写真 海は見えなくても、車の窓を開ければ、どこからか潮の香りが入ってくる。間違いない。ここは島だ。
夕暮れの一本道を延々と走る。山は深く、海は広い。緑と青、紫とオレンジが交互に顔を出す。
人は、顔を出さない。いない…空港から車で30分。車とはすれ違ったが、まだ歩く人間の姿を見ていない。
「ああっ!!!」
校長と教頭が同時に声を上げた。
「人いた!!」
自転車に乗った、中学生らしき5、6人。
「あ、また!」
またいた中学生らしき3、4人。
「また!また中学生!(笑)」
いや高校生かもしれないが、『あの話』を聞いていた僕らには、中学生に見えて仕方なかった。
夕暮れの奄美には、自転車と中高生。これがセットらしい。学校帰りなのだろうか。結局、ホテルに到着するまで、道を歩く大人には、ほとんど会うことがなかった。


立志式、というものが、奄美大島では毎年行われている。
14歳。中学2年生の年に、志を立てる。奄美以外にもやっているところはあるらしいが、今の目標を大人の前で宣言する、決意表明の儀式だそうだ。武士の元服にも少し似ている。

SOUTH BLOWの碩 (せき) くんと創 (はじめ) くんから、その話を初めて聞いたのは、8月上旬だった。
奄美で生まれ、奄美で育った2人は、6年前、大好きな音楽活動を続けるため、島を離れて大阪へ飛び立ち、そしてSOUTH BLOWとして、2004年11月、インディーズでファーストミニアルバム『SOUTH BLOW』をリリースした。
ラジオから流れてきたSOUTH BLOWの曲は奄美に届き、島の中学校から、「私たちの立志式に、メッセージをもらえないだろうか」という依頼が、彼らの元にやってきた。
バンドとして本格的に船出をした彼らにとって、うれしくないはずがない。
声を中学校の留守電に吹き込むという、ほのぼのスタイルで、自分たちなりのメッセージを島の中学生に送った。
間もなく、そのメッセージを受け取った中学2年生たちから、お礼の手紙が届いた。
お礼や激励の数々に微笑む2人。しかし、ある1通の手紙で、その微笑みは消えてしまった。

『私には、今、やりたいことが何もありません。夢もありません。だから立志式で胸を張って校歌を歌えませんでした…』

そのあとに「ゴメンなさい」がくっつきそうなほど、申し訳なさそうに書かれた手紙。
碩くんは、そのときの衝撃を振り返ってこう語った。
「ショックでショックで…あの、奄美の海と、奄美の空を見て育ったのに、夢ややりたいことがないとか、都会の子みたいなコトを言う子がいるなんて、信じられなかった」
島を離れて5年ほどの間に、島が変わってしまった…自分たちが知っている奄美ではなくなってしまった…
そんな寂しさがあったのかもしれない。