろしくお願いいたします。SCHOOL OF LOCK! UNIVERSITYから、このSCHOOL OF LOCK!にまた戻ってきました……単身赴任から戻ってきました(笑)。なので"講義"ではなく、再び"授業"として皆さまとお付き合いしていきたいと思います。しかも放送時間を延ばして。どうですか、この待遇!……教頭レベルですからね(笑)。教頭の座は空いていますから、教頭レベルだと思っていただければと思います。」

「では、新年最初の授業ということで、新年の目標を色紙に書いて発表したいと思います。毎年書いてるっしょ、書くよ今年も。」


「今年の抱負……はい。……今年はもう、これです。これに尽きる。」


「今年の目標は"感謝"でございます。」

SCHOOL OF LOCK!


「私、昨年で39歳。今年40歳です。2020年にしてフォーティ、人生の折り返し地点に来たと仮定しつつ、この半分……ここからは、今まで応援してきてくださった皆さまに対してサービス……サービス精神と感謝の気持ちを込めて、音楽と音楽に関わる音楽以外のことを丁寧に伝えていきたいと思いますし、今までお世話になってきた方々に何らかの形で恩返しできるように、魚の恩返しをしていきたいなと思う1年の始まりであるという意味で、"感謝"ということをテーマとさせていただきたいなと思います。」

「それでは、2020年最初の授業内容を黒板に書きたいと思います。」

SCHOOL OF LOCK!


「……これ、サッカー選手じゃないですよ(笑)。今回は、サカナクションの数々のミュージックビデオの監督を務めます、映像ディレクターの田中裕介監督を迎えてお届けしていきたいと思います。将来、MVや映像に関わる仕事をしたいと思っている人はたくさんいるんじゃないかと思う。貴重なお話が聞けると思いますよ。」

SCHOOL OF LOCK!


田中「明けましておめでとうございます。田中裕介です。よろしくお願いします。」

山口「よろしくお願いします。田中裕介監督、僕らサカナクションと監督の出会いは?」

田中「いちばん最初にご一緒したのが、「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」のMV。」

山口「2011年……もう9年来の付き合いということですね。」

田中「そうですね。長いですね。」

山口「そこから、「夜の踊り子」「さよならはエモーション」「新宝島」「多分、風。」そして、最新作の「忘れられないの」と……最新作って言ってももう半年くらい前になっちゃうんですけどね(笑)、あっという間です。」

田中「そうですね。」

山口「SCHOOL OF LOCK!的には、Perfume研究員のMVも手がけていらっしゃって。」

田中「はい、よくやらせていただいています。」

山口「その他にも、みんなが見たことがあるだろうCMの映像とかも……むしろ、CM映像の方がメインなんですよね。」

田中「数で言うとそうですね。メインだと思います。」

山口「映像ディレクターをやりたいって思っているそういう人たちに、この仕事はどういうものなのかを簡潔に言うとどういう感じですか?」

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田中「簡潔に言うと……全体として「監督」なんですよ、分かりやすく言うと。で、映画の場合は、映画監督っていう肩書きがバーンとあると思うんですけど、それ以外になると、CMやMVやライブの映像やいろいろやるから急にジャンルを跨ぐので、いったんそれは「映像ディレクター」っていう風に括っているわけです。だから、ビデオアートでもない映画でもない映像は全部やっている……みたいなのが映像ディレクター。その中でCMが多いとかMVが多いとかは監督ごとにあると思うんですけど。」

山口「なるほど。」


山口「僕はサカナクションのMVを田中監督にお願いする立場の人間なので、やり取りの方法が分かるんですけど、CMの映像を作るときのやり取りってどういうやり取りなんですか。……例えば、じゃあ、僕クライアントやります……カステラの山口堂の社長ね!」

田中「はい(笑)。」

山口『あー、山口堂の社長なんだけども。あのー、そろそろうちもね、CM作りたいと思ってるわけ。これはどこに行ったらCM作れるんかな〜。』

田中「それはですね、CMの場合は特殊で、そこはまず広告代理店というものがありまして。」

山口『わたすは、広告代理店に電話したらいいんですかね?』

田中「そうです。」

山口『電通とか博報堂とか?』

田中「そうそう。」

山口『はー、聞いたことある。』

田中「そこに電話すると、まず営業の人が来て、「そうですか!CM打ちましょう!企画を考えてきます!」って話になるわけですよ。」

山口「……あれ?広告代理店の人が企画を考えてくるわけですか?」

田中「そうです。一般的には。」

山口「あー、そうなんだ。じゃあ、その広告代理店の人に、『山口堂のCMは、カステラのふわふわしたところの感じを一番アピールしたい。それは女性の乳房くらいのやわらかさだから、それを比較したCMにして欲しいんだ!』って?」

