3月20日。
天気は雨。
卒業の哀しみをそのまま映し出したかのような濁った空の下、SHIBUYA TSUTAYA O-nestには、“もう一つの卒業式”に集った、天気とは裏腹な心持を抱いた少年少女の姿があった。
別れの寂しさと今後への不安が入り混じったような冷たい風が吹き荒ぶ屋外から会場に入ると、開演前とは思えぬほどの熱気、熱気、熱気。
これから目撃する祝祭的瞬間を待ち焦がれる、5000を超える応募の中から選ばれた125組250人の卒業生(とーやま校長曰く奇跡の人)達の期待と興奮に包まれていた。
胸の高鳴りと共に熱くなる体温が、今日という一日が人生において大切な記念日になるであろうという言い知れぬ予感を、確固たるものにしてくれる。
午後4時過ぎ。
いつもはラジオから聞こえるギターチャイムが、ライブハウスに満ちていく。
ひとりきりの部屋の中で、何度この残響を聞いただろう。
毎日の生活の中で、夜10時に流れるこのフレーズを、何度待ち侘びただろう。
そんなことを考えていると、大歓声の中“10代のカリスマ”とーやま校長とよしだ教頭が登場。
「卒業、おめでとう!!!」
十人十色の学校生活を送ってきた生徒達に寄り添うようなMCが、高揚感に追い打ちをかける。
テンポの良いトークとコミュニケーションでフロアの温度が沸点を超えそうになったところで、いよいよクリープハイプ先生の登場だ。
卒業式の幕開けはキレの良いギターストロークに始まる『左耳』。
とんでもないハイスピードでボルテージを上げる観客を畳み掛けるように、続くアッパーチューン『手と手』へ。
強靭なロック・アンサンブルで、狭い空間はぐんぐんと熱量を帯びていく。
「卒業おめでとうございます」
「卒業という事で未来の曲を」
とプレイされたのは『オレンジ』。
250人の歓喜が世界を揺らし、一糸乱れぬハンドクラップが祝福ムードの更なる盛り上がりを見せる。
卒業式らしい湿っぽさを微塵も感じさせないバンドとオーディエンスのグルーヴが印象的だった。
その後も『おやすみ泣き声、さよなら歌姫』『ラブホテル』『憂、燦々』といったライブアンセムを次々と投下し、フロアは汗と笑顔に塗れていく。
爆発的な青いエネルギーの解放が、素晴らしい瞬間をいくつも生み出す、なんとも眩しい光景だった。
「好きだったものを嫌いになる瞬間ってきっと来るだろうけど、ここに来たことは消えないから。SOLやクリープハイプを聴かなくなっても、きっとまだあるだろうし。でも、忘れないよう、歌で傷つけておきます」
そんなMCから始まったのは、『傷つける』。切ない声が観客の心臓を鷲掴みにし、今この瞬間の空気を震わせる。
終演後のインタビューで、尾崎先生は「普段あまりやらない曲なんですけど。今日はやりたいな、覚えておいてほしいな、と思いながら演奏しました。」と話してくれた。
あの心臓が揺れる感覚を、わたしはきっと忘れないだろう。叫び出したいほど優しくて、泣き出したいまでに美しい、とてもエモーショナルなひとときだった。
終盤。
まずはイントロのベースラインで早くも熱狂だった『HE IS MINE』。
「絶対に言うなよ!朝日新聞が来てるんだから、今日だけは絶対に言うなよ!保健体育の時間だよ」
といった煽りから、お決まりの「セックスしよう!」コールで唯一無二の一体感を編み出し、圧倒的な多幸感を滲ませる。
尾崎先生は「よくできました」といたずらな表情を見せ、その後はちきれんばかりの「最高です!」の大合唱を生んだ『社会の窓』で刺激的に大団円。
鳴り止まない拍手に応えて、アンコールで再び登場した4人は、『風にふかれて』を披露。
心地よいリズムに揺られながら、《君はまだ生きる/生きる/生きる/生きるよ》というメッセージが、鮮烈かつ優しく響き渡った。
濃密で、至福な1時間。卒業という大きな節目を迎えた私達にとって、特別な日になったことは言うまでもないだろう。
新たな始まりという意味で、クリープハイプ先生も例外ではないのかもしれない。
“これまで”への称賛と、“これから”への愛が詰まった最高のアクト。
終演後、外に出ると雨はもうほとんど止んでいた。時代に今を刻む私達の、一生ものの春がここにある。
千葉県RN るるるー