5/7 「アレンジ」

サカナクション

サカナクション、山口一郎先生による「音で学ぶ」「音を学ぶ」「音に学ぶ」授業、サカナLOCKS!。今回の授業、テーマは・・・

サカナクション

「今夜は僕らの楽曲制作の過程を、生徒諸君に見ていただきたいと思います。"アレンジ" についての授業をやりたいと思います。皆さんが普段聴いている音楽、つまりSCHOOL OF LOCK! で流れたりしている音楽はアレンジされているもの、出来上がっているものです。」

「それが出来上がるまでという、過程が必ずあるわけですよ。皆さんが聞いているのは100。0が100になるまでの "過程" それを皆さんに、ちょっとでもお話ししていけたらと思っております。」

実は、山口先生がこの『音学』の授業を始めるにあたり、いちばん最初に言っていたのが、「音楽の裏側を紹介したい。」ということでした。裏を知ることで、表の事を更に理解できるようになる、ということなのです。

サカナクション

「音楽を作っているのは皆さんと同じ人間です。特別な人が作っている訳ではありません。もちろん才能がある人はたくさんいるし、努力家もたくさんいると思います。そういう人たちがリアルに音楽を作っているその過程。つまり、日常ですね。そんな日常の中で作られている音楽、ということを知ってもらう事で、音楽の素晴らしさを更に体感してもらえるんじゃないかと思いまして、今回サカナLOCKS! では『アレンジ』というものを授業にしていきたいと思います。」

サカナクション

今回の『アレンジ』の授業、教材として山口先生が選んだ曲は、サカナクションの5枚目のアルバム『DocumentaLy』に収録されている、「エンドレス」という楽曲です。

エンドレス
サカナクション
(from AL『 DocumentaLy』)

サカナクション

「アレンジの授業。今回は「エンドレス」ができる過程を、デモ音源とともに皆さんにお聞かせしていきたいと思います。これはね、本当に "音学の授業" っぽくなってきましたよ。結構、気合い入れて話していかないといけないんでね。みなさんちょっと難しくなりすぎちゃったらごめんなさい。」

「まず、この曲がどういう経緯で生まれ、なぜアルバムに収録されていったのかという話をします。まずね、サカナクションは『DocumentaLy』って言うアルバムを作る前に、シングルをリリースする事になりました。その、シングル曲として、実はこの「エンドレス」という曲を制作し始めたのです。」

サカナクション

シングルの役割とは何でしょうか。
山口先生の解説によると・・・「名刺代わり的なもの」だそう。

シングルをリリースするタイミングでラジオ局にプロモーション(宣伝)のために番組に出演したり、雑誌のインタビューでその曲が生まれる経緯を話したりする。たくさんの人に、サカナクションの音楽に触れてもらうため・・・という目的がある訳です。

既にファンになってくれている人が求めているもの。
そして、サカナクションを知らない人に対しても残るもの。

このふたつが、シングルでの狙いです。しかも、サカナクションにとって、このタイミングでリリースするシングルには、アルバム『kikUUiki』後に、世に出る新曲としての「パンチ力」のようなものが必要だったのだとか。また、サカナクションというバンドにとってのシングルの意味もあります。それは、自分たちのストーリー、物語がキッチリと刻まれていること。

サカナクション

ところが、この「エンドレス」という楽曲は、シングルとしてはリリースされず、最終的にはアルバムの1曲として発表されました。それには、どんな理由があったのでしょうか。

「なんと、この「エンドレス」には、"幻のBメロ" というものがあります。Bメロっていうのは、楽曲の構成で、まずAメロがあって、サビ前につなぎとしてあるBメロ。サビを引き出させるためのBメロ、というのが考え方としてあると思うんですけど、僕らの場合は違いました。
このBメロを最初にもってきて、"イントロBメロ" みたいなのにして、そこからAメロ〜Bメロ〜そしてサビ!というような、ちょっと特殊な構成を使う事で皆さんの耳に残るものにしようとしたわけですね。Bメロを頭にもってくることで、これをサビだと錯覚させる。
サビだと錯覚させておいて、この後Aメロがきて、またBメロがくると、「あ、サビはこれだったんだ」と思わせといて、更にかぶせる、大サビがくる!・・・つまり、いい意味での裏切りが2回来るという事が、このエンドレスをシングルとして発売するときの狙いだったのです。」