田中「『分かりました!ちょっと考えてきますよ!』って代理店の人が言って、後日企画を持ってくるわけです。『ふわふわ感を歌でやりましょう!歌を作りましょう、ふわふわの歌詞で。サカナクションの曲を替え歌にするとか、面白くないですか?』とか言って、そういう企画を提案するわけです。」

山口「え、電通や博報堂の人が?」

田中「そうです。」

山口「で、『お、いいな!その、サカナなんちゃらに、ふわふわの歌をやってもらおうやないか!』って。」

田中「『分かりました!』ってなったら、実際に制作が始まるんですけど、そうなってくるとCMに関しては僕らが登場してくるんですけど……つまり「現場監督」みたいな感じ。」

山口「じゃあもう、大抵の場合はクライアントがいて、広告代理店が企画を考えて、実際に撮るのが映像監督になるんですか。ディテール(細かい部分)とかも含めて。」

田中「そうですね。」

山口「はー。でも、SoftbankのCM (♬SoftBank music project テレビCM「速度制限マン」篇 )の時って、僕らのMVを作る時と近かったじゃないですか。」

田中「近かったですね、だからあれは特殊ですね。」

山口「MVの時は、僕が曲を作って、「田中監督、これ何月にリリースします。新曲ができました!」って、歌詞がない状態の時くらいから聴いてもらうじゃないですか。すると、田中監督がそれを聴いてブランディングして、絵コンテを書いて企画も全部考えるじゃないですか。」

田中「そうですね。」

山口「SoftbankのCMの時はそれに近かったですよね。」

田中「近かったです。共同でやらせてもらったって感じですね。」

山口「あれは特殊なんですか、やっぱり。」

田中「ちょっと特殊ですね。CMの場合は、クリエイティブディレクターっていう肩書きの人が総監督をしているんですよ。Softbankでいうと澤本嘉光さん。で、MVの場合は、僕らが総監督も兼ねる感じ。」



♬ サカナクション|SoftBank TVCM 「速度制限マン」篇(30秒)

山口「はー。でも、僕がもし映像ディレクターだったら、圧倒的にMVの方が楽しそうですね。」

田中「うーん……そうですね。それはもちろん一理あって。やっぱり企画って大変じゃないですか。そこで世の中に対してリーチするかどうかって大半決まってくるような気もするから。そっちの方が楽しいしなって思いますね。」

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山口「「忘れられないの」って、SoftbankのCM用に一緒に曲の雰囲気から歌詞から考えたじゃないですか。あのMVを作る時ってどういう発想からああいう風になったんですか。」

田中「あれは、ちょっと遡っちゃうけど、サカナクションのVISUAL LIVE SESSIONのライブで、曲(後に「忘れられないの」になる曲)に歌詞がない状態のものに映像を作らなきゃいけなかった時に、一郎くんに曲のコンセプトを教えて欲しいって電話して聞いたんですよ。その時に一郎くんは、僕が『ハートカクテル』っていう漫画とかアニメが好きっていうのを知っているから、「あの世界観にマジで憧れているけど、あの世界観にマジで憧れているって若干ダサいっていうところがあるんだけど……そういうやつだけどいいやつで、憎めない男の話」みたいなことを言ったの(笑)。それでもう割とその世界観っていうのが……80年代の『ハートカクテル』の世界観っていうのが頭でFIXしちゃってた(決まっちゃってた)から、割と、それ前提でどうしていくかっていうのを考えていった。」

山口「『ハートカクテル』っていうのは、80年代の漫画とアニメですよね。アニメは常に静止画みたいなものがあるようなもので、少し変わったやつなんですよね。」

田中「そう。わたせせいぞうさんっていう人が描いていて。」

山口「そっか。あれを引きずっていたからなんですね。」

田中「そう。あれを引きずっていたからあの世界観になっているっていう。」

山口「曲自体もあの世界観というか……僕らが、シティポップやあの辺の年代を狙ってやったっていうのもあるけど。」



サカナクション / 忘れられないの

山口「……でも、田中監督って……本当に変態ですよね。MVの最初のプレゼンで絵コンテを描いてきてくれるんですよ。まあ……絵コンテを描いてくれる人って多いんですけど、ただ、田中監督ほど精巧な絵コンテを描く人はいないんですよね。で大抵、田中監督のプレゼン資料の一番上は、"サカナクション ミュージックビデオ案"ってA4くらいの薄い紙に書いてあって、下の絵が透けているわけ(笑)。それが、表紙が薄くて下のイラストが濃いから透けちゃってるの。大抵その透けている状態で、もうOK!って感じなんですよね。「これでいきましょう!」って。めくるまでもないっていうか(笑)。……変態なんだけど、真面目なんですよね。その真面目な変態さっていうのが、本人も気づいていない狂気さにつながっているという(笑)。」

