対談『音楽とファッション』 (w/ ANREALAGE 森永邦彦)- 前編 -

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山口「はい、授業を始めますから、席に着いて下さい。マンガを読んでいる生徒はマンガをしまいなさい。Twitterを開いている生徒はTwitterを閉じなさい。Instagramを開いている生徒もInstagramを閉じてください。今日はゲストがおりますので、早めに黒板を書きます。」

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「今日は、スタジオの中は良い匂いがしているぞ(笑)。」

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山口「今回は、NFではなく、“MF”。これはMusic(音楽)とFashion(ファッション)の頭文字です。今回は、僕がパリコレでサウンドディレクションを務めたブランド、ANREALAGEのデザイナー、森永邦彦さんをお迎えして授業をお届けしていきます。森永さん、こんばんは。」

森永「こんばんは。」

山口「お久しぶりです。っていうか、パリコレ以来なので……どれくらいですかね?」

森永「ちょうど1ヶ月くらいですね、うん。」

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山口「なんかあっという間ですねー。」

森永「確かに。」

山口「先日は本当にお疲れさまでした。」

森永「こちらこそ、ありがとうございました。」

山口「ANREALAGEっていうのは、ファッションブランドですよね。生徒諸君の中には、ファッションブランドってどういうものなのかあんまり分かっていない子たちもいると思うんですよ。」

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森永「ファッションブランドは、いろいろな括りがあるんですけど、基本的には、全部やるっていうのがファッションブランドですね。デザインもしますし、物もつくりますし、それを自ら売って、世界観を出して伝えていくっていう。ファッション界のいろんな職業がありますけど、それを一手に自分たちのコントロールでやるっていうのが、ブランドですね。一般的には値段が高いっていうことは、ブランドの価値であるとされていて、その価値をいかに作っていくかがブランドの使命ですね。」

山口「なるほど、分かりやすい。」

森永「同じTシャツでも、それを1000円で売るのか、10000円で売るのか……その違いっていうのは、形はほぼ同じで、素材も同じコットンだとして、何がそこで分かれてくるかっていうと、そのブランド価値っていうものですね。」

山口「そのブランド価値っていうものっていうのはどういうもので付加されるものなんですか?」

森永「それもブランドによって違いますけど、ファッションの世界だと、そのブランド価値の付け方として一番分かりやすいのがパリ・コレクションという舞台です。」

山口「そういったファッションのコレクションにブランドが出ていくことで、そのファッションブランドの価値がどんどん上がっていくっていうことなんですね。」

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山口「僕、今回森永さんとパリコレでお仕事をさせてもらって、ファッションというものってどういうものなのかがいまいち分かっていなかったんですが、一緒にお仕事することによって始めて、ショーが出来るまでの過程を見させてもらって、服がない状態から、テーマがあって、服が出来上がっていって服を作るっていうのは、こんなに思想があったり哲学があったり、テーマがあるものなんだなっていうのをリアルに体感できたんですね。それがあってファッションと服として転化されて、パリ・コレクションの舞台で消化するというか、花開くという流れなんだと分かった時に、僕はミュージシャンなので、音楽を作っていく過程とどこか通ずるものがあるんだなって思って。すごく勉強になりました。」

森永「やっぱり、ファッションは形があるので、洋服という目に見えるもので、見たことのある形を作るんですけど、すごく大事なのは、形だけ作れば良いということではなくて、そこにそのブランドが何を込めて、どういう思いでそのものを作っていくかというのが実は一番大事なところで。それはやっぱり目に見えないものになっていくんですけど。そこを支えていくのがテーマであったり、コンセプトであったり……そういうものですね。」

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山口「僕らサカナクションとANREALAGEの出会いは、2013年のSAKANAQUARIUM2013“sakanaction”の幕張メッセと大阪城ホールで、光で色が変わる衣装を森永さんに製作してもらったんですよね。僕、最初に森永さんにお会いした時に、怖い人だと思いました(笑)。」

