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ON AIR BLOG / 2016.11.30 update


今日は韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が昨日、任期満了前に辞任すると表明したニュースです。
解説して頂くのは、毎日新聞夕刊編集部、堀山明子さんです。

Q:堀山さんはソウル特派員もされていたので解説をお願いします。そもそも、どうして突然、辞任表明したのですか?
A:大統領は、40年来の親友である女性を、国家公務員でも秘書でもないのに演説草案を見せたり、彼女が設立した財団の資金集めに関与したりした疑惑が浮上していて、この親友は先日、職権乱用罪で起訴されました。大統領は在任中は起訴などされないのですが、検察は共謀した可能性があるとして、大統領を容疑者として調べる方針を示しています。こうした疑惑を受け、大統領の退陣を求める市民デモが5週連続で起き、計100万人が参加しました。国会では野党が弾劾訴追案を準備していて、憲法の手続きにのっとって大統領を辞めさせようという動きが出ていました。そこで、先手を打って、大統領が辞めると宣言したわけです。辞めるのは仕方ないとしても、名誉ある退陣の形を取って朴政権のレガシーを守りたい、あるいは、次の大統領選で野党が勝利しないような環境をつくりたいという考えがあるのでしょう。

Q:そうすると、いつ辞めるのですか?
A:それはまだ決まっていません。昨日の会見では「国会の決定に従う」と、時期や手続きについては与野党協議に従う姿勢を見せています。韓国大統領の任期はもともと2018年2月までで、大統領選は来年12月に予定されていました。大統領を辞めさせる手続きというのは憲法上は、国会が弾劾訴追案を可決させて、憲法裁判所が半年の審議を経て弾劾を認められれば実現しますが、このシナリオの場合は夏ごろ辞任となります。しかし野党は実は弾劾訴追案可決に必要な3分の2議席を持っていないので可決できない可能性もありますし、可決されても、罪名によっては憲法裁判所が認めずに弾劾が失敗する可能性があります。弾劾は、国民に銃を向けるような内乱罪など重い罪を想定していますが、今のところ大統領の容疑は今のところ、人権弾圧や金銭ワイロのような次元ではないので、憲法裁判所は法的には国民感情とは別の判断をすることはありえます。

Q:弾劾も成功するとは限らないのですね。そうすると、辞めないってこともあるのですか?
A:国会に退陣の手続きを促した以上、いずれにせよ任期前にや辞めると思いますが。弾劾以外の道では、与野党が大統領任期を短縮する憲法改正案を出す、これが法的には筋ですが、与野党が憲法改正案に合意するのに時間がかかるので、前例はありませんが辞任と次期大統領選の手続きを定めた国会決議をするとか、何か新しい方法を模索するかもしれません。その場合でも、韓国メディアの報道によると、早くても辞任は来年春とか、5月とか、そんな日程のようです。そういう意味では、今回の辞任表明は、今の容疑では法的に弾劾は難しいことを見越して、与野党が分裂しているうちに変化球を投げた、国会が法的にちゃんとした退陣案が出せるのかやれるならやってみろ、という挑戦状のようにも見えます。

Q:そうやってゴタゴタした状態で時間がたつと、国内は混乱しませんか? デモ隊は即時退陣を求めているんですよね。数十万人が毎週集まるようなデモなんて、過去にはあったんですか?
A:100万人規模のデモは1987年の民主化運動以来と言われています。韓国は1960−70年代に朴チョンヒ大統領による軍事政権で国内の民主化運動を圧迫しながら経済発展を遂げましたが、80年代になるとデモ隊数千人が死傷するような流血事件が起き、盧泰愚政権が88年のソウル五輪成功を条件に大統領直接選挙を行うと国民に約束したのが1987年です。このころ私は韓国の大学に留学する前で何度かソウルを訪問していますが、市内はデモ隊を追い散らすためのマスターガスが頻繁に発射されて、涙がとまらなくて町を歩けないような状況でした。そのころデモをした市民が今50代になって、大学生の子供をつれて今回のデモに参加しているという話をよく聞きます。

Q:市民デモが大統領選挙を勝ち取り、今度は市民が選んだ大統領を市民が追い出すってことですか。直接民主主義が政治を本当に動かすのですね。
A:そうですね。朴チョンヒ大統領は朴大統領の長女で、保守的ではありますが、民主主義のプロセスを身をもって理解している政治家なので、民主主義を後退させないという信念は強いと思います。任期前に辞める道筋ができれば、それも民主主義発展という意味では、レガシーになるので、そのあたりを模索しているのではないでしょうか。

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