田中「(笑)」



サカナクション / 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』

山口「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』、この曲のMVをお願いしたいって、当時のスタイリストの北澤"momo"寿志さんからお話をしたじゃないですか。これを最初に聴いた時はどう思ったんですか?」

田中「最初……ハワイでロケしている時に曲が届いて聴いたから、全然分からなかった(笑)。」

山口「(笑)」

田中「第一印象は、「ここで聴くべき曲じゃないぞ」って感じだった。ハワイにいるから入ってこなくて(笑)。よく分かんなくて。」

山口「へー。そこから、棒がぶわーんってなる発想になったわけじゃないですか。どういう風にそこに至ったんですか?」

田中「なんかね、momoさんとそのとき話をしていて、ダンスものがいいなっていうのもmomoさんが言っていたのよ。ただ、普通のダンスものでサカナクションはハマらないだろうから、何かないかなって思っていた時に、アメリカで実際に棒に人形をつけて踊るパフォーマーがいたなって……そういう映像を見たことがあるなって思い出して、YouTubeで探してみて、バッハを聴きながらその映像を見たらめちゃくちゃハマってたから(笑)。」

山口「(爆笑)」

田中「これだなーって思ったっていうね。」

山口「ビジーフォーの元ネタですよね?」

田中「そうそう。ビジーフォーのモノマネでやっていて。」

山口「僕らも、バッハをやる前に「ネイティブダンサー」とか「アルクアラウンド」とかMVである種、勝ってきたんですよ。で、バッハは実はシングル曲じゃなかったんですよ。「エンドレス」っていう曲をシングルで出す予定だったのを、僕が先延ばしにしたいって言って、B面曲だった「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」をA面にして出すことにしたんですよ。これは当たらないとか、いろいろと反対もあったんですけど、僕は勝負できると思って出したので、これはMVにかかっているっていうのが、ひとつあったんですよ。だから「普通にまとめられたら怖いな」っていうのもあったから、このぶっ飛び企画で来たのは、僕ら的にも「よっしゃ!」って感じだったんですよね。」

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山口「そして、田中裕介監督には、サカナクションが1月15日にリリースします、前回行われた『SAKANAQUARIUM 2019 "834.194" 6.1ch Sound Around Arena Session -LIVE at PORTMESSE NAGOYA 2019.06.14-』の、LIVE Blu-ray & DVDの映像と、ジャケットアートワークと、パッケージデザインも全部担当していただきました。過去にパッケージはやってもらったじゃないですか。」

田中「うん。開くやつ。(『SAKANAQUARIUM 2015-2016 "NF Records launch tour" -LIVE at NIPPON BUDOKAN 2015.10.27-』)」





山口「あれも面白かったですけど、今回のこのツアーは、ライブ本編映像も田中監督にお願いしていて、ジャケットとかも全部やってもらったということで。」

田中「あのー……大変でしたね(笑)。」

山口「(笑)」

田中「大変だったけど、よかったです。やっぱり、2時間ものの編集って超大変で。」

山口「映画くらいですもんね。」

田中「ですよ。ただ、ちょっと思い入れがあったから、自分の手でやりたくなってしまって。1週間くらい引きこもってやった(笑)。」

山口「嘘!?(笑)」

田中「1週間外出せず、引きこもってやった(笑)。だから、結構中の映像の編集も僕のエモーションが入っていると思う。」

山口「へー。でも、そこからジャケットやアートワークのデザインに入っていくわけじゃないですか。どうですか?」

田中「これも、ライブの中の「ユリイカ」の演出がそのままパッケージになっているっていう考え方になっているんです。」

山口「ステージの前に紗幕があって、ステージ後方にLEDパネルがあって、その間のステージで僕らが演奏しているっていう。紗幕にも映像が出ているし、LEDパネルにも映像が出ているっていうあのシーンですよね。」

田中「そう。今回のパッケージは表に東京の風景で、裏に小樽の海。東京の海と小樽の海……中身を抜くと「あ……!」ってなるっていう。」

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山口「なるほどね。ネガのように2枚の写真がね。」

田中「そう。実は透明でね、重なるっていう。」

山口「裏から見ると逆の数字になっていて、1月から始まるツアータイトルのルックバックになるっていうことですよね。つまり、『834.194』を振り返ってみているっていう。」

田中「そう。だから、結構コンセプトが繋がったものができたからよかったなって思いますけどね。」





山口「まだまだお話をお聞きしたいんですけど、今回の授業も終了の時間になってしまいましたので、まだ話し足りないと。変態度合いが足りない!(笑) まだ変態度が低いので、次回も年明け1発目から2発目まで田中監督に登場してもらいたいなと。……よろしいでしょうか?」

田中「はい。」

山口「大変お忙しいのにサカナクションばかりにお時間をいただいて……」

田中「光栄でございます。」

山口「(笑) よろしくお願いします。」

ということで、山口先生と田中監督の対談は次回に続きます!
来週の授業もお楽しみに。

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