5/28 「主題歌」

サカナクション

「はい!授業をはじめますので、席についてくださ~い!
 手に持ってるマンガを、机の中にしまいなさーい♪」

先週の生放送教室の授業のとき、「山口先生、怖い!」という意見が多かったため、今回は明るめのハイテンションで授業スタートです。

「……うん、でもこの感じ、疲れるね (笑)」

サカナクション

山口先生、実は厳しくしているつもりは、ないんですよ。生徒のみんなに、音楽の事をもっと知ってほしいから、伝えたい事があるから。それで口調が強くなってしまうのです。しかしそれも "愛情" です!生徒の皆さんは、その辺を踏まえつつ、サカナLOCKS! の授業に参加してください。

ということで、今回の "音学" の授業は「主題歌」についての授業をお届けします。

いよいよ今週、5月30日(水)にリリースされる新曲「僕と花」がドラマの主題歌になっているサカナクション。
アーティストにとって「主題歌」とは何か。
ドラマのために曲を書き下ろすとは、どういうことなのか。
前回、5月21日の生放送教室から、さらに深い授業になりそうです。

サカナクション

「主題歌と言っても、ドラマや映画、アニメとかもありますね。そういう作品のテーマ曲を作るという事ですね。つまり、いままで自分たちのためだけに作っていた曲が "他の作品の一部になる" という、そういった要素が含まれた作曲方法になっている訳でございます。まあ最初に、"ドラマの主題歌をやらないか" というお話をいただいたときに感じた事なのですが、僕らは自分たちの事をロックバンドとは思っていませんが、ひとつ "ロックバンド" というカテゴリーがあるとして、その枠組みの中で考えられているバンドだろう……そう、自分たちを客観視しました。その "ロックバンド" が、ドラマの主題歌をやるという事は、ポジティブな事なのか?ネガティブな事なのか?それを考える必要があったんですね。……自分の好きなバンドがドラマの主題歌をやることになったら、一体それを、自分はどういう風に捉えるのか……、嬉しいのかな?それとも有名になる事が寂しいのかな?売れるためにやってるのかな?……いろいろ、ネガティブに捉えることがたくさんあったんですね。そのネガティブにとらわれないように───

サカナクション

*自分たちが主題歌という責任を果たす事ができる
*ドラマに合った曲である
*サカナクションのファンをいい意味で期待を裏切った答えでもあり
*サカナクションの事を知らない人たちに、どういう印象で受け取ってもらう曲にするか。


───これが、ドラマの主題歌を作る上でポイントになったところですね。
台本を事前に頂くのでだいたい内容は解っていました。医療系のドラマだという事で、内容も非常に真面目というかシリアスなヒューマンドラマでした。僕らはちょっと真面目な人たちの集まりなので、これがコメディのドラマだったら主題歌を作るのに苦戦したんですけど、ドラマ的に自分たちのスタイルを貫く事が容易にできる内容だったので、自分たちらしさを追求して作り始めていった訳でございます。そして難しかったのは、ドラマの主題歌というのは歌でなければいけないということです。」

サカナクション

ここで山口先生の発言に注目してみましょう。

"ドラマの主題歌が歌でなければいけない"

これはどういう意味なのでしょうか。
主題歌なのですから、歌なんじゃないんでしょうか。

「これは、ドラマの主題歌として流れてきたときに、ニュアンスとして聞かれる事になる……と、それは損だなと。インストが流れているのと同じようになってしまう。ちゃんとドラマの一部にしっかりなるためにも、歌、つまり言葉がドラマとシンクしていかなきゃいけない。そういう必要性があるんじゃないか、そう思いました。それとね、サカナクションが好きだって言ってくれる人たちの期待を、どういう風にいい意味で裏切って、サカナクションを知らない人たちに対してどう期待に応えるか。そこで自分たちがとった手法は、『原点回帰』です。」

サカナクション

『原点回帰』

「最近の「アルクアラウンド」だったり、「アイデンティティ」であったり、「ルーキー」っていう曲であったり、『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』っていう曲であったりですね、そういうエンターテイメント性の高い曲を、こういうシリアスなドラマにハメるというのはですね、ちょっと危ないなと。なぜ危ないかというと、"ロックバンドが出てきた" という見られ方をすると、ドラマの中で曲がニュアンスとしてとらわれてしまいやすくなる。応援してくれる人たちからすると、サカナクションとしての期待には答えられているけど、ドラマの一部としての期待には応えられないんじゃないかなと、そういう読みを取りまして。さらに10時台の放送なので、ドラマを見る方の年齢層も、きっと高いだろうと。そこで、僕らがあまりオーバーグラウンドを意識せずに曲を作っていた頃の原点…… "好きな事をやりたいけど、広めたい" と思っていたピュアな頃の曲の特徴……、ファースト・アルバムの『GO TO THE FUTURE』であったり、『NIGHT FISHING』っていうセカンド・アルバムに入っていそうな曲……、たくさんの人に聞いてもらえるチャンスの中で、それを曲のテイストとして出す事で、サカナクションの印象が良いところに落ち着くのではないかなと。サカナクションを好きだった人には「初期っぽい、ファーストっぽいね」と言われるし、サカナクションを知らなかった人は「懐かしいメロディで、落ち着いてるけどちょっと踊れて切なくて好き」って言われる。これが "テレビ" って枠で印象づけたときに、最も的確なポジションになるのではないかな、そう思いました。」