森永「ふふふ(笑)。」

山口「だって、森永さん眉毛ないし(笑)、髭も斎藤道三みたいな感じで、髪も坊主だし、もみあげは長いし……(笑)。でもお話をしていくと、すごくストイックな方で、演出とかもね、その舞台でどうしたらいいかって話をして、工夫したりして面白かったんですけど。そこで一度ご一緒してから、今年の1月にNHKスペシャル『NEXT WORLD』で森永さんが衣装を手がけていて、僕らが演奏をする形で出させていただいた時にもう一度一緒にお仕事をする機会があって、そのあと『NF』っていう僕らがやっているイベントで衣装を展示させてもらったり、トークセッションをさせてもらったりして関係が続いていった中で、今回、パリ・コレクションにお声掛けをいただいて、音楽を担当させてもらうことになったわけですね。」

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森永「はい。」

山口「僕ね、実は、(パリコレの音楽)やりませんか?ってお話をいただいた時、すし好でお寿司食べてたんですよ(笑)。」

森永「ふふふ(笑)」

山口「すし好でお寿司を食べていて、森永さんから電話だって思って出たら、「パリ・コレクションで世界を変えませんか?」ってお話を頂いて……なんか、急にすし好からすごい世界の話になったなって感じだったんですけど(笑)。僕らに声を掛けてくださったのはどうしてだったんですか?」

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森永「僕は、去年からパリ・コレクションに出て、そこがすごくマジョリティの王道の世界で、その中で自分たちが新しいことをやったり、今までにないことを洋服でやってやろうと思っていて、何か自分たちが出ることで揺るがしたいということもありましたし、ひとつまた新しくファッションを進めていきたいっていう気持ちもあったんですね。2回コレクションを発表したんですけど、ファッションショーっていうのは、洋服を見せるだけではなくて、そこに来た人たちが何を感じて、それをどう人に伝えていくかっていうところに対してアプローチをするもので、そこに必ず音楽があるんです。これは本当に、誰が決めたのか分からないんですけど、常にファッションショーというのは音楽と洋服が一緒にその場所で合わさっていて。僕らもずっとオリジナルで音楽を作って発表してきたんですけど、ロックを手がけているサカナクションがこの場で何かをしてくれるんじゃないかなっていう勝手な期待感がすごくあって。今までにないことを純粋にやってみたかったんですね。これはサカナクションだなって思ったんです。」

山口「わー……これは本当に嬉しいですね。」

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山口「今回のパリ・コレクションのショーでは、僕らはバイノーラル・レコーディングといって、空間の音をそのまま録音できる、ヘッドホンでしか体感できない技術を使って音楽をやらせてもらったんですけど、今までコレクションをヘッドホンをして観るショーってあったんですか?」

森永「ないです。ありえないです(笑)。」

山口「ありえない……(笑)。それを聞いた時に、大丈夫なのかなって思ったんですけど。だって、パリコレの舞台ですから、すごい大きな帽子をしている人もいるだろうし、髪型を崩したくない人もいるだろうし。ヘッドホンをしなかったら何も分からないショーって大丈夫かなって思っていたんですけど、意外とみんなヘッドホンしてくれていましたよね。」

森永「してましたねー。」

山口「だから、みんな好奇心はある人たちなんだなって思いましたね。」

森永「すごく伝統的な世界なんですけど、新しいことにはすごく敏感で、まずは自分たちもそれを試してみようっていう好奇心をたくさん持っている人たちが集まっている場ですね。」


■ANREALAGE 2016 S/S COLLECTION


山口「コレクションというのは、パリだけにしかないんですか?」

森永「パリ、ミラノ、ニューヨーク、そして東京です。やはり、パリに一番有力なジャーナリストと有力なバイヤーといって、洋服を買いつける人たちが集まります。」

山口「だからパリ・コレクションっていうのが重要視されるんですね。」

森永「そうですね。」

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山口「パリコレって、世界中の全てのブランドが参加できるわけではないんですか?」