「・・・しかし!」

「この曲を作っていく上で、シングルとして成立しない理由が出てきました。それは何か。・・・歌詞だったんです!
シングルとして最も重要なエッセンスは、アレンジでもありますが、同じくらい重要なのは歌詞なのです。バンドとしてのストーリーを刻まなければならないシングルに於いて、言葉の内容がすごい重要であるにもかかわらず、メロディが複雑である・・・つまり、狙いが大きいものであるがゆえに、"言葉が乗らなくなってきた" のですね。これはすごく大きな僕らにとっての誤算でした。」

「展開力が大きい楽曲だと、歌詞も展開していかないといけない。例えば、Aメロ〜Bメロ〜サビとあれば、Aメロでつかみ、Bメロでつなぎ、サビで落ちる。そういった展開が増えていくと、言いたい事を端的に言えない。言葉が説明臭くなっていくんですよ。」

サカナクション

山口先生は、自分の歌詞を書く能力を過信したために、複雑な楽曲構成にサカナクションのストーリーを盛り込むことが出来なかったため、「エンドレス」はシングルとして完成しなかったのです。そして、シングル曲としての "解りやすく、たくさんの人に聞いてもらう" という意味でも、この曲はふさわしくないんじゃないかということで、アルバム収録用に、シフトしていく事になった訳です。

「サカナクションは、メンバーが5人いて、僕ひとりの考えだけじゃなく、5人の全てが、この1曲に詰め込まれていく訳で、シングルとして完成しなかったものをじゃあ、アルバム収録用として作っていくには、どう変化させていくのか。そこを5人で一生懸命、話し合って完成したのが、アルバム『DocumentaLy』に収録されている「エンドレス」です。」

「僕はアルバム用の1曲として、あらためて歌詞を書き、作っていったことで「エンドレス」は、本当に完成したと思っています。このとき作り上げて、そして消えていった "幻のBメロ" ・・・これもいつか、他の曲になるかもしれない。そういうふうに音楽というのは、皆さんの知らないところで、生まれて、消えて、生まれて、消えて・・・。そして100パーセントになって届いていくわけでございます。」

サカナクション

アルバムに収録された「エンドレス」は、構成を再考することで、歌詞の部分でのサカナクションのストーリー性、そして山口先生が言いたいメッセージが端的に言えるようになったそうです。

「皆さんが、これから大きくなって、就職して、いろんな仕事に就く人・・・大学に行く人・・・いろんな人生があると思いますけど、僕らも同じように、皆さんと同じ学生時代を経験し、そうやって生きてきて、今、音楽をやっているわけです。なのでね、いろんな苦労が生まれるまでにあるし、表で出ている部分と裏にある部分、それのバランスをとりながら音楽を作っていって、そのリアルが届いて、心に響いて、皆さんに聞こえているんだという事をちょっとでもわかっていただけると、音楽の聞き方、楽しみ方の視点が増えるのではないかなと思います。」

「生徒諸君、今回の授業で『アレンジ』ことを、少しわかっていただけたでしょうか?先生はこれからも、新しい曲を生み出していくし、生徒諸君の期待に応えるような曲を一生懸命作っていくつもりだけど、今日、話した事を頭にちょっと浮かべながら、これから出てくる新しい曲を聴いてもらえたりすると、印象が変わるのじゃないかなと思っております。」

サカナクション

以上で、今回の "音学の授業" は終了です。
さて来週は、宿題として生徒諸君に提出してもらった "架空のロックフェス"『黄昏ロックフェスティバル2012』に、サカナクションが出演した場合の曲順!・・・これを採点していきますが、今週は新たな宿題も出します!

サカナクション

今回は
『小論文』の宿題です。
テーマは・・・

「音楽と映像の関連性について
(プロモーションビデオに対するものとする。)

これについて、140文字で述べよ!
今回は小論文なので、ヒントはありません。ノーヒントです!とりあえず、音楽と映像の関連性・・・、例えとしては、プロモーション・ビデオ (ミュージック・ビデオとも言いますね)。140文字と言っても、別にTwitterでツイートしろ。と言っているのではありません。皆さんが身近な、140文字という文章で、音楽と映像の関連性について、小論文を送ってきてください。どんなことでも、君が思ったことを自由に書いてください! 待ってます!!

サカナクション


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