サカナクション

そう言われると確かに「僕と花」は、初期のサカナクションを思わせる楽曲です。このような制作の流れ、このような音楽の裏側があったわけです。さあそれではここで、その「僕と花」制作期間中の、山口先生のTwitterを見てみたいと思います。Twitterについては常々、山口先生が言ってます……

"音楽を作っているのは皆さんと同じ人間です。そういう人たちがリアルに音楽を作っているその過程……つまり「日常」ですね。Twitterを通して、日常を、音楽の裏側というものを知る事ができる"

サカナクション

ドラマ主題歌を作りながら山口先生は、どんなことを思っていたのでしょうか。

2012年3月10日(土) 午前1:23
今回挑戦している事も非常に難しい。書けない。
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→ドラマの中で自分がどういう歌詞を書いたらいいのか見えてないときのツイート。

2012年3月12日(月) 午前0:44
歌詞、書き上げた。まだ改訂するから完成じゃないけど一段落。長かった。
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→このとき書き上げた歌詞の内容は、ドラマの物語の以前のストーリー=プロローグを想像したものだった。

2012年3月12日(月) 午前6:32
改訂終了。きっとまた改訂だろうけどなんだかすっきりした。新しい事に挑戦できるということは素晴らしいが難しいね。寝る。
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→完成した歌詞をドラマ制作側に、まだ送っていない。"きっとまた改訂だろうけど" というのは、ドラマ側に送った後、また改訂の要望がくるだろうけど、とりあえず書き終えたという達成感から「なんだかすっきりした」ということ。「ドラマの主題歌をやるということは本当に難しいが、新しい挑戦ができる事は素晴らしい事ですね」と伝えたかった。

2012年3月12日(月) 午後8:33
歌詞再改訂のお達しがきた。改訂というか最初から書き直す事になると思われます。故にまた潜りますので、何卒宜しくお願い致します。
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→「寝る」とツイートしていたのに、電話で起こされた山口先生!"プロローグという設定自体が違うのではないか?" というドラマ側の意見をもとに、最初から書き直す事に。実はこの時点で、楽曲制作の締め切りが過ぎているための文末「皆さんすみませんが、よろしくお願いします」。

2012年3月14日(水) 午前11:46
歌詞、書き上げたよ。感情の筋肉で言葉の壁を持ち上げた感覚。寝る。
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→山口先生によれば「これ注目です!まだ歌詞を書いているモードが抜けていないため、言葉が難しくなっている(笑)」というツイートだそうです。


──以上、面白いですね、Twitter。本当に音楽の裏側が少し知れてしまいました。ということで、最終的に書き上げられた、主題歌「僕と花」の歌詞は、どんな内容になったのでしょうか。

サカナクション

「これは、ドラマをすべて見終わった視点の曲を作る事にしたんです。つまり、ドラマを見ていくと、ちょっとずつ、ちょっとずつ歌詞の意味が分かっていく。そのキーワードも伝わっていく訳です。現在もドラマは放送中なので言えない事もたくさんあるんですけど……。例えば、"僕の目ひとつあげましょう だからあなたの目をください" っていうのは、ここでは、体の一部の "目" の漢字を使っているのですが、これを花の "芽" とすると、……美しくありませんか?つまり……

僕の "芽" = 始まりをあげましょう。
だから、あなたの "芽" = 始まりを下さい。


という事なんです。」

サカナクション

おお、すごい。まさに山口先生が、深く深く潜って辿り着いた言葉たちです。生徒の皆さんは、あらためてじっくりと「僕と花」を聴いてみて下さいね。さあ「主題歌」の授業をお届けしていますが、本日の最後に、制作の締切を過ぎていたスケジュールの中で、ドラマ制作の皆さん、そして、サカナクション自身が向き合っていける作品にするために、山口先生が歌詞を再び書き出せたキッカケは何だったのか、話してくれました。

サカナクション

「歌詞はドラマとリンクしなければいけないわけですが、サカナクションの新曲としてもリリースされるし、ライブでずっと演っていかなければいけないわけですから、自分たちのストーリーもちゃんと曲に反映させていかなければならない。ドラマのストーリーと自分のストーリーをうまく結びつけていくには、やはり、ドラマの中の主人公や内容に深く共感しなきゃいけないんです。しかし僕は医者じゃありませんし、37歳でもありません。このドラマの中で唯一共感できる感覚は、主人公が "新しい事に挑戦して、その世界の中で葛藤していくこと" だったんです。それは普遍的なことで、今の音楽シーンの中で僕が、いろんな事に挑戦していって、音楽が好きな人が増えていってほしい!っていう、その気持ちになんか重なると思ったんです。つまり、ドラマの主題歌をやる事が、僕らにとって挑戦だったし、それをどう受け止めてもらうかっていうのを考える事自体がドラマの主人公と心境がかぶったんです。歌詞の内容がドラマとリンクしなくても、"挑戦" 自体が、実はドラマの中のストーリーと一致しているんだという事に気づいたところで、僕は少し書き始められた訳です。」

サカナクション


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