森永「パリ・コレクションって、10日間しかないんですね。10日間で、1時間に1つショーがあったとしても、1日10ブランドくらいしかショーができないので、全部で100ブランドくらいなんです、世界から。そこに入っていくというのはすごくハードルが高いことで、もちろんブランドの数なんて数えきれない程ありますし、すごく厳格に選定されていますね。」

山口「パリ・コレクションって年に何回あるんですか?」

森永「年に2回です。ファッション業界は、ファッションを季節で分けていて、春夏と秋冬。その2回をどんどん入れ替えていって、消費のサイクルを作るっていうのが基本なんです。」

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山口「ということは、年に2回コレクションをやらないといけないっていうことですか?」

森永「そうです。年に2回やって、全部自分のやったことを新しいことに入れ替えないといけない。」

山口「じゃあ、僕らで言うと、1年に2枚アルバムを作るみたいなことですよね。」

森永「うん、そうです。」

山口「じゃあ、今回のパリコレは“REFLECT”っていうテーマでやっていましたけど、次のテーマも考え始めているんですか?」

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森永「本当はもう決まってないといけないくらい。……決まってないですけど(笑)。」

山口「本当に大変ですね……。」

森永「それがファッション界のすごく難しいところで。例えば、1回だけすごく夢のあるショーやファンタジーを描くことって出来るかもしれないけど、それを永遠と継続して何回も何回も繰り返していけるかというところなんですよね。」

山口「僕ね、日本人って人と違うことが美しくないっていう美徳があると思うんですね。中学や高校は制服だし、大学になると社会に出る準備として私服になって、社会人になると背広だったり、スーツになるわけじゃないですか。人と違うことが面白いとか美しいということがファッションの原理としてあるとしたら、日本の中では難しいことじゃないかと思うんですけど。ANREALAGEを立ち上げようとか、ファッションの世界に入ろうと思った理由はどこにあるんですか?」

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森永「もともとファッションは着る側の人間だったんですけど、自分のすごく身近に、大学時代の先輩に洋服を作っている人がいて、洋服を作るっていうことは、そこにすごく思想があって、デザイナーの想いがあって、悩みがあって、すごく混沌としたところから洋服が出来上がっていく場面を先輩の側で見ていて。その様子を見て、自分もこの人のように洋服を作ってみたいと思うようになったんですよね。自分も洋服を作るようになって、作った服が溜まっていくと、発表したくなってきて。発表するには自分の作った洋服に値段をつけなくてはいけなくて、その値段をつける、イコール、ブランドになっていくんですけど。」

山口「ブランドを立ち上げた当初は、値段を付けた服は売れたんですか?」

森永「これは顕著に、安ければ売れるっていう。学生時代で、2000円とかでジャケットを作っていたら友達に売れるんですけど、それが20000円のジャケットだったら売れない。その20000円のジャケットを作っているブランドと自分の服には何の差があるんだろう、どうしたらその価値を生み出せるんだろうっていうことを考えているうちに、コレクションをやるようになったり、人と違う発表方式をとるようになったりしました。違うっていうことに価値があるのがファッションなんです。人と違うっていうことが、すごく価値のあるものなのかもしれないとしてくれるのがファッションのすごく良いところですね。」

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そろそろ今回の授業は終了の時間になりましたが、来週も森永邦彦さんをゲスト講師にお迎えして、お話ししていきたいと思います。

「みんな、ファッションについていろいろお話を聞けることはなかなかないと思うので、森永さんの話をよく聴くように。先生も今、すごく勉強になっているぞ。ということで、今回の授業はここまで。……そういえば今週末、11月1日に『情熱大陸』が放送されるぞ!パリコレでの、先生の髪の毛がベッタベタの姿とか(笑)、森永さんも登場するのでね。ぜひ観てもらえたらと思っております。